吾輩は注目の的
カウンターの上で倒れているように寝転がり、ギルド内で騒がしくしている冒険者たちを眺めている艶やかな毛並みの黒猫。
吾輩である。
冒険者たちの話を聞いてる限り、内容は昨日の一件のことらしい。
吾輩がゴブリンの集落を壊滅させた昨日。あの後、冒険者たちによって助けられた女性たちは今は治癒院で保護されているとのこと。
もし、治癒院での治療のあとで精神的な問題がありそうな場合、その人たちは教会の保護下に入り、身を清めることになるそうだ。
ちなみに今冒険者達が話しているのは吾輩のことのようだ。
と言っても猫の吾輩ではなく変身した人の吾輩である。
助けた新人冒険者のベックとメイラの二人が、助けてくれた人を探しているとかなんとか。
冒険者達からしたらベックの知らせで救援に来たところで全てが終わっていたと言う状況であるため、二人を助けた人が居るのは冒険者たちの中でも確定しているのだが、この街での活動期間が長い冒険者でも見たことがないと言う。
「一人でゴブリン集落の壊滅とキングを倒すほどってなると噂位にはなりそうな実力者なんだがな」
「他の区の連中もそんな話は聞いてないって言ってたぜ」
「となると、最近ここらに来た冒険者かね」
「それなら姿を消すこたぁないだろう。誇ってもいい仕事したんだぞ?」
「目立ちたくない奴か、後ろめたい何かがあるか」
「まあ、何にしても本人が出てこない限りはわからんな」
ベックとメイラと話していた冒険者たちはそう話した。
話を聞いていた二人は「改めてお礼を言いたかったのに」と落ち込む。
君らの感謝の気持ちはしっかりと届いている安心して欲しい。
ここまで噂になってしまうとしばらく人型をとるのはやめておいた方がいいな。
そう決めた吾輩は立ち上がり伸びをしてお散歩に出かけることにした。
今日も晴天。どこで日向ぼっこしようかね。
*****
にゃん友達とぐでーんと日向ぼっこして、日が傾き始めた所で解散。
吾輩はギルドへと帰ることにした。
その途中のことである。
人の少ない猫たちがよく使う裏道を通っていると、女性の拒む声と男の下卑た笑い声交じりの声が聞こえてきた。
吾輩はそちらに向かって走ると、二人組のモヒカン頭の男と腕を掴まれている女性が一人。
女性は嫌がっているようで、そんな嫌がる女性にモヒカンたちのうち一人が女性の服に手をかけた所で、吾輩は人型に変身してものすごく手加減して手をかけたモヒカンをぶん殴る。
「ぶへっ!?」
お、死んでない。
上手く手加減できたようだ。
「なんだテメおぶふっ!?」
もう一人のモヒカンが吾輩の方に向いたのでペシっと殴っといた。
のびた二人を適当な紐で縛って大通りの方に投げておく。
「あ、ありがとうございました!」
「偶々通りがかっただけだから気にしないでくれ」
そう言って吾輩は路地の奥へと歩いて、人目が付かないところで猫に戻る。
さあ帰ろう。
その後、ギルドまでの道のりで五人くらいの人を助けた。
「にゃー……」
おかしい。
なんでこう吾輩が変身しないと決めた所でこうも人助けをする羽目になるのだろうか。
いや、人にならずに助けてもいいが、魔物扱いされるのは嫌なのでこうするしかない。
ギルドにたどり着き、いつの間にか扉に設置されていた猫ドアを潜って中に入る。
「今日衛兵の奴らが忙しそうだったな」
「ああ、なんか裏でやんちゃしてた冒険者どもが大通りに縛られて放置されてたらしい」
「この街裏路地多いからそう言う馬鹿が多いんだよなぁ。どうにかして欲しいぜ」
「聞いた話じゃ、その馬鹿どもをとっちめたのは例の奴らしいってさ」
「例の奴?」
「新人どもを助けたって奴さ」
「なんだ、この街にいるのか」
「名乗り出りゃいいのに。衛兵達もそいつに話を聞きたがってたし」
「まあ、犯罪が減るならいいんじゃねぇか? 最近冒険者の面汚しが増えたしな」
「ああ。街の新たなヒーローに乾杯!」
「唐突過ぎだろ。乾杯」
噂が出回るのが早い。
そして吾輩の話をつまみに酒を飲むな。
楽しそうなお馬鹿たちを傍目にカウンターに登ってすでに用意されていた餌を食べる。
「クロちゃんおかえりー! なんか凄い人がこの街にいるらしいよ! うちのギルドに来てくれないかなぁ」
可愛い可愛いミリエールに撫でられながら吾輩はキャットフードをもしゃもしゃ。
彼女がそう言うのなら一度姿を現してもいいかもな。
「……にゃ」
やめとこ。
街を裏で守る正体不明のヒーローも悪かないだろう。
街が壊滅の危機に陥りでもしない限り、現状のままでいいや。
吾輩は考えるのをやめて定位置の寝床についた。
……寝よ。
なぁん




