34話 一週間後に開園しちゃいます!?
開園準備を手伝ってくれる三人の専門家が加わり、いよいよ本格的な準備が始まる。
まずは話し合い――と思った雷牙だったが、そもそも会議をするための場所すらなくて……?
何もなかった草原が、少しずつ「遊園地」へ変わっていきます。
「では、まずは開園するために必要なものを整理しましょう」
「はい!」
セドリックさんの言葉に、俺は大きく頷いた。
昨日までは、開園準備について一人で頭を抱えていた。
でも、今日からは違う。
伯爵家から一時的に来てもらった、三人の専門家がいる。
人や金、物資の管理に詳しいセドリックさん。
警備を担当してきたガレスさん。
そして、庭師のオルドさん。
この三人と一緒なら、俺一人では分からなかったことも、一つずつ決めていけるはずだ。
「それじゃあ、さっそく――」
言いながら、俺は周囲を見回した。
「…………」
セドリックさんたちも俺を見る。
俺たちは四人とも立っていた。
目の前にはメリーゴーランド。
少し離れたところにはコースター。
その向こうには遊覧車のために作った灰石の道がある。
草原もある。
木もある。
でも、それだけだ。
「……会議する場所がないですね」
「ありませんね」
セドリックさんが冷静に答えた。
そうだった。
今までここにいたのは基本的に俺一人だ。
一人なら地面に座って考えたっていいし、疲れたら適当な場所で休めばいい。
でも、四人で相談するとなると話は別だ。
「ちょっと待っててください。すぐ作ります」
「作る?」
俺は【無限収納】から、残しておいたラグナ樫材を取り出した。
乗り物を作ったときの余りだ。
豪華なものはいらない。
紙を広げて話せるくらいの机と、四人が座れる椅子。
形も構造も単純だから、これなら問題なく作れる。
「【建築】」
魔力を流す。
用意した木材が動き、組み合わさっていく。
長方形の机が一つ。
その周囲に、背もたれのついた椅子を四脚。
念のため自分で座り、ぐらつきがないことも確かめる。
「よし。これで話せます」
「……便利なものですな」
オルドさんが感心したように机を撫でる。
「こういう単純なものなら作りやすいんです」
「なるほど」
セドリックさんもそれ以上は追及せず、椅子に座った。
青空の下に机と椅子が置かれただけの、即席の会議室だ。
雨が降ったら終わりだけど、今日はこれでいい。
「では、改めて」
セドリックさんが、俺が朝から書いていた紙を机の上へ広げた。
「ライガ様が挙げられたものは、入口、受付、料金、営業時間、休憩場所、そして人員ですね」
「はい。考えてたらどんどん増えました」
「今後も増えるでしょう」
「やっぱりですか……」
「ですが、すべてを一度に整える必要はありません」
セドリックさんが紙を指で軽く叩く。
「まずは、開園するために最低限必要なものからです」
「最低限……」
どこまであれば遊園地を開けるのか。
俺が考えていると、今度はガレスさんが口を開いた。
「その前に、一つ決めていただきたいことがあります」
「なんですか?」
「客をどこまで入れるのかです」
「どこまで?」
「ライガ様が借りている土地の範囲は聞いています。しかし、あれだけ広い土地のすべてを、最初から客に開放する必要はないでしょう」
「あ」
言われてみればそうだ。
今ある乗り物は三つ。
それに対して、借りている土地には何も作っていない場所がかなり残っている。
「使っていない場所まで自由に歩けるようにすれば、警備する範囲も広がります。子供が入り込み、見えない場所まで行く可能性もある」
昨日遊びに来たアリア様を思い出す。
あのくらいの子供なら、気になるものを見つけて走っていってしまうこともありそうだ。
「それに、開園したあとも何かを作るのでしょう?」
「もちろんです」
「ならば、客がいる場所と建設中の場所は分けるべきです」
「なるほど……」
借りている土地全部を、最初から遊園地として使う必要はない。
まずは今ある三つの乗り物と、人が過ごすために必要な場所だけを開放する。
そして、新しい乗り物を作ったら、そのときに広げていけばいい。
「じゃあ、今使う範囲を先に決めましょう」
「それがよいでしょう」
話が決まれば早かった。
俺たちは一度、敷地を歩いた。
