ようこそ、転生者様
「ルゥ、ルゥ!起きてよ!ビッグニュース!」
ゆさゆさと揺れる体に、なじみのある声。
首都から離れたこの小さな村でフォルという自身の名前をルゥと呼ぶ人物はひとりしかおらず、僕はゆっくりと体を起こしながら、その子の名前を口にした。
「レティ、うるさいよ、朝から」
「もう!朝って今何時だと思ってるの?今9時だよ?」
「9時って…、僕がまだこの時間は寝てること知ってるだろ」
「知ってるけど、今日はそれどころじゃないの!」
興奮したかのようにガシッと僕の肩をつかみ揺らしだす。
あぁ、やめてくれ。今起きたばっかなんだよ。
「わかった、話を聞くから揺らすのだけやめて」
寝起きで揺らされた内臓が悲鳴を上げているのが自分でもわかる。
そんな僕も見て申し訳なさそうに「あ、ごめん」というとレティは肩から手を離した。
「それで?なにがビッグニュースなんだよ」
寝ていたソファから降り、伸びをしながらレティに聞く。
どうせ、しょうもないことだ。
この間聞いたビッグニュースは、昨日黒猫が自分の前を横切ったけど何もなく一日を過ごせたなんて話だった。
僕のそんな気持ちをよそに、ふふんと鼻を鳴らしレティは口を開いた。
「なんと!今日この村に転生者様が来るらしいの!」
「……は?」
「今向かってるんだって!お昼ごろにはつくらしいよ!」
「……」
「どんな人だろうね?すごく楽しみ!」
「……」
「ルゥ?」
なんの反応も示さない僕を不思議に思ったのか、レティが顔を覗き込んでくる。
ハッとして、僕は笑顔を顔に張り付けた。
「本当に?この村に転生者様が来るの?」
僕の笑顔に安堵したのかレティは自信満々に言った。
「もちろん本当よ?だってピジーおばさまが言ってたもの!それに村の掲示板にも貼られてたわ!」
「そう、なら本当だね」
この村一番の情報通のピジーおばさんが言っているならそうなんだろう。
にしても最悪だ。
「? ルゥ、どこ行くの?」
ソファ横に置いてあるボロボロの靴を履いてドアのほうに歩けば後ろからレティもついてくる
「掲示板を見に行くんだよ。どんな名前の人かなって」
「私も行く!」
ギィーと今にも壊れそうな音を鳴らすドアを開ければ、太陽が僕を照らした。
まぶしい。
「今日もいい天気なの!洗濯物が良く乾くよ!」
「そうだね、天気が良すぎるよ」
「雨よりいいじゃない!」
「レティはね」
「雨なんてくせ毛の私には大敵だもの」
スキップをしながら僕の前に行くレティ。
確かに、雨の日は彼女の腰まである金髪の髪はぼさぼさになっていたなぁなんて思い出す。
くせ毛でない僕には関係ない話だ。
「ほら、これよ、これ」
しばらくスキップするレティの後ろをついていき、村の入り口にある掲示板の前に行けば、確かにでかでかと
『転生者様、今日の12時頃到着予定!』
と書かれた紙が貼られていた。
大きな文字の下にこまごまと詳細が書かれている。
「この名前なんて読むかわからないんだよね。ルゥ読める?」
その中に転生者の名前が書かれているが、どうにもレティは読めないようだった。
僕はその文字を読む前に、隣に貼られている紙を見る。
その紙にはいつものようにでかでかとこう書かれていた
『忌まわしき魔女を見るつけたら騎士団まで』
その文字の下には老婆が描かれていた。魔女っていうときっとこんなイメージだと思われているんだろう。
そんなことないのをこの村で知っているのは僕だけだ。
僕がその紙を見ていることを横目で見ていたレティは口を開く
「怖いよね。魔女なんて。でもこの村に転生者様が来るからもう怖がらなくていいんだよ!」
僕が怖がっていると勘違いしたのかそんなことを言う。
きっとやさしさから放たれた言葉なのだ。
レティは僕がその言葉にどれほど憎しみを抱いたかしらない。
無意識に右手をさする。
魔女が怖い?魔女なんて?
何も知らないくせに。
何も知らない分際で。
心の底でじわじわと湧き出す黒い感情を必死で押し殺す。
落ち着くために目を閉じれば、あの人の顔が、あの人の笑顔が僕を冷静にさせた。
大丈夫。僕はまだ、冷静でいれる。
そう、まだ。大丈夫だ。
「こんにちは、この村の人かな?」
大丈夫だろ?師匠。
師匠が教えてくれたこと、僕だけはずっとずっと心に残してる。
たとえ憎くても、たとえ殺したくても。
「ようこそ、転生者様」
僕はそれを隠して笑うことができる。
師匠がそういったから。




