吾輩は人里に向かう
森の中をトコトコとリズムよく歩いている美しい毛並みが特徴の黒猫。
吾輩である。
最古の龍であり、九尾のドラゴンことクレプスクルムと別れて三日ほどが経った頃の話だ。
快適な飼い猫生活を夢見て吾輩は人里探している最中である。
吾輩の夢を叶えるためにはまずは人の元へと行かなければならないのだが、三日森の中をさまよっても見つかる気配がない。
「にぃ」
どうしたものか。
虱潰しに探すのもさすがに疲れて来たしなぁ。
「にゃ?」
そんなことを考えていると、今まで木々によって遮られていた太陽光が吾輩を射抜く。
開けた所にでたようだ。
うむ! 心地よい光である!
周りをキョロキョロと見渡してみると、どうやら人工的なもののようだ。
車二台分くらいの広さで、ガタガタではあるがある程度均されているあたり、街道と言うやつだろう。
と、言う事はだ。
この道を辿って行けば人里に向かうことが出来る。
「にゃっ」
早速向かうとしよう。
そして街道を歩き始めて一時間くらいが経った頃である。
吾輩のキュートで優秀なお鼻が生き物のにおいを嗅ぎ取った。
森で嗅いだ動物や魔物? のようなにおいではない。初めて嗅ぐにおいである。
もしや人間では? と思った吾輩は機嫌よく街道を小走りで進んでいく。
それからしばらくして石造りの壁が見えてきた。
ビンゴ! 町っぽい!
*****
九尾の猫クロが町へと向けて歩いている頃、町では騒ぎが起きていた。
「【紅蓮の魔法使い】殿が強大な魔力を感知した! 兵士、冒険者諸君は直ちに南門へ向かえ!」
その号令に兵士や冒険者たちはぴりぴりとした雰囲気を漂わせながら南門へと向かっていく。
「【紅蓮の魔法使い】殿。我らも向かいましょう!」
町の衛兵所の中で蹲る少女に話しかける兵長。
「ダメ……ダメダメダメ……ッ! 無理よ勝てっこない……っ」
恐怖からか身体をガタガタと震わせている少女に兵長は困惑する。
幼い印象の少女であるが、彼女は王国でも上位に入る実力者。そんな彼女がこんな様子になるほどのナニかがこの町に向かってきている。
兵長は少女から離れて通信用の魔道具を起動して隣町へと救援要請をした。
「【紅蓮】殿。今、この町で一番強いのは貴女なのです。どうか、ご助力ください」
「あんた達にはわからないでしょうねッ! この馬鹿みたいに強い魔力が! 人間の許容量を遥かに凌駕しているのよッ!? 私たちがどんなに頑張った所で勝ち目は一切ないのッ! たとえ、私が何人居ようとねッ!?」
身を守るように頭を抱え込みながらまくしたてる少女。
戦えそうにない少女を見て兵士長は説得するのをあきらめて衛兵所から出ていった。
南門へと向かった彼は、厳重警戒態勢を取っている彼らを抜けて一番前へと出る。
そして、街道の方へと鋭い眼を向けて己も警戒態勢を取った。
*****
と、後でその町の猫たちから聞いた。
この頃の吾輩はそんなやり取りがあったとは露知らず、呑気にたったったと足早に歩みを進めていた。
「に?」
石壁に作られた門が見えて来た所で、吾輩は多くの人間たちがピリピリとした雰囲気を醸し出して警戒しているのを確認して首を傾げた。
何かあったのだろうかと不思議に思いつつ、吾輩は再び歩みを始める。
たったったと彼らの前まで来たところで、彼らの視線が吾輩を突き刺した。
だが、今の吾輩は尻尾が一本! つまり、見てくれだけはただの黒猫である。
ただの猫だと気づいた彼らは「なんだ猫か」と視線を緩めたのを確認した吾輩は、人間の塊の足元をするすると抜けて門から町へと入った。
ついに人里である!
人込みは門周辺だけのようで、抜けたところで近くにあった建物からよろよろと覚束ない足取りで出てきた赤毛の少女と目があった。
彼女は吾輩の存在を認識すると、最初から青かった顔をさらに青く染め上げていく。
「に、にぃ……」
あ、これは……。
ものすっごいデジャブ。
「な、なななッ!? なんで町に入れてるのよおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
悲鳴のような怒号が響き渡る。
その声に反応して門周辺にいた人々がこちらを振り向いた。
「あ、アンタ達っ! なんでこの化け物を町にっ!」
顔は青いが怒ったような言動に彼らは不思議そうな顔をする。
「【紅蓮】殿。それはただの猫ですよ」
と、一人の人間が言う。
そう、吾輩はただの猫である。
「こんな近くに居てもわからないって言うのッ!? このバカみたいに大きな魔力がッ!?」
なるほど。この様子を見るに彼女はクルムさんの言っていた魔力を視ることのできる魔法使いなのだろう。
杖も持ってるし、魔法使いっぽくローブも羽織ってるしな! 間違いない!
つまり不味い!
ここは退散するしかないな。
「にゃーあ」
まだこちらを見ている人々に「お騒がせしましたー」と一言言って、吾輩は走ってその場から退散した。
地面を蹴る際に地面が少し抉れてしまった気がするが今は逃げるが先決。
追ってきている気配はないので、少し走った所で路地に入り込んで一息つく。
まさか初めての人里で看破してくる魔法使いに出会うとはなー。
運が悪いったらないぜー。
こんな事なら魔力の隠し方とかも教えて貰うべきだった。
尻尾が一本に出来てそこまで頭が回らなかった吾輩が悪いけどな。
ひとまずは路地裏で身を隠して魔力の隠し方か抑え方でも模索するとしよう。
にゃー。幸先悪いぜまったく。
愛くるしい化け物にゃんこの災難。
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