聖女の祈り─月の輝く夜の帳に─は乙女ゲーム。9
前世で次の生では結ばれると誓ったと、自身をレオンハルトだと名乗るサイモンに、意識ごと身体が持っていかれそうになる。
それを思い留まらせようとするのは、自分が愛するのは唯一スライムレオン…ベンチでスライムのようになっている、あのレオンハルトだけだという揺るがない確実な想い。
「サイモンお兄様…!離して…!」
二つの顔を持つディアーナがせめぎ合う中、本来のディアーナの意識が上位に立つ。
離して言ってるだろーが!
いっそ、イライザみたいにブッ叩こうかしら!?
「えー加減にせ…!」「良かった!人が居たー!」
サイモンに抱きしめられているディアーナは、右手を振り上げた状態のまま、声の方に目を向ける。
同じくディアーナを抱きしめたサイモンも声の方を向く。
「裏路地に迷い混んだら表通りに出る道が分からなくなっちゃってぇ!助けて下さい!」
一人の栗色の髪の少女が胸の前で手を合わせて目を輝かせている。
「……その道を真っ直ぐ進めば表通りに出る…」
苛立ちをあからさまに表情に出したサイモンが少女に意識を向けた隙を狙うように、ディアーナはサイモンの腕を振りほどいて少女の手を取る。
「迷子は不安だったでしょう、わたくしが表通りに案内しますわ!」
「ディア!」
腕から逃れたディアーナを追うようにサイモンの腕がディアーナの方に延びる。
ディアーナはサイモンの手を払った。
「わたくしを、ディアと呼べるのはレオンだけです。……失礼致しますわ。」
ディアーナは、少女を連れてサイモンの元を離れる。
サイモンの姿が見えなくなった所で、少女の両手を握った。
「ミァちゃん!久しぶり!ありがとう、助かったよ!」
「うん!香月ちゃん久しぶり!逢えて嬉しいよ!」
うふふ…あはは…女子高生時代を思い出すね~
笑顔でフワフワとした雰囲気を醸し出しつつ、ディアーナがミァの肩をグワッと掴む。
「ミァちゃん……いいや、師匠…これは一体何の遊びなんすか?」
「…うふふ…いやぁ…すんません…」
目を逸らしたミァは冷や汗をだらだらかいていた。
水場のある休憩場のベンチでグッタリと溶けかけたレオンハルトが身体を起こす。
「ディア、おかえり……!!!!親父っ…!!」
ディアーナが連れて来たミァの姿に、思わずベンチから立ち上がり後退るレオンハルト。
「何でも拾って来ちゃ駄目だと言ったろう!」
「私は犬や猫じゃないわよ…覚えてなさいよ、レオンハルト…。」
互いに視線を合わせずに言う二人に、ディアーナが野菜とハムを挟んだパンを押し付けるように渡す。
「師匠から話を聞かないと困るでしょう!?主に私が!」
「………ちょ、親父…ディアーナに何か…あった?…なあ…!」
不安と嫉妬が入り交じった複雑な顔でミァを睨むレオンハルトに、苦笑いを浮かべ視線を外すミァ。
「腹ごしらえしたら説明しなさいよ!師匠!」
「……つまり……………マジですかー!……師匠のバカァ……!」
レオンハルトとディアーナは休憩場のベンチで仲良くスライム化した。
「いつものクセで、レオンハルトの転移する際の器作っちゃった!本人そのまま、こちらに来る事すっかり抜けてた!ごめんね!」
可愛く『てへっ!』と、誤魔化す創造主にイラっとする二人。
「いや、師匠…レオンハルトの転移する姿や、時間には関与出来ないって言ってなかった?」
そういえば、と思い出した疑問を問うディアーナに、ミァが自慢気に語る。
「それは私が神として関われない異世界だからよ。前世での地球の日本とか……でもここは、私が創った世界よ!だから、レオンハルトに相応しい転移する為の器を!………作る必要無かったんだけど………何か………作っちゃった……」
自慢気から一気にトーンダウンしたミァに、ディアーナとレオンハルトが口を揃えて言う。
「「バカァ!!」」
数多の異世界に転生したディアーナを追わせてレオンハルトを転移させていた創造主は、いつもはレオンハルトの転移先の時間や姿を選べなかったのだが、今回はそれが出来た為に調子に乗ってしまったと。
転移の必要が無く、レオンハルトが元の姿で、そのまま帰るだけで済む世界なのに器を作っちゃったと。
イケメンな上に、前世での縁…えにしを持った、要はディアーナと結ばれ易い設定。
「乙女ゲームの世界とリンクさせるからとか、そんな理由で、レオンハルトとディアーナは前世で次の生では結ばれると誓った、その二人の生まれ変わりなんて、取って付けたような設定ブッ混まないで下さいよ!そんな、ありもしない前世を真実だと思い込んで、サイモンが気の毒でしょうが!しかも、器どころか、ちゃんと自我持っちゃってるし!」
「う、うーん…確かに気の毒なんだけど…乙女ゲームの世界としては、スティーヴンルートに進んで、もう終わってるんだし…彼は彼で、その自我でもって新しい人生を歩むハズなんだけど…」
「それ、ヒロインのオフィーリアに対しては…だよな?オフィーリアと恋愛感情を一切育ててないサイモンにとっては、前世で誓い合ったディアーナへの想いMAXのままじゃねーの?」
レオンハルトの言葉に、三人が無言になる。
「「バカァ!!!」」
やがてディアーナとレオンハルトが口を揃えて大声をあげた。




