↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖獣の保父さん  作者: 結城大輔
プロローグ 俺と三匹の毛玉たち
9/14

第八話 逃走中なう

10000PV、2500ユニークありがとうございます。

涙で前が見えません。


今回、あまりギャグともふもふがありません。

必要なこととはいえ、早くプロローグを終わらなさないと。

 轟音とともに、地面が弾けた。


 俺の意識がその事実を認識するよりも先に、体が自然に動いていた。


 素早く脇で寝ていた毛玉たちを抱き寄せ、爆発から守るように背を向けしゃがみこむ。


 爆発で割れたのか、石の破片やら土砂が俺の背中にあたる。


 昔、何かの本で読んだことがある。手りゅう弾の爆発自体の殺傷能力は低い。それよりも怖いのは、爆発によってばらまかれる破片である、と。あと、テロリストは爆弾の殺傷能力を高めるために釘や金属片などを爆弾に仕込む、と。


 俺が何を言いたいかというと、爆発で飛んできた破片が背中に当たり、かなり痛い。泣きそうになるくらいに。


 しかし、その痛みなど、序の口でしかないということが次の瞬間わかった。


「ぐっ―――ぁ!?」


 左肩に体に熱い棒でも突っ込まれたような激痛が走った。


 痛みに顔を歪めながら、左肩を見ていると矢が刺さっていた。


(矢………だと?)


 意味が分からない。火の玉が飛んできたらいきなり爆発が起こり、土砂まみれになったと思ったら、次は矢ときた。何が起きている。


 そして思い出す。


 火の玉が現れた時見えた、あの光景を。


 火の玉という明かりに照らされる、醜悪な顔を持つ小柄な人間を。あれを人間といっていいのだろうか。化け物のように醜悪な顔。童話に出てくるような魔女のような鷲鼻。ぼろぼろの布きれをまとった小柄な体躯。敢えて言うなら―――化け物。それが数体。


 俺は激痛を無視して立ち上がる。何が起きたかわからなくて怯えている毛玉たちを抱き上げながら。

火の玉が飛んできた方向に振り替えると、月明かりに照らされる複数体の化け物の姿。


 その数は五。一体は火の玉を投げてきた化け物と、シルエットで弓を持ってこちらに向けているのが二体。手に巨大なナイフをと棒のようなものを持ってこちらに駆け寄ってくるのが一体ずつ。


 俺の周囲には数本の矢が刺さっていることに気が付く。


 そのうちの一本が俺の左肩に当たったのは不幸なことか、それとも、一本しか当たらなかったことが幸運なのだろうか。俺には分からない。が、


(こんなところで突っ立っている場合じゃない)


 相手が何者であるかはわからない。でも、俺に対して害意のあるものであることは間違いない。何しろ、火の玉を投げつけてきて矢を撃ってきたのだ。


「毛玉たち。逃げるぞ」


 俺は毛玉たちに向け、一言つぶやくと同時に森に向けて走り出した。


 相手に対して背を向けることになるが、後ずさるのは危険だった。間違いなく石に足を引っ掛け、倒れてしまう。


 思考は冷静に。行動は大胆に。


 空を切り裂くような音が聞こえ、地面に突き刺さる音が聞こえる。


 矢だ。矢を撃ってきている!


 見えない恐怖に足が乱れそうになるが、意志の力で抑え込み、俺は林に駆け込んだ。




 俺は木々の間を駆け抜けながら、混乱する思考を落ち着かせることで必死だった。


 落ち着け落ち着け冷静に落ち着け冷静にクールだクールになるんだ。そうだこういう時は可愛いもの可愛いものを見るんだそうだこの手には子犬さん子猫さん子狐というもふもふがいるではないか。その震える姿を見て―――って、見たら木にぶつかる。


 そうだ。落ち着け。OKOK。ありがとう、毛玉たちよ。何とか落ち着くことができた。


 両手で抱きしめている毛玉たちが震えているのがわかる。それはそうだろう。気持ちよく寝ていたらいきなり爆発音でたたき起こされ、いきなり抱きあげられると、そのままものすごいスピードで運ばれたら、誰だって怯えるだろう。俺なら泣く。


 にしても、左肩が痛い。血が肌をつたって落ちていくのがわかる。すぐに止血しないとまずいのだが、立ち止まって止血している暇などない。少しずつ距離が遠くなっているのがわかるがまだ化け物どもが追ってきているのだ。


 追われている最中にわかったことだが、やつらの走るスピードは意外と遅い。


 奴らの身長は120~30センチぐらいだった。対する俺の身長は180センチだ。

歩幅は当然俺のほうが大きいし、必死に走っているのだ。これで距離を離せなければ、泣くしかない。

林の中は足場が悪いうえ、木々が乱立しているため、全力で走るわけにはいかない。


 多少暗闇に目が慣れてきたとはいえ、明かりも月明かりしかないので、全力で走ったら、十中八九転倒する。


 転んだら、終わりだ。


 はっはっはっはっ。泣けるぜ。


 ふと、前方に動く影が見えた。そして不愉快な鳴き声も聞こえる。


 俺はあわてて木の陰に隠れて前方の様子をうかがう。


 先ほどの化け物と同じような背丈の影が複数体見える。


 回り込まれた? 何時の間に?


