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聖獣の保父さん  作者: 結城大輔
プロローグ 俺と三匹の毛玉たち
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第七話 物思いなう

お気に入り登録、感想ありがとうございます。

前半はほのぼのシーンが少しだけありますが、中盤から真面目シリアスモードに突入します。

頑張って書いていきますので、応援よろしくお願いします。


 あー、疲れた。本気で痛い。


 子狐に噛まれた尻が本気で痛い。絶対に尻に穴が開いているよ、本当に。


 あの後、一人だけ無視されたのがつまらなかったのだろうか。そう考えた俺は、いったん子犬さんと子猫さんをいったん地面に降ろすと、新しい串を子狐の前に突き出してみた。


 さあ、子狐さん。思いっきりかぶりつくがいい。


 子狐さん、大きく口をあけて、噛みつきました。



 ――――俺の手を、全力で、噛みつきました。



 手を押さえて悶絶する俺。


 怒りが収まらないのか、そのまま追撃を実行する子狐さん。必死で逃げだす俺。追いかける子狐さん。必死で逃げる俺。本気で追いかける子狐さん。遊んでいるとでも思ったのか、子犬さんと子猫さんも参戦。三匹に追いつかれぼこぼこにされる俺。


 もういやだ。


 子狐さんだけは怒らせるのは本気でやばい。




 毛玉たちが満腹になってから、残りの肉で腹を満たした。


 鶏肉自体の味は適度に脂がのっていて美味しかったが、香辛料がないため、初めのうちは肉の味を楽しめていたけど、単調な味に飽きてしまった。塩こしょうをしていない肉がこんなに食べにくいとは。


 醤油と塩がほしかった。そうすれば焼き鳥風で最後まで楽しめたのに。


 調味料の偉大さを知ったそんな夜だった。




 しばらく時は過ぎ、遊び疲れて眠くなってしまったのか、毛玉たちは俺が脱いだパーカーを寝床にし、三匹で寄り添うように丸くなった。


 かわいらしいその寝姿に思わず苦笑を浮かべてしまう。


 そんな毛玉たちの様子を眺めているうちに、今まで棚上げしていた不安が湧き出してきた。


 俺はこの後どうなるのだろう。


 少なくとも、今日の昼までは東京の大学にいた。それなのに、気が付けば山の中だ。


 このまま山を下れば民家に出て、どこにいるか確認して、電車で東京に戻る。電車代が馬鹿にならない。最悪、実家のほうが近ければ、実家に帰るという手もあるが、田舎なのでバイトできる場所を探すのは至難の業だ。それならば、多少無理してでも東京で新しいバイトを探すか。


 さっき捕獲したにわとり(?)を考えてみれば、あり得ない話ではあるが、今いるここは海外かもしれない。あんな巨大なにわとり(?)が日本の山奥に生息しているなんて聞いたことがないからだ。


 おいおいおい、待て待て待て。あり得ない可能性を考えても仕方がない。第一、常識的にいって、いきなり転移したら海外にいました~、なんてことはあり得ない。まあ、万が一、億が一、そんなことがあったとしても、その場合は領事館に行って助けを求めればいいわけだし。


 あと、この三匹の毛玉たちについても頭が痛い問題がある。


 可愛くて仕方がないが、野生動物である。野生の動物は、自然の中で生きていくべきである。ましてや、人間の勝手な都合で飼うなどもってのほかである。


 毛玉たちはすでに肉を食べられるほどに成長しているが、まだまだ親元で狩りの勉強や生きる術を学ぶ時期であろう。


 何故違う種類の子供が一緒にいたのかは疑問であるが。


 俺がこのまま三匹を放置していけば、最悪、餌が取れなくて餓死という結果になってしまうかもしれない。しかし、大自然の掟という前提から見れば、その結果を受け入れるべきなのだろうか、少しの間でも可愛がってしまったのだ。情がわいてしまう。


 ならどうすればいいのか。


 狩りの仕方を教える?


 却下。そんな時間があるわけないし、何より、野生の狩りの仕方など、教えることなどできない。


 一瞬、自分が四つん這いになって毛玉たちと一緒に狩りをしている光景が頭を横切ったが、そのシュールな光景に苦笑するしかない。


 山を下りる途中で可能な限り、毛玉たちの親を探す。


 これしかないだろう。多少進むスピードが遅くなるのは仕方がないが、これしか手はないだろう。


 見つからなかった場合、非情ではあるが、ここに残していくしかない。


 自己中心的な考えで決めた方針に、自己嫌悪に陥りそうになるが、その考えから目をそらすために一番近くに寝ている子犬さんの頭を撫でる。


「悪い。自己中心的な人間で」


 自己嫌悪でどうにかなってしまいそうだ。


 そんな俺の内心など知らないのか、撫でられた子犬さんは気持ちよさそうに頬を緩ませた……ように見えた。


 そんな可愛らしい反応とふわふわの感触に顔をほころばせた。




 しばらくそのまま撫で続けていると、ふと、何かがおかしいと思った。


 何かがおかしい。おかしいのだが、何がおかしいのか、何に違和感を感じたかのかわからない。


 その違和感が何かを探すために周囲を見渡す。


 たき火が明るいため、周囲は真っ暗で、見えるものと言ったら星空と木の影しかない。


 そこにおかしいところはない。


(何が、何がおかしい?)


 夜も更けているため、真夏であるのにもかかわらず、半袖では少し寒いと感じるほどの気温である。


 また、虫の音もせずに、聞こえる音と言ったらたき火から聞こえるはぜる音だけである。


 それ以外は奇妙なほど静かである。


(音、だ。何で虫の音が聞こえない?)


 今の季節は夏であり、普通ならば騒がしいほど虫の音やフクロウのような夜行性の動物の鳴き声が聞こええるはずである。


 毛玉たちと遊んでいるときは聞こえていた。


 それが今は聞こえない。


(おかしい。何が起きている)


 そのことに気が付いた瞬間、先ほど感じていた気温の低さは、単純な気温の低下だけではなく、何かが 原因で気温が下がったと錯覚しているのではないか。


 夜行性の猛獣が近づいてきている?


 こちらには、火がある。野生動物なら火を恐れるはずではないのか。


 訳が分からない。


 俺は辺りを油断なく見渡しながら、毛玉たちを起こそうとしたその時、いきなり森の一部分に光源が現れた。


「鬼火?」


 火である。火の玉が浮かんでいる。


 距離は三十メートルほど。その明かりに照らされた光景を見て一瞬頭が真っ白になる。


 信じられない。


 あれはなんだ。


 呆然としたその瞬間、火の玉がこちらに向かってものすごい勢いで飛んできた。


 そして俺の手前数メートルの位置で地面に激突すると同時に、森の静寂を打ち破るようにものすごい爆音とともに爆発した。




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