街から続く道に近く、今まで俺が出入りしていた辺りを入口の候補にする。
そこからメリーゴーランド、コースター、遊覧車の道を含める。
オルドさんの意見で、昨日話していた木陰になりそうな場所も中に入れた。
反対に、まだ何も作っていない広い草地は、今のところ外側にする。
もちろん、借りている土地であること自体は変わらない。
ただ、開園したときにお客さんが自由に歩ける範囲を、ひとまずそこまでにするということだ。
「このくらいならどうですか?」
一通り歩き終えて聞く。
「よいと思います」
ガレスさんが頷いた。
「では、次は境界を明確にする必要があります」
「柵ですか?」
「柵でも構いませんが……」
ガレスさんは少し考えてから、首を横に振った。
「私なら、もう少し確実なものを勧めます」
「確実?」
「壁です」
「壁……」
「開園中に客が誤って外へ出ないためだけなら、柵でもよいでしょう。しかし、閉園後に外から侵入する者への対策まで考えるなら、簡単に越えたり、隙間から入ったりできない方がいい」
俺は周囲を見る。
今は何もないから、どこからでも入り放題だ。
乗り物の操作部分にだって、簡単に近づける。
もし夜中に誰かが入って、勝手に動かしたら。
壊されたら。
それどころか、勝手に乗って怪我でもされたら。
「……壁にしましょう」
俺はすぐに答えた。
「いいのですか?」
「安全に関わるなら、その方がいいです」
見た目より、まず安全。
そこは迷わなかった。
問題は――。
「材料ですね」
かなりの長さになる。
全部を木で作るとなると、相当な量が必要だ。
せっかく残している木まで大量に切ってしまうのは嫌だった。
「石と土なら、あるんだよな……」
足元を見る。
以前、整地したときにも使った。
土魔法で土そのものを作り出すことはできなかったけど、動かすことはできた。
灰石も、この辺りから集められる。
「……やってみるか」
俺はまず、壁を作る場所を確認した。
地面から適当に土を抜けば、その場所がへこんでしまう。
だから、開園区域の外側で土地に影響が出にくい場所から少しずつ集める。
土魔法で移動させ、掘った場所も不自然な穴にならないよう均していく。
さらに、周囲から集めておいた灰石も取り出した。
「【錬金術】」
土と石を、そのまま積み上げるわけじゃない。
壁材として扱いやすい形へ加工していく。
石を含んだ硬い建材が、次々とできあがった。
「これを……」
頭の中で壁の形を思い描く。
大人でも簡単には乗り越えられない高さ。
厚みも持たせる。
でも、城壁を作りたいわけじゃない。
あくまで遊園地の境界だ。
「【建築】」
魔力を流した。
用意した壁材が次々と動き、地面の上に組み上がっていく。
「おお……」
自分でやっているのに、思わず声が出た。
一本の壁が伸びていく。
今までどこまでが遊園地なのか分からなかった草原に、はっきりと境目ができていく。
途中で材料を追加し、また組み上げる。
必要な場所では壁の向きを変え、決めた範囲を囲っていく。
さすがに一瞬ですべて完成とはいかなかった。
範囲が広い。
魔力もかなり使う。
途中で休みながら、それでも三人に手伝ってもらい、少しずつ進めていった。
ガレスさんには、警備上見通しを確保した方がいい場所を教えてもらう。
オルドさんには、残してある木の根を傷つけないよう壁の位置を調整してもらった。
そして――。
「……できた」
俺は額の汗を拭った。
まだ入口にする部分は大きく開けてある。
でも、それ以外の場所には、俺たちが決めた開園区域を囲う壁ができていた。
「これなら、簡単に入ってくるのは難しいでしょう」
ガレスさんが壁を確認している。
「閉園後の警備については別に考える必要がありますが、何もない状態とは大違いです」
「よかった……」
俺も少し離れて壁を見る。
「…………」
安全面はいい。
頑丈そうだし、簡単には越えられない。
これなら子供が間違って外へ出ることも減るだろう。
でも。
「……なんか違う」
思っていたものと違う。
ものすごく違う。
「どうされました?」
セドリックさんが聞く。
「いや、安全なのは分かるんですけど……」
俺は目の前の壁を見上げた。
「遊園地っていうより……」
「砦ですな」
オルドさんが言った。
「ですよね!?」
やっぱりそう見えるよな!?
せっかく遊園地を作っているのに、これでは外から見た人が「楽しそう」と思うより先に「何を守ってるんだ?」と思いそうだ。
「壁を低くする?」
「それでは作った意味が薄れます」
ガレスさんに即座に却下された。
「ですよね……」
安全のために作ったのに、見た目のために安全性を下げたら意味がない。
どうしたものか。
俺が悩んでいると、オルドさんが壁へ近づいた。
「別に、壁そのものを変える必要はないでしょう」
「え?」
「隠せばよいのです」
「隠す?」
「木や草花を使います」
オルドさんが壁に沿って歩く。
「壁が必要なのは安全のため。しかし、訪れた者にまで、この無骨な壁を意識させる必要はありません」
なるほど。
壁をなくすんじゃない。
壁が目立たないようにすればいい。
「木を植えるんですか?」
「木だけではありません。低木も使えますし、場所によっては花を植えてもよいでしょう。ただし――」
オルドさんが壁のすぐそばを指した。
「何でも近くへ植えればよいというものではありません」
「そうなんですか?」
「大きく育つ木には、大きな根が張ります。壁のすぐ近くへ植えれば、いずれ根が壁へ影響することもあります」
「あ……」
そこまで考えていなかった。
「それに、外から壁を越える足場になるような木を植えては、ガレスの仕事を増やしてしまいます」
「できれば避けていただきたいですね」
ガレスさんが真顔で答えた。
「確かに」
壁を隠すために木を植えて、その木を使って侵入されたら意味がない。
「では、植える場所と種類は私が考えましょう」
「お願いします」
そう答えてから、俺はふと思った。
「でも……」
今から苗木を植えたとして、壁を隠せるくらいになるまで何年かかるんだ?
もちろん、少しずつ育っていく景色も悪くない。
でも、開園はもっと早くしたい。
「植物か……」
俺は自分の手を見る。
魔法。
俺には全属性の魔法適性がある。
火や水、風、土はもう使っている。
なら――。
「植物を育てる魔法って、使えないかな」
「魔法で、ですか?」
オルドさんが興味深そうにこちらを見る。
「ちょっと試してみてもいいですか?」
「ええ。ただ、いきなり大きな木で試すのはやめた方がよいでしょうな」
「ですね」
俺も何が起こるか分からない。
まずは小さいもので試そう。
オルドさんに相談し、周辺に生えている植物の中から移しても問題なさそうな若いものを選んでもらう。
土魔法で根を傷つけないよう周囲の土ごと掘り起こし、壁から少し離れた場所へ移す。
水魔法で水を与える。
ここまでは普通だ。
「問題はここからだな……」
しゃがみ込んで、植物へ手を向ける。
火を出すときとは違う。
風を起こすのとも違う。
新しい植物を作るんじゃない。
今ここにある植物が持っている成長する力。
それを魔力で後押しするようなイメージ。
慎重に魔力を流す。
「…………」
最初は何も起きなかった。
「違うか?」
もう少し意識を集中する。
すると――。
「お?」
葉が動いた。
風じゃない。
細かった茎が少しずつ伸びている。
新しい葉が開く。
「おお……!」
いける。
そう思って魔力を強めようとした瞬間。
「ライガ様。そのくらいで」
「え?」
オルドさんに止められ、魔力を切る。
「もうですか?」
「もうです」
育った植物を見る。
俺としては、まだ壁を隠すには全然足りない。
「もっと大きくできそうですけど」
「できるかどうかと、してよいかどうかは別です」
「…………」
どこかで聞いたような話だ。
「急激に育てた植物が、その後も正常に育つのか。根はどうなっているのか。季節による影響はあるのか。私にも分かりません」
「……なるほど」
魔法で成長させられる。
だからといって、何でも一気に成長させればいいわけじゃない。
そこは乗り物と同じだ。
「少しずつ試しましょう」
「はい」
その後、オルドさんに見てもらいながら、いくつかの植物を移した。
俺は土を整え、水を与え、成長を少しだけ促す。
全部を一気に巨大化させることはしない。
それでも、普通に植えたばかりの苗と比べれば、明らかに育っている。
「これでも十分驚くべき速さなのですがな」
「そうなんですか?」
「普通は今日植えて、今日この姿にはなりません」
「……ですよね」
感覚がおかしくなってきている気がする。
壁全体を完全に隠すほどではない。
でも、灰色っぽい壁の前に緑が加わっただけで、印象はかなり変わった。
「おお……」
少し離れて見る。
「さっきより全然いい」
「これから少しずつ増やしていけばよいでしょう」
オルドさんが言う。
「花を植える場所も作れます。入口付近は特に、見た目を考えた方がよいでしょうな」
「入口……」
俺は、わざと壁を作らずに残してある場所を見る。
「そうだ。まだ入口作ってない」
境界ができたことで、逆にそこだけ大きく空いているのが目立つ。
「じゃあ、今日のうちに作っちゃいます」
「もうですか?」
セドリックさんに聞かれる。
「場所も決まったし、材料もありますから」
今度は壁とは違う。
人を拒むためのものじゃない。
人を迎えるためのものだ。
街から続く道を歩いてきた人が、最初に見る場所。
その先に遊園地があると分かる入口。
「……最初から凝りすぎるのはやめよう」
頭の中には、元の世界で見た立派な入園ゲートがいくつも浮かぶ。
でも、今の遊園地にあれを作るのは早すぎる。
必要になれば、あとから作り直せばいい。
まずは、大きな入口。
人が何人か並んでも通れる幅を取る。
その横には、受付として使える小さな建物。
料金を受け取ったり、来た人に説明したりできる場所だ。
材料を用意する。
ラグナ樫材。
灰石。
そして、さっき壁を作ったときに加工した建材の残り。
形をしっかりと思い描く。
「【建築】」
材料が動き出す。
柱が立つ。
屋根がつく。
人を迎えるための大きな開口部ができる。
その横には、小さな受付。
雨が降っても中にいる人が濡れないよう屋根をつけ、外側と話せる窓口も作った。
まだ飾りはほとんどない。
看板すらない。
それでも――。
「……できた」
少し離れて、入口を見る。
壁がある。
その周りには、まだ小さいけれど植物が並び始めている。
そして中央には、ちゃんと人が入るための入口がある。
その向こうに見えるのは、六頭の木馬が並んだメリーゴーランド。
さらに奥には、木製のコースター。
横へ目を向ければ、遊覧車の道も見える。
「…………」
昨日までとは、全然違った。
昨日までは、草原に乗り物が三つ置かれているだけだった。
どこから入っても同じ。
どこまでが遊園地なのかも分からない。
でも、今は違う。
ここから入る。
この先が遊園地だ。
「……一気にそれっぽくなったな」
思わず笑ってしまう。
「まだ受付の中身も必要ですが」
セドリックさんが横から言った。
「分かってますよ」
「料金も決めなければなりません」
「はい」
「営業時間も」
「はい……」
「働く者も必要です」
「……はい」
「それから、開園する日も」
「…………」
俺はセドリックさんを見る。
「まだあります?」
「あります」
即答だった。
「ですよね」
せっかく一気に進んだ気がしたのに。
でも、不思議と昨日ほど途方に暮れてはいなかった。
やることは多い。
分からないことも多い。
それでも、一つずつ決めれば前に進めることが分かってきたからだ。
俺はもう一度、完成した入口を見る。
「開園日も、そろそろ決めた方がいいですか?」
「私はそう思います」
セドリックさんが頷く。
「いつか準備が整ったら、では、必要以上に時間をかけてしまうかもしれません。先に日を決め、そこまでに必要なものを整える方が動きやすいでしょう」
「なるほど……」
俺は考える。
三つの乗り物は、もうある。
境界もできた。
入口と受付も形になった。
あとは料金。
営業時間。
働いてくれる人。
それから、実際にお客さんを迎えるための細かい準備。
何か月も必要な気はしない。
かといって、明日というのは無理だ。
「一週間……」
三人が俺を見る。
「一週間あれば、いけますか?」
セドリックさんはすぐには答えなかった。
ガレスさんとオルドさんを見る。
三人が少し話し合う。
やがてセドリックさんが俺へ向き直った。
「今あるものを使って、小さく始めるのであれば」
「はい」
「不可能ではないと思います」
「じゃあ――」
胸が少し高鳴った。
今まで、いつか開きたいと思っていた。
いつか、この世界の人たちに遊んでもらいたいと思っていた。
でも、その『いつか』には日付がなかった。
俺は入口の向こうにある三つの乗り物を見る。
アリア様が笑ってくれた。
商業ギルドの人が、もう一回乗りたいと言ってくれた。
カミル様も、乗って初めて面白さが分かったと言ってくれた。
だったら、次はもっとたくさんの人に来てもらいたい。
「一週間後にしましょう」
口にした瞬間、ただの予定だったものが急に現実になった気がした。
「一週間後――」
俺は、まだ看板すらない入口を見上げる。
「この遊園地を、開園します」
ついに決まった。
異世界で初めて作った俺の遊園地。
その開園まで――あと一週間。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
ついに開園日が決まりました!
壁を作り、植物で景観を整え、入口と受付も完成。
まだ料金や営業時間、人員など決めることは残っていますが、雷牙の遊園地はいよいよ「作る段階」から「お客さんを迎える段階」へ進んでいきます。
開園まで、あと一週間。




