47# ノーカウントキス
ちょっと盛り上がってしまった。
そんな変なテンション上げてる場合じゃないでしょう!私!
スゥと深呼吸をし、姿勢を正すとレオンハルトに向き合う。
「お帰りなさいませ、レオンハルト様」
「…た、ただいま…?…何か…怒ってる?」
レオンハルトの前に立ち、ニッコリ微笑みかけるディアーナの目は笑っていない。
「先ほどの口付けですが、あれは無かった事に致します。」
「は…い?」
ズタボロのレオンハルトは目を白黒させ、ディアーナの真意を探ろうとする。
「あれは、事故ですわ。唇という皮膚が一瞬触れてしまっただけですわ。手の甲同士がたまたまぶつかるのと、何ら変わりありません。」
笑顔のディアーナは、背後にゴゴゴゴと効果音が付きそうな程の威圧感を発する。
「わたくしのファーストキスは!もっとロマンチックで素晴らしいものな筈ですから!町の通りで、一瞬の!あんなもの無しです!」
えええー…?女心って、分からない…なんの宣言なんだろう…と、レオンハルト、ジャンセン、スティーヴンが灰になっている。
「…それはそうと…ちょっとマズイ事になったみたいで…」
ディアーナの宣言など、深く考えた所で仕方ないと判断したジャンセンが、クルリとディアーナに背を向けつつ話題を無理矢理切り替え、鍾乳洞で起こった事のあらましをスティーヴンに告げた。
━━━私、師匠に無視された!━━━
「…では…私が狙われる可能性が高いと…?」
ふざけてる場合じゃなかったと今更ながら思うディアーナに、どうせディアーナだから注意したって仕方ないと今更ながら思うジャンセンが話を続ける。
「可能性がある、ではないですね。確定です…特に蛇型の魔物は執着心が強い…それに、レオンハルト様…かなり疲弊なさってるご様子ですし…」
ジャンセンは壁際に腕を組んで立っているズタボロのレオンハルトに小さな小瓶を出して投げ渡した。
「この世にたった一つしかない、あなた専用の回復薬です。完全回復には至りませんが、それでも、もう少し動けるようになると思いますよ。」
小瓶を受け取りながらも、ジャンセンを睨むレオンハルトは、今にも小瓶を握り潰してしまいそうである。
「…どうぞ、ご自由に?僅かな回復でも、それが無かったせいで後悔するような結末を迎えない事を祈りますよ。」
ジャンセンは手のひらをヒラヒラ振りながら部屋を出て行った。
「くそっ…!!」
レオンハルトは小瓶を握り締めたまま、自身の腿を強く叩く。
━━━ディアーナがあの蛇女に狙われている以上、少しでも戦えるよう備えておかなくてはならない。
こんなところで、ディアーナを死なせる訳にはいかない。
例え、ディアーナが自分のものにならない未来しか無かったとしても。━━━




