スティーヴンとウィリア10
半地下から出た後、破れた衣服に布を巻いているだけのウィリアの姿でいきなり玉座の前はあんまりだと一度ディアーナ嬢達の所に戻る事にした。
噴水の前、ディアーナ嬢はヘラリと緊張感無く笑っており、ジャンセンに至っては器用に噴水の縁に寝転んで寝ている。
そのまま噴水に落ちてしまえと思っているのは、私だけではない筈だ。
「スティーヴン…わたくしの事、心の狭い女だと思いませんでした?…罪を許し…正しい道に導くのが、人としてあるべき姿なのではないかと…」
「…それ、神に仕える巫女として、そう思っているんだよね?私の知る神は、めんどくさがりな上にもっと心が狭いし、その息子は変態だし、娘はすぐキレるし。何か問題ある?」
「……ありませんわね」
神の御心に添うのなら、この世界の神は
『思うままに生きろ!だけど、気に入らないとプチるからね!?その辺気をつけなヨ!』
を教えとしている気がしなくもない。
私は、今日生まれて初めて人の命を奪った。
彼女の為だなんて言わない。
私は、私の矜持に従って行動した。
だから後悔はしていないし、罪悪感もない。
そんな顔をウィリアに絶対見せない。
次の日、私はウィリアを連れて城に出向いた。
父に事の経緯を説明し、クーパーという男を斬った事も報告した。
父は無言で私の背を叩いて、ゆるく肩を抱いた。
ウィリアを妻に迎えたいと話すと「やはりな」と嬉しそうに微笑んだ。
ラジェアベリアの牢に投獄されているスマザードの長達は、もっと厳しい地域の牢に移送された。
生かしておくと面倒でしょ?処刑してしまえば?とジャンセンはサラリと言ったのだが…さすがに簡単には決めれなかった。
だが、少しでもウィリアから離したくて、王都から遠い場所に移動させる事にした。
そして、スマザードは新しい町長を迎えた。
「町の外れに一人で住んでる、灯台守りの偏屈ジジィいるじゃないですか、あのジジィが町を治めるなら私は賛成してもいいですよ」
思わぬジャンセンの提案に驚いたものの、本人を尋ね話を進めていくと、この老人がエイリシアの育ての親で、ウィリアの両親が町から逃げる際に助けた男だと知った。
老人はウィリアの幸せを喜び祝福し、ウィリアの為ならとスマザードの長となった。
「ウィリア、疲れてないかい?」
目まぐるしく動き回った数日、ウィリアは私の部屋の長椅子に疲れた身体を横たえている。
「大丈夫ですわ…お見苦しい姿を…」
「見苦しいだなんて…私達は、本当に見苦しいものを毎日見ていたじゃないか」
「……そうですわね…」
バカップルのイチャイチャやら、喧嘩やら…見るに堪えないものをたくさん…。
「ウィリアが見苦しかったら、私なんかもっと見苦しいよ…結婚するまでは…我慢するつもりだけど…」
「スティーヴン…?」
長椅子の上に片膝を乗せ、背もたれに手を掛ける。
ウィリアの顔に自分の顔を近付ける。
「実は自信がない。みっともない位、ウィリアが欲しくて…」
「スティーヴン、レオンハルト様に似てきましたわね?」
クスクスと笑うウィリアは楽しげで、私は…
「スティー……」
私の名を呼ぼうとした、その桜貝のような唇を私の唇で塞ぐ。
唇を重ねたまま、彼女の髪を撫で、彼女の吐息すら飲み込むよう唇の隙間を食むように口付けを深くする。
彼女を抱き締めようと宙に浮いた手が、彼女の胸に乗ってしまった。
…でかっ!やわらかっ!
ちょっと、驚き過ぎて唇を離してしまった。
…これはヤバイ、これが私のものに?私の好きにしていいのか?しかも触れるの、私が最初だよな?
「………ディアーナ様が…好きらしいですわよ…?わたくしの胸の触り心地…」
…………なんだって?ディアーナ嬢、結局揉んじゃってんの!? 私より先に!?
「女同士だから、ノーカウントパイだと言っておりましたが…意味が分かりませんの…」
ディアーナ嬢…貴女は私の、元婚約者ですが…
良家の令嬢ですが…あえて言わせてもらいましょう。
ディアーナこの野郎…!




