01
特典付で異世界に行ってみませんか。などと言われたら貴方ならどうしますか?
もちろん最初は頭を疑いますよね、あとはドッキリとか。
でも自室でPCの電源を入れた瞬間周りの風景が真っ白に変化したらさすがに驚愕しますよね、その上突然後ろからキャリアウーマン風な女性に「特典付きで異世界に行ってみませんか」と話しかけられれば頭の許容量を軽くオーバーしたのも許されるよね・・・。
「あのー話聞いてます?もしもしーねぇちょっと・・お願いちょっとは反応してよ」
なんとかフリーズした頭を再起動かけると謎の女性が涙目でパーカーの裾を握って引っ張っていた。
「あぁすみません。いきなりの展開で思考がフリーズしていました」
「すっすみません、こちらもかなり焦っていたものですから」
パーカーの裾から手を放ち、その手を口元に持っていきコホンと咳をし姿勢を正して
「はじめからなぜこんな事態になったかを説明させていただきます。その話を聞いてから特典を選んで下さい」
要約するとこの女性は世界の管理人の一人で本来ここの管理していた人?の上司にあたるらしい、そしてその元管理者は自分の気に入った人物たちに加護を与えたり他人の加護を消したりしていたらしい。
そのおかげで世界に歪みが出来ていて、下手をすると他の世界と繋がってしまうそうだ。
そのうえ召喚や事故でこちらの世界から他の世界に人が流出していくと歪みが大きくなり世界間の融合や消失が起きてしまうとの事。
小規模な歪みが発生した為に今回のことが発覚したそうだ。
件の管理者は相当腐った奴だったらしく、未成年の犯罪者に加護を与え捕まらないよう因果を弄ったり、与えた者同士にグループを作らせ無難に人生を送るはずだった人を陥れ被害者が死んでいく過程を面白がって見ていた挙句、死んだ後も魂を転生させずに最後の1日の記憶を繰り返させ魂が摩耗するまで続けたり等、自己の愉悦の為に重大な違反を繰り返していた事が判明したと。
歪みの原因を排除しなければならない為、加護を与えられた者達8人全員占拠していた郊外の廃ビルでの崩壊事故で事故死にして特典なしの転生、犯罪の証拠を発覚させ犯罪に協力していた者達も社会的粛清を受けた。
被害者4人のうち3人は記憶を抹消してからの転生を望み、もう1人は俺の家から5軒離れた家の娘さんであり加護を奪われた側でもあった為に一旦保留にしたそうだ。
ちなみに俺の加護は2つありその2つとも奪われていたようで、その加護の内訳は物作りと素材の良し悪しがひと目で理解る鑑定眼だったそうだ。
そしてこれから行ってもらう異世界はいわゆる魔法が存在する中世ファンタジー的な世界だという。
「ちなみに加護を奪われ生きていたのは貴方を含めて4人いまして1人は保留2人は了承しています。拒否した場合はこの空間に留まって頂いて他の方々が目標を達成した際奪われた加護が返却され、この空間に引っ張られた瞬間に戻って元の生活に戻っていただきます。転移組はその世界に残留するか元の世界に戻るか選んで貰います」
「ちょうど職場の就業契約も切れて就職先を探していて暇だったしその契約お受けしますよ」
「ではまず元々あった加護を5年限定の条件で付与いたします。その上で3~5つの加護枠を使って能力を授けます内容によっては1つか2つにもなります。それが終わり次第向こうの言語・文字が理解るように知識と1週間宿で暮らせるお金と3日間分の携帯食料、護身用の短剣をそして自身のステータスが見れるようします」
「では能力を決めて頂きます」と言われ異世界で必要があり自分の相性にあったものは…まずは身体能力の向上と成長率向上だな、ただし高すぎるのも問題があるからその世界での小さい町の警備兵と同等の身体能力と通常の成長率の1.2倍ってところが無難だな。次は自身の加護の鑑定眼を詳しく理解し作成されたものは使った材料やレシピまで理解る解析眼にアップグレードっと。あとは今までやっていたVRMMOの自分のキャラの生産スキルとそのレシピ(神器系統やチート系、蘇生系除外)だな。
