スティーヴンとウィリア
神の御子レオンハルト殿と、令嬢ディアーナが結ばれたと聞いた私は、心の底から二人を祝福した。
かつての婚約者と、かつて恋をしていた相手が夫婦となったと…言葉に出すと何だか複雑な気がしないでもないが、レオンハルト殿のディアーナ嬢に続く永く苦しい旅路を垣間見た事もあって、私は二人が心を通わせた事を涙を流して喜んだ。
「「おかんか!」」
よく分からないが、レオンハルト殿とディアーナ嬢が口を揃えて言っていた。
「二人が結ばれたと言う事は…旅は終わるという事ですね?ああ、お二人の婚儀も行わないと…」
「なんで?」
ディアーナ嬢がキョトンとした顔で言う。
「な、なんでって…ディアーナ嬢は、ディングレイ家の令嬢なんですよ?…て言うか、女性はそういうのに憧れるものでは?」
女性とは、結婚式に憧れを持つものだと、それが当たり前だと思っていたのだが…。
「私はディングレイ家とは関係無いわよ?それに婚儀とかめんどくさいし。」
「なぁ王子サマ、ディアーナの父親はジャンセンだぞ?分かってるか?」
「はぇ!?ジャンセンが父親!?」
おかしな声が出た。
レオンハルト殿の衝撃的な報告に頭痛がしてくる。
「…神の御子よ、我々凡人には、神の御心など解る訳も無く…」
「いや、難しく考えなくていーから、とりあえず旅は続けるつもりだ。スティーヴンはどうしたい?一緒に旅を続けるならそれでいいしな」
少し意外に思う。
二人、心を通わせたならば私は邪魔なのじゃないかと…。
愛し合う二人が寄り添いながら愛を育んでいくような…そんな旅をするのかと思っていたのだが。
「レオンは愛している愛している言い過ぎなのよ!大安売りか!」
「言わずにいられるか!どれだけ我慢したと思ってんだ!だって、本当に愛している!ディアーナ!」
「うるさいわ!黙れ!」
何も変わってなかった。
むしろオープンになり過ぎて、イチャイチャどころかバトルになりかねない時もある。
私はよく分からないが、ディアーナの前世にいた香月という女性が、好戦的であるらしい。
まぁ…それで二人が幸せなら…まぁ…それでいいか…
旅は続けたまま、ディアーナ嬢以外にはほぼ無敵になったレオンハルト殿が魔物も魔獣もサクサク倒して行く。
あんなに辛そうだった浄化も、本人いわくバーンと終わらせているらしい。
出来の悪かった息子の成長を喜んでいるような気分になるのは何故だろう。
「「おかんか!」」
二人の声が聞こえそうだ。
食料の調達に出た二人と離れ、一人夜営の準備を進める。
暗くなりかけた森の入り口付近、木の影から怪しい男が手招きをする。
見たくなかった…。会いたくなかった…。
怖いから!
「殿下、ちょっと相談」
黒い髪に黒い瞳、黒い旅装束で腰に刀とかいう剣を携えた青年。ジャンセンが居る。
二人が結ばれた時に、安心しましたとか言って昇天しなかった!?
いや、死んだわけではないか。
「そ、創造主様…お久しぶりです…10日ぶり…」
ジャンセンは満面の笑顔を見せて瞬間、間合いを詰めた。
「その名で呼ぶのは厳禁です。プチっといきますよ?」
首筋に刀の刃が当てられる。
神の御子、嫌な言葉を身内に流行らせたな!
「で、ではジャンセン…相談とは?」
レオンハルト殿にではなく、私に相談?
「たいした事ではないのです、あのウィリアとかいう女の話し相手になってくれたら」
「ウィリアさんの…?」
「ええ、城に届けて殿下の書簡と一緒に王の前に放り出して来たのですが。」
ほ、放り出して!?それ、例えだよね?
「いきなり玉座の前に現れて、ウィリアを放り出して…書簡を王の近くにいた誰かに投げつけて…帰りましたよ?テントに。」
はああ!?
「あの日は、二人が結ばれるかどうかが決まる大事な日だったんですよ、それ以外の事は知らん!」
最悪だ!この創造主!唯一神って、こんなん!?




