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吾輩は人助けをする

 黒い髪にお世辞にもイケメンとは言えない黒い皮鎧を着た男が街道を歩いていた。

 なんとこの男。吾輩である。


 何故街道を歩いているのかと言うと、最初こそ冒険者にでもなろうかと思ったのだが、登録する際に魔力量を測ったりしているのをカウンターにいるときに見ていたのでやめておいた。

 魔力を放射しないように抑えていても、ギルドにある魔力測定器は身の内にある魔力を測るものなので触れただけで吾輩の規格外の魔力量がバレてしまう。そんなことになれば人間のお偉いさん方に目をつけられてしまうかもしれない。

 妄想に過ぎないかもしれないが、念には念を。今の飼い猫ライフが脅かされるくらいなら吾輩は冒険者を諦めてやる。


 とまぁ、そんなわけで、吾輩はギルドには行かずに一度猫に戻ってから街を出たのである。

 ひとまず人型に慣れるために冒険初心者が最初の頃に行うと言う薬草採集をする森に向かう。その森は街の西門を出て少し歩いたところにあると言う。

 吾輩のいるギルドにも年に十数人くらいは冒険者になりたいと言う若者が来るらしい。吾輩が来てからは二人来た。男女二人組で成人して冒険者になる夢を叶えるために来たと言っていた。


 そしてテンプレ通りにおっちゃんたちが絡みに行ってたのは笑った。

 ミリエールにはたかれてその場は収まったのだが、後から聞いた話ではあれは若者たちへの度胸試しなんだそうな。強面のおっちゃんに絡まれても怯まずに立ち向かうのであれば見どころありで登録祝いを、怯んで腰抜かしたら笑って謝り登録祝いをするらしい。

 今回は一人が女の子だったのでおっちゃんたちが調子に乗り過ぎた結果ミリエールが出張ったのだ。

 そして結果だが、ビビりながらも女の子を身を挺して守ったと言うことで見どころありだったらしい。

 昼間から飲んだくれてる奴らが何してんだかな。


 さて、そんなこんなしてる間に森へと着いた。

 吾輩がいた森とは雰囲気が全く違って新鮮だ。森の入り口から中を覗くも木漏れ日で暗くはなく魔物のニオイはするも吾輩のいた森よりも薄い。


 なるほど、確かにこれなら初心者でも安心して薬草採集が出来そうだな。


「ふむ」


 そう言えば今日は彼らもこの森に来てるんだったか。

 無理していなければいいがな。

 そう思いながら吾輩も森へと入って行く。

 うむ、やはり森はいいな。生まれが森だからこの空気が好きである。街も住み心地がよく楽しいのだが、やはり吾輩は猫であり獣である。自然の方が好きだと言うのは当たり前なのかもしれない。


「……しまった!」


 武器を忘れた。

 一丁前に防具を身に包んでいるが、肝心の武器を買って来ていない。

 どうすっぺなぁ。

 手を開閉しながら考えた後、手に目をやり猫の時のように爪を出し見た。


シャキン!


「出たわ」


 出たわ爪。

 人間サイズともなると六センチくらいの長さになっていて鋭さも健在。

 どこかのミュータントよろしく握った手の第三間接部分から皮膚から飛び出していた。どうゆう原理やねん。


 手甲もつけているため見た目はかぎ爪を装備した感じ。

 うむ、解決した。

 どっかに訓練相手になる魔物は居ねぇかな。


 手から力を抜くと爪は引っ込む。

 嗅覚と聴覚は健在なので、それ頼りに吾輩は森の中を練り歩く。

 結構広い森のようで、今は徒歩一時間ほどの場所を歩いているのだが、ここまで来たところで吾輩の優秀な鼻と耳が反応した。ニオイとしては獣のニオイと汗のニオイ、それから嗅がれなれないニオイだ。

 音としては「グギャギャギャ」と言った鳴き声のようなものと、人のすすり泣く声、あと助けを求めるような声だった。


 うむ、行こうか。

 吾輩は音とニオイの方向に向かって走る。

 木々の間を走り抜けていくと、吾輩の鼻が血のニオイを嗅ぎ取った。先にそちらに向かおう。


 血のニオイの方向に向かうと、見たことのある男の子が倒れていた。

 彼に近寄って安否を確認する。棍棒のような物で殴られたのかいたるところに痣が出来ていて、場所によって折れているかもしれない。だが、まだ息がある。


 吾輩は水の魔法で全身の消毒と泥まみれの身体を清潔にする。

 そして光属性の回復魔法をかけた。

 打撲や骨折が治っていき、荒く小さかった呼吸も正常に戻った。さすが吾輩! さすが魔法!