それを伝えると意外だと言われた。他の方々なんてチート系な願いが多かったと例えば不老不死とか魔力無限とかそれでも加護枠を超えるので不老不死は20代で老化が止まり死にづらくなるといった他の人から見ると不老不死的なものに変更するなどして調整したらしい。
「そうですね身体能力系統はそんなに突出していませんし似たような成長率の方もあちらの世界にはいますので加護枠の消費は1/3ですね。次は解析眼ですか元の加護を強化する形ですので加護枠の消費は2/3ですね。これで消費加護枠が1になりましたね、最後は貴方がやっていたゲームのキャラの生産スキルの付与ですか、どれどれ・・あぁこれは汎用性があるスキルですね貴方のもう1つの加護にも重なるところがありますし、レシピを登録すると武具でも薬品でも家具でも必要素材と必要MP量を消費して熟練度で成功率が変化すると、それにレシピもミリタリーバランスを崩さないよう限定してあるようですので加護枠の消費はギリギリ1にしておきましょう。そうですねここまでの願いで貴方の性格が分かって来ましたし信用もできそうなので、あと2枠追加して残り3枠空きが出来ましたけどどうします?」
あと3枠か生産スキルでアイテムボックス的な鞄やポーチが作れるけど自身を通して亜空間にしまえるアイテムボックスがいいかな。条件付けは収納可能数が30で生き物は不可でいいだろう。次はスキルで作成したものをMPを使って修復できるスキルで後1つは精神の強化だな、よくある作品でゴブリンのような人型のモンスターとか獣、野盗の命を奪うことで起きるであろう罪悪感からくる嘔吐を抑えたり魅了や洗脳への耐性を上げる目的だ。
5分程度考えて出したのを伝えると「ここまでくると生産よりの冒険者って感じですね」と言われた。
確かに今までやってきたVRMMOでも生産6:攻略4といった感じで上級者なのに初心者や中級者向けの中級装備を扱う道楽店の主と言われてきたからな。
ちなみに廃な連中からは『老舗の店主』と言われていたり主に使っていた武器が螺旋槍や大鎌、連結刃から『浪漫武器の先駆者』などと言われていたし。
そんなことは置いといて能力の設定も終わり知識の習得も軽い頭痛がしただけで終わり、謎の素材で出来たリュックを背負い硬貨の入った革袋を付け、向こうの一般的な駆け出し冒険者が着ているの皮の服に着替え鉄で出来た短剣を腰に差し準備を整えた。
「準備が終わりましたようなので転移部屋へ移動してもらいます」
目の前に出現した扉を開けると少女が1人20代半ばの細身の女性が1人同じく20代半ばの小太りな男性が1人俺と同じような服装で応接室みたいな部屋で座っていた。
扉の開閉音でもしたのかこちらを振り返って女性と男性は軽く会釈をしていたが、少女は驚いた表情をして立ち上がりこちらに走り寄って来てその勢いで抱き付きサバ折りしてきた。
「悠兄さん!悠兄さん!ごめんなさい、いつも問題ごとがあれば1人で抱え込まず周りを頼りなさいって教えてくれてたのに…。私、1人で悩んで友達を助けようとしてあいつらに殺されちゃったよ」
サバ折りでかなり痛いが泣きじゃくりながら感情を吐露する妹分を宥めるように頭を撫でて落ち着かせる。
泣き止むまで10分ほどかかったが座っている男女と管理者の女性は嫌な顔をせず黙っていてくれた。
「では、全員集まりましたので今回の異世界行きの本当のお話させていただきます。まずこちらの世界の元管理者は、管理権限を剥奪し能力を封印または軽減させ、執行猶予として5年間他の世界で人としての感覚を死ぬことへの恐怖を思い出してもらいその後こちら側で処断します、が完全に殺せないのです。これは我々に課せられた法であり理りでもあるのです。そこでほとんどの力をそぎ落とし人間に神殺しを成してもらうことを3000年前に我々の間で決まりました」
