62# 泉にて
暗い林の中をランタンの光を頼りにレオンを探す。
スティーヴンにレオンハルトと向き合えと言われ、今、レオンハルトは近くの泉に水浴びに行っているから、とランタンを渡された。
水浴びしている姿を覗けと?
レオンハルトと向き合う為には私も変態の道を歩まねばならないと?
凄く嫌そうな顔をしたが、スティーヴンは許してくれなかった。
あーだこーだ理屈をこねていたディアーナはスティーヴンに、
「ヘタレ。うぜぇ。」
と怖い位の笑顔で言われたので、ランタンを持って林の中に来た。
怖かったのだ……。あーゆータイプは怒らせると一番怖い。
サクサクと乾いた葉の上を歩いて行く。
月を隠す程の木々の覆いがプッツリと切れ、月明かりのスポットライトが注がれる泉に辿り着いた。
泉には人影があり、少し離れた場所からでもそれがレオンハルトであると分かる。
薄いシャツを着た状態で腰から下を泉に浸からせ、いつもひとつに結ばれた髪はほどかれて金糸のように身体に纏い付く。
濡れた顔を空に向けると、月を眩しそうに見つめたレオンハルトの頬を水滴が伝う。
水滴なのか…涙なのか分からない。
絵画のように美しい光景だった。しばらく魅入っていたディアーナだったが、レオンハルトのシャツの下に透ける、無数の亀裂に気付いた。
そして、それを見たのが初めてでは無い事も思い出す。
「お…お兄ちゃん…?」
ディアーナの呟きに顔を向けたレオンハルトは、嬉しいとも悲しいともとれる柔らかい笑顔をディアーナに向けた。
「香月……」
今まで前世に兄が居た事は思い出していたが、兄の姿も名前も思い出せてなかった。
自分の名前すら思い出せてなかったのに、レオンハルトに今、名前を呼ばれただけで、自分が前世で香月だった事、レオンハルトが兄であった事を鮮明に思い出した。
「お兄ちゃん!…お兄ちゃん!!どうして…どうして!」
身体に走ったひび割れは、今にもガラスのように砕け散りそうな危うさを持っている。
痛々しい姿に涙が止まらないディアーナは、自らも泉に入る。
レオンハルトに近付き、胸にすがるようにして抱き着く。
「そんな、傷だらけの身体で…無理して…馬鹿っ…!」




