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貞操逆転世界の孤高なる料理人「男ですが、路地裏で定食屋はじめました」  作者: たうやん


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第37話:準決勝の白熱と、汗ばむ肌の『極上うな重』

東西料理大極祭もいよいよ終盤。準決勝の舞台は、これまでのステージとは一線を画す、熱狂と緊張が入り混じる異常な空間と化していた。

俺、藤崎ふじさき はじめの対戦相手として調理台の向こう側に立っているのは、中央都ちゅうおうとの裏社会や政界の胃袋をも牛耳ると噂される、妖艶な孤高の宮廷料理人、不知火しらぬい おぼろだ。

「まさか、西の西園寺まで手玉に取るなんてね……。藤崎くん、あなたのその無骨で優しい手、近くで見ると本当に美味しそうだわ」

朧は、漆黒のチャイナ風コックコートの隙間から大胆に太ももを覗かせ、妖しく微笑んだ。

彼女の放つ妖艶なオーラに、客席の女たちは「朧様ーっ!」と黄色い声を上げるが、最前列の千草ちぐささんは「創に色目を使ってんじゃないよ、この妖狐!