 いや違う。後ろから追いかけてくるのはおとりで、今前方にいる化け物の仲間の居る場所に俺たちを追い込むのが本命なのだろう。


 醜悪な化け物のくせに頭が回る。


 内心で舌打ちするが、考えてみれば不幸中の幸いだ。罠に飛び込むことなく、事前に気が付くことができたのだ。


 俺は音をたてないように足を忍ばせて方向転換する。


「にゃぁ!」


「え!?」


 一歩踏み出そうとしたところに、いきなり子猫さんの鳴き声。俺は驚いてしまい、その場で固まってしまう。


 いいいいいいきなり叫ばないでください子猫さん。敵に見つか


 ぶん! という音ともに、目の前を何かが横切り気配と、地面に何かをたたきつけるような音が聞こえた。


「なっ!? うわぁ――――」


 それが何であるか理解するよりも先に、視界の片隅に俺に向けて飛来する矢が見えた。


 本来であるなら、視認することすら難しいスピードのはずなのに、奇妙なことに、矢の動きがスローモーションに見えた。


 矢は俺の心臓めがけて飛んできている。矢が当たるであろう射線上には、毛玉たちがいる。


 避けることはできない。体は驚きで硬直していてすぐには動かない。毛玉たちを持ち上げて毛玉たちを守ることはできるが、俺は死ぬ。俺が死ぬのは仕方ないが、俺が死んだあと毛玉たちではこいつらから逃げられないかもしれない。


 ―――ならば、


 俺は覚悟を決め、射線上に右腕を突き出す。矢の矢じりが俺の骨に突き刺さるように。


 スローモーションだった世界が、通常の世界に戻る。


 俺のもくろみ通り、矢は俺の右腕に突き刺さる。骨に突き刺さったため、矢は貫通していない。

よかった。毛玉たちは無事だ。


 安心するよりも先に、解決しなければならない問題が。


 俺のすぐそばにいる化け物をどうにかしなければ。


 幸いにして、相手は体勢を崩している。この隙を逃すわけにはいかない。


 両手は使えない。左腕は毛玉たちを抱えている。右腕は矢が刺さっているためうまく動かない。


 腕が使えないのなら、蹴りしかない。


 醜い化け物の胸めがけて、渾身の力を込めて後ろ回し蹴りを放つ。


 足の裏に、何かを踏み砕くような不快な感触を感じた。化け物のあばら骨を蹴り砕く、その感触。気持ち悪い。


 化け物が吹っ飛ぶ。ちょうど化け物の後ろにいたもう一体を巻き込みながら。


 ストライク!


 思わず右手でガッツポーズをしようとした瞬間、激痛が走った。何ボケをかましているのだろう、俺は。そんなことをしているよりも先に、やらなければいけないことがあるだろうが!


 子猫さんの声に反応して先ほどよりもたくさんの気配がこちらに向かってきているのが分かった。


 逃げなければ。俺は身をひるがえしてその場から駆け去った。




「はぁはぁはぁはぁ」


 逃げ始めて何時間経ったのだろう。腕時計を確認しようにも、左腕には毛玉たちがいる。持ち直そうにも、右腕は動かない。先ほどまでは走るたびに激痛がはしっていたのだが、今は痛みではなく、痺れを感じている。血を流し過ぎたのだろうか。


 体が燃える様に熱く、そして凍えるように震える。相反するような体の反応が恐ろしい。


 全身が脂汗まみれだ。痛みは感じないだけだ。体は痛みに反応しているのだろ。脂汗が止まらない。


 呼吸は煩いぐらい荒いし、足元はおぼつかない。気を抜いてしまったら、すぐに転倒してしまうだろう。


 にしても、予想外だった。いや、こちらの想像力不足だった。


 五体程度で獲物を罠に誘い込めないのは相手も承知済みだったのだ。だから、包囲網を組んだのだろう。後ろから追いかけるヤツ以外にも、わき道にそれた獲物を正しい道に導く伏兵が。


 俺が罠に気が付いたと判断して、襲いかかってきたのだろう。子猫さんの鳴き声がなかったら、死んでいただろう。子猫さんに感謝だ。


 しかし、その包囲網も抜けることができた。逃げられるのも時間の問題だろう。最後まで俺の体が持てばだが。


 

 限界はすぐに、そして唐突に訪れた。


 気が付いた時には、激しい衝撃が全身を襲っていた。


 突然の出来事に、何が起きたのか理解できない。


 転んだ。足がもつれて転んでしまった。


 ちくしょう。早く立ち上がらないと。


 ああ、毛玉たち。投げ出してごめん。痛かったか。悪い。


 立ち上がろうとするが、すぐに足がもつれて倒れてしまう。


 あれ。おかしい。


 立ち上がろうとするが、すぐに足がもつれて倒れてしまう。


 あれ。なんだこれ。おかしい。


 立ち上がろうとするが、すぐに足がもつれて倒れてしまう。


 何度か同じことを繰り返して、ようやく気が付く。全身が痺れてうまく立ち上がることができない。


 右腕も左腕も右足も左足もすべてが痺れている。


 血を流しすぎたのか、疲れが原因か、それとも、ほかに何らかの原因があるのか。


 原因はどうでもいい。原因なんてどうでもいい。今問題なのは、体が痺れて立ち上がることができないことだ。


「は、はははは」


 笑っている場合ではない。急いで逃げなければならない。早く立って、逃げないと、毛玉たちも殺されてしまう。


 俺は何とか上半身をおこし、毛玉たちに声をかけようとしたその時、ようやく気が付いた。


 目の前に、先ほどの化け物がたっていることに。


 逃げようにも、腕が、足が、体が、動かない。



ご感想お待ちしております。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。