57# 王子とウィリア【スティーヴン目線】
おぞましい姿の魔物が暴れる度に、槍の様に鍾乳石の雨が降る。
防ぐ手段の無い私とウィリアを、レオンハルト殿が結界のような魔法を使ってくれて守ってくれている。
時々辛そうな顔を見せる。大丈夫だろうか…?
執拗にジャンセンを攻撃している
あの化け物のような女は、ウィリアの母だという。
「娘をこんな目に遭わせるなど、何と非道な母親なんだ!
」
憤りから大声で本音が漏れる。その声に反応してか、腕の中で気を失っていたウィリアがピクッと動いた。
「違います…母は優しい人だもの…私が五歳の時に、生きたまま氷漬けにされたから…」
目を覚ましたウィリアが、私の腕の中で訴えるように言う。
「何だって…?10年前に亡くなったと言うのは…」
「ほう、ウィリアはまだ15歳だったのか、それでその豊満我が儘ボディ…」
「黙ってて下さい、レオンハルト殿。」
黙ってろ、神の御子!あんたが関わると、ややこしくこじれるから!
言ってもレオンハルト殿だから仕方ないので、無視する事にする。
ホント、レオンハルト殿とディアーナ嬢は似てる。
どーしょーもない所が。
「母は、この町に立ち寄った旅人と恋仲になりました……生涯純潔を守らねばならない巫女である母が私を身籠り、父と母は町から逃げたのです…」
ウィリアは、会議室でレオンハルト殿にしなだれかかっていた艶めいた女ではなかった。
年相応、いやそれ以下の少女のように泣きじゃくっている。
「町の長達に見つかり、巫女を汚したからと父はその場で殺され…私と母は町に連れ戻されました…そして、私を人質にして母を神体にすると…」
生きたまま氷漬けにされた…と。
「ああ、さぞ悲しく、苦しく、憎らしかったんだろうな…だからこんなに強い瘴気を生んだのか。…10年もかけて」
レオンハルト殿が何か一人で納得している。
「瘴気を浴び続けると動物が魔獣になるように、人間も魔獣化するんだが、あれは魔物。瘴気から生まれた純粋な悪意の塊で、ウィリアの母さんの死体を操っている。だからウィリアの母親ではない。」
レオンハルト殿は、私が言った非道な母親…を否定してあげたのか…。
「ただ、瘴気を生むのは人の負の感情だから…この辺り一帯を覆う瘴気の大きさと、魔物を生んでしまった瘴気の濃さは…夫と娘を愛する余り、幸せを奪った奴等に対する憎しみも凄まじかったのだろうなと…」
レオンハルト殿は、愛の深さ━━に弱い。
自身が求めて求めて、そして怯えて、のばした手を引いて抑えてしまうが故に。
「王子サマ、ウィリアはお前が保護した方がいい。ウィリアは町から逃げたくて俺に色目使っていただろ?」
「そ、そうなのか?ああ、そうか…母親と同じ目に遭う可能性もあっただろうな…」
強い者に守られ、町から逃げたかったから…この少女は男が好きそうな女を演じたのか。
腕の中で泣きじゃくる少女の背を、ポンポンとあやすように軽く叩いた。
「で、この町の野郎どもはクズだからソッコー、プチ決定な!」
「やめなさい!馬鹿勇者!」
キラッキラの笑顔で言ったレオンハルトに対し、大声が出た。