右端に座っている男性がにやけながら話の腰を折る。
「つまりこの中の誰かに神殺しになれって事だろ。じゃあ俺がサクッと殺ってやるよ、俺の加護だったら簡単だろう」
話の腰を折られ少し不機嫌そうになった管理者は男性の時だけを止めて改めて話を続ける。
「ですが実際の所、あなた方にはアレは殺せないのです。アレはこうなった時の予防策として直接攻撃できないように細工していたようで、その細工を外すには一旦魂を分解しなければならず、分解してしまったら再構築できずに次の加護が与えられ転生してしまうのです。そこで我々は別の手を考えたのです。奪われたなら自分で取り返して貰おうとそこであなた方3人には追跡者という能力を付与します、それがあれば相手のいる場所をリアルタイムで所在国と所在している街の名前が分かります。あとはその場所に行きターゲットを見れば自ずと転生者だと理解できるようになっています。あとこの能力は自身の加護を取り返せずに5年経つと限定付与した加護と共に消えますし8人全員始末できた時も消えます。以上で説明を終えますが何か質問はございますか?」
隣にいる女性が手を挙げると管理者がどうぞとうながす。
「例えば自分が倒したのが他人の加護持ちだったらどうなるんですか」
「その場合は本来の人のもとに戻りますし、開放した加護枠分を貰えます。新しい加護枠には例えば耐火の加護とかその世界で普及している加護か新しい能力の付与に使われます」
「それなら余計な恨みは買わずに済むので良かったです」
女性はほっとしながら「質問はもう無いです」と管理者に言い、俺も「気になったのはそこだったので大丈夫です」と先に進んで下さいと促す。
それと同時に男性の止まった時が動き出した。
「では次にあちらの世界の貨幣の説明をします。まず銅貨、角銅貨、銀貨、金貨、紫晶貨、虹晶貨があり
銅貨10枚 → 角銅貨1枚
角銅貨10枚 → 銀貨1枚
銀貨100枚 → 金貨1枚
金貨100枚 → 紫晶貨1枚
紫晶貨10枚 → 虹晶貨1枚
というレートになっています。そうですね貨幣価値は銅貨1枚≒10円と思っていただければ良いかと。あとお金は銅貨1枚で1ルクツで宿屋やお店では銅貨10枚という言い方や10ルクツと言ったりする事があります」
「では説明はこれで終了致します。お互いの自己紹介はこの後行うかはお任せします、あちらの扉から出て行かれると異世界に転移致します。私は出て行きますが、あなた方が全員転移するまでこの部屋は存在していますのでご自由にどうぞ」
と一礼して管理者の女性は目の前で消えた。
小太りな男性は一目散に扉を開き出ていった。それを見て3人とも唖然としていたが気を取り直してお互いに自己紹介した
「俺は八重垣 悠斗、契機が切れるまではスーパーの警備主任をしていた」
「私は七橋 雪、悠兄さんとはご近所さんで妹分です。あと中学3年でした」
「私は一之瀬 明日羽です。事務員をしていました」
それぞれ自分の望んだ能力で公開してもいいと思ったものを話した。
そのうち自分の公開した能力は解析眼と生産スキルで、ユキが公開したのは気配察知と罠師だった。
ユキいわく、殺された時の状況が追い詰められて突き落とされたからだそうだ、多分仕返しするためであろう。
アスハさんが公開したのは鷹の目と精神統一で多分弓を使うつもりなのだろう。
そして最初の1年は一緒に行動する事にした。
これは自身の力を付ける為とお金の節約の為、そして安全の為だ。
さてこれでここで出来る事は全部終えたので転移ではぐれないように3人で手を繋ぎ扉をくぐった。