吾輩は迷宮都市に向かう
傾斜の緩い屋根の上で朝日を浴びながらあくびを漏らす綺麗な黒猫。
吾輩である。
魔力を抑えることに成功した吾輩は屋根の上を寝床にして一夜を越した。
時計のないこの町は朝日と共に人々は動き出すようだ。
ふと、今いる屋根から見下ろすとそこには二頭の馬が括り付けられた馬車が一台と、その馬車に荷物を詰め込んでいる複数の人間たちがいた。
商人か何かだろうか? 時間も早いし。
ちょうどいい。あの馬車に乗って別の町に行くとしよう。
吾輩は屋根から降りて馬車の方へと向かう。
人間たちの動きを観察しながら少し待つ。しばらくすると、荷物を積み終えた人間たちは何やら話し合いを始めたのでコッソリと荷台へと乗り込んだ。
人間なら無賃乗車である。猫なら迷い込んだだけ。
荷台にある荷物の影に潜む。
お、縄が纏められているな。いい寝床になりそうだ。
吾輩は円形状に纏められている縄の内側に入って丸くなる。
うむ! いい収まり具合である。
あまりの心地よさに吾輩は眠りについてしまった。
次に目を覚ましたのは馬車の揺れのせいだった。
小石を踏んだのだろうか、ガタンと大きく揺れたため吾輩は不機嫌になりながらも起きあがる。
サスペンションが付いていないのだろう。舗装されていない道もあってガタガタと小刻みに揺れ続けている。
正直乗り心地は最悪である。
進行方向の方を見ると、御者台に見た目四十代くらいのおっちゃんが手綱を握っていた。
吾輩はググっと伸びをして御者台の方へと向かっておっちゃんの隣に飛び乗る。
「にゃ」
「おぉ。これは可愛らしいお客さんだ。迷い込んじまったのか?」
「にゃ」
「そうか。今更戻るわけにも行かないんだがなぁ」
「ふん」
「なんだ? このまま乗ってくつもりか?」
「にゃ」
「ふふ。なら短い旅だがよろしくな」
「にやぁ」
話の分かるおっちゃんでよかった。
ただ意味もなく鳴いてただけなんだけどな。
吾輩はおっちゃんの隣で伏せて腕を織り込んで、流れていく景色を眺めながらゆったりとした時間を過ごした。
*****
道のりでこれと言ったトラブルは起きなかった。
良い事なのだが、正直つまらない。
くわっと欠伸をして、固まった身体をほぐしていると前方に城壁かな? と思うほど高く立派な壁が見えた。
目を見開いて驚いていると、それを見たおっちゃんがふふっと笑みを溢して吾輩の頭を一撫でした。
ふむ。人間に撫でられると言うのはこう言う感じなのか。
なんか心地がいい。そんな感じ。
「あれが私たちが向かっている迷宮都市だ。すまないが、あの街から先には行かないから、君はあそこで降りてもらうよ」
「に」
元々次の町で降りるつもりだったから丁度いい。
門所で手続きがあるらしく時間がかかるみたいなので、人の流れをポケ―っと眺めることにした。
すると、馬車の護衛をしていたと思われる冒険者達が御者の方へとやって来た。
「わ、猫だ!」
「可愛い!」
四人組の冒険者らしく、そのうちの二人の女性が吾輩を見つけて近づいてくる。
頭や身体を撫でられている。
「大人しいな」
「フィンさんの猫なのか?」
冒険者の残り二人は男性。
その二人は大人しく撫でられている吾輩を見て、御者のおっちゃんに話しかけていた。
「いいえ。この子はどうやら前の町で乗り込んでしまったみたいなんだ。引き返すわけにもいかなかったから一緒に来たって感じさ」
「なるほど」
「大人しい子でね。騒がずに私の隣でじっとしてたよ」
吾輩やんちゃ盛りではないのでな。
それから順番が回って来るまでの間、吾輩は女性冒険者たちにちやほやされながら過ごすことになる。
吾輩は猫であるが元々は人間の男。若い女性にちやほやされるのは満更でもないのだ。
むしろ、猫になってよかったと再確認した。
吾輩たちの順番となり、冒険者たちと御者のおっちゃんが手続きを行っているのを傍目で眺めながらあくびを一回。
しばらくして、馬車は動き出し街の中へと入った。
門を抜けた先は人々の声で溢れかえっていた。
今の地球ではヨーロッパの方くらいでしか見かけないレンガ造りの建物。
石畳みの道。
行きかう人々。前の町も人は結構いたが、この街は規模も大きくそれに比例して人通りも多く、街並みもまた綺麗だった。
何よりも目を引くのは街の中央部にある大きな塔である。
時計塔と言うわけでもなく、他の建物と違って古くからある物のようだ。
ふむ。観光名所かなにかだろうか。
一回この街をほっつき歩いてみよう。
しばらく街を眺めながら馬車に揺られていると、一つの建物の前で停車した。
どうやら目的地のようだ。
「すまんな。ここが終点なんだ」
「にゃ」
吾輩はその言葉を聞いて、ありがとうと鳴いた後御者台から飛び降りる。
「またなー」
御者さんの言葉にゆらりと尻尾を揺らして、吾輩は人込みの中へと消えていく。
さて、吾輩を飼ってくれる人間はいるだろうか。
どんな出会いがあるだろうか。
吾輩はまだ見ぬ出会いに胸を高鳴らせながら歩いていく。
たまに猫と意思疎通出来てるんじゃと思える時ありますよねー。
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