61# ヘタレは誰?
「そういえば殿下」
さっき見た夢を思い出した。これ以上叱られたくないので話をすり替えた訳ではない。多分。
「わたくし、前世があるようですわ!夢の中で会いましたの。私似の美人!」
すっごい重大発表みたいな言い方をしてみた。
「ああ。前世………!今さら!?今さら気付いた!?」
驚きの余り、スティーヴン殿下に二度見された。
「今さら…なんですの?」
「今さらだろう!君の前世らしき人が、君に乗り移っていた事もあったし…その…神聖な…美しい…」
スティーヴンは少し言いにくそうに語尾を濁す。
ジャンセンに恐ろしい位に釘を刺されたので、もう恋慕の情などないが、憧れに近い想いはある。
「あー、凄い美人でしたね、私。でも口悪かったですね、誰に対してか知らないけど、『ヘタレ。うぜぇ。』って言ってましたよ。」
「……あの人でも結局そんなのか……その口の悪さは、まぎれも無くディアーナ嬢だと思う。それと、ヘタレってのは…」
結局そんなのって何ですか!?
中身お前じゃねーかって意味ですか?ひでぇ!
「ヘタレが誰か、まさか殿下に心当たりがありますの?」
答えの続きを待ってスティーヴンの顔をジッと見つめる。
「……ディアーナ嬢もヘタレだよね。」
「何でですか!」
意外な変化球来た!
「ディアーナ嬢、レオンハルト殿とちゃんと向き合った事ある?」
どうして、ここで変態の名前が出て来るのか?
「あるわけ無いじゃないですか!変態ですよ!?」
スティーヴンがなぜ、急にレオンハルトの名前を出したのか分からない。
困惑したディアーナは声を上げる。
「ほら、君はすぐ、そうやって逃げようとする。あの人は子どもと同じだよ?ディアーナ嬢が好き過ぎて、からかって気持ちを誤魔化そうとしてしまう。…あ…そうか」
何かに気付いたようにスティーヴンが微笑する。
「クックッ、オフィーリアはディアーナ嬢に、私のカッコ悪い所を見せて、私を嫌わせたかったみたいだね。」
何かを理解したスティーヴンの笑顔は眩しかった。
「ジャンセンの言うように、憎まれているのかと思っていたけど…こんな、子どもみたいな理由だったんだと思うと…何だか、かわいい人だな…」
「……殿下?」
「うん…ディアーナ嬢、君もね、もう向き合うべきだ。彼をちゃんと見てあげた方がいい。彼がジャンセンに女性のように抱かれて現れた事、浄化の途中で倒れてしまった事。」
その、面白可笑しい事と、向き合えと?