「大丈夫か?」


 吾輩はそう問いかける。

 彼は吾輩の問いに意識が戻ったのか薄く目を開けると震える口で言葉を発した。


「……メ……イラを……たすけ――」


 そう言った彼はまた意識を失ったのか身体から力が抜け落ちた。

 メイラを助けてか。

 メイラと言うのはこの男の子と一緒に冒険者になった女の子だろうな。


「うむ。任せたまえ」


 吾輩は森の入り口まで転移して彼を近くの木に寄りかからせる。

 そして一瞬だけ魔力を身体から放出して、また元の場所へと戻った。

 魔力を放出したのは彼を危険に晒さないためだ。吾輩の濃密な魔力はこの辺りの魔物なら近寄ろうとしないからだ。


 吾輩は元の場所に戻った後、走ってニオイの方向に向かう。

 臭い。着いて最初に思ったのはこれだった。木で作られた簡易的な壁に囲まれた集落のような場所。門番には木と石で作られた槍を持っている緑色の小人。尖った長い鼻と、同じく尖った長い耳。そして緑色であり、その顔はとても醜い。

 可愛らしい吾輩を見習え。


「ゴブリンだな」


 ファンタジーでお馴染みのゴブリン。

 他種族の女の子を攫って孕み袋にするところまで同じなのはどうにかならなかったのか。


 空間魔法を使って門番である二匹の首から上を囲い、切り離す。

 声も上げずにその場に倒れる二匹。魔法も解除して頭を転がして、吾輩は集落の中へと踏み込んだ。

 まるで人間のように木やわらを使って小屋を建て、火を恐れずに焚火をしながら何かの肉を食べているゴブリンたち。

 視界にいるすべてのゴブリンの首を空間魔法で切り離して殺す。


 数ある小屋を巡りながら中にいるゴブリンを殺して回る。

 最後の小屋に着いた。

 この小屋だけは他の小屋よりも大きく作られていて、髑髏や骨で作られたオブジェで飾りつけされているところを見るに、ここが集落の長のいる小屋なのだろう。

 中からは汚臭と嗅ぎなれないニオイが漂ってくる。


 吾輩は顔を顰めながらもぼろ布をめくって中に入る。

 中にはすでにお腹の大きくなった女性や、檻に閉じ込められた女性たちが多くいた。

 さらに奥の部屋に向かうと、四匹のゴブリンに手足を抑えつけられ、服を破かれた女の子がテーブルに乗せられていた。

 彼女の前には人間形態の吾輩よりも大きいゴブリンがいた。その頭には冠みたい作られた骨の装飾が乗っている。


 ゴブリンキングと言う奴だろうか?

 まあいいや。

 爪を出して拘束しているゴブリン四匹を切り裂いて女の子を解放する。拘束が解かれたことですぐにテーブルから降りて物陰に隠れた。


「グウゥ……ッ!」


 手下を殺され、女も逃がされたキングは吾輩を睨みつけてくる。

 キングは近くの壁に立てかけられていた吾輩の背丈ほどある棍棒を手に取ると、力任せにテーブルを叩き割って吾輩の方に駆けてきた。

 振り下ろされる棍棒を左手のかぎ爪で防ぎ、右手のかぎ爪で棍棒を持つ腕を斬り落とす。


「グルアアアアアアアアアッ!?」


 青い血が噴き出し、地面に落ちる腕。

 腕を抑えて後ずさるキングに近づいて脇腹に左フック。もちろん爪が出ているため刺さる。

 打撃と刺突による痛みでキングは前かがみになって丁度いい感じに吾輩の前へと首が差し出された。

 その首を右手のかぎ爪で斬り落とす。


「ギ……ァ……」


 小さく呻いたキングは後ろへとよろめき、バランスを崩して倒れ伏した。

 返り血がついてしまったので、水魔法で洗浄して物陰に隠れた女の子の所へと向かう。


「終わったぞ」


 守るように身体を丸めて蹲っている女の子に吾輩は出来るだけ優しく声をかけた。

 女の子は震えながらも涙で濡れた顔を上げる。

 服が引き裂かれてしまい、目のやり場に困るが、吾輩は軽く頭を撫でて一つ前の部屋へと戻った。


 かぎ爪で檻を破壊して、女性たちを解放。

 ゴブリンの子を孕んでしまった子たちはどうするか。皆一様に目から光が失われぐったりとしているしなぁ。


「ころ……して……」


 一人の女性からそんなことを言われた。

 ゴブリンに犯され、孕まされ、精神的に限界なのだろう。

 だが、そう言われてもな。


 精神安定の魔法を全員に掛けて、少し考える。

 彼女たちの腹にいる汚物をどう処理したものか。裂いて摘出も考えたが、それは彼女たちへの負担が大きすぎる。


「ふむ。一つ、魔法を作るか」


 創造魔法を発動して、とても都合の良い魔法を作り上げる。

 その名も浄化。

 人間に害はなく、人間を害するものを消し去る都合の良い魔法だ。

 属性としては光。


「"浄化"」


 相手を指定して一括浄化。

 膨らんでいた腹が萎んでいくのを確認したあと、全員に回復魔法と眠り魔法をかける。

 あとは、服か。

 裸の彼女らに渡す服など吾輩が持っているわけもなく、申し訳ないがゴブリンたちが使っていたぼろ布を洗浄して全員に掛けた。

 他にやることは助けを呼ぶことだな。


「あ、あの」


 どうここまで助けを呼ぶかと思案していると、後ろから声をかけられる。

 振り返ると、そこには先ほど助けた女の子がいた。


「た、助けていただきありがとうございますッ!」


 そして勢いよく頭を下げられた。


「気にしなくていい。お前の仲間に頼まれただけだ」

「っ! そうだベック! 彼は無事ですか!?」


 あの子ベックって言うのか。


「無事だ。今は森の入り口で寝かせてある。もちろん安全は保障する」


 もとより弱い魔物しかいない森である。吾輩の魔力を感じたら近寄らんだろ。


「……よかった。ありがとうございます」


 安堵からか、今度は泣きながらお礼を言う女の子。

 泣く彼女とともに小屋を出る。

 すると、集落の外からたくさんの人の声が聞こえてきた。そちらに目をやると、どうやらベックとやらが救援を呼んだのか、はたまた吾輩の魔力に気が付いて森まで来た冒険者がベックを見つけて事情を知ったのかわからないが、数十名に渡る冒険者達がこちらに向かって来ていた。


「ふむ。助けが来たな。あとは彼らに任せるとしよう」

「えっ――」


 吾輩の前にいた女の子は吾輩の言葉に振り返るがそこに吾輩はいない。

 冒険者でもない人間(猫だが)がこんな所に居たら怪しまれるかもしれないからな。

 転移で集落の外に出て猫に戻り再び転移。


 移動先はギルドの屋根上。

 地面に降りてギルドの中に入ってカウンターに登る。

 ちょうどおやつの時間である。吾輩は現在の受付担当者におやつをねだって食べたあと、定位置に座ってグルーミングをした後丸くなる。


 目を瞑りながらかぎ爪のことを思い出す。

 やはり人間形態と言うことで爪も長くなる。となると猫の時よりもリーチが長くなるので戦闘では有効である。

 しかし、しかしだ。正直、かぎ爪で攻撃するよりも空間魔法で倒した方が早い

 何より返り血を浴びないのだ。

 武芸者になるより魔法使いとして活動した方が吾輩には向いているのかもしれない。


 まあ、その辺はおいおい考えていこう。

 人助けして満足したのでひと眠りしよう。冒険者達も皆集落の方へ向かっているのか静かだしな。今のうちに寝るのが良い。

んなんな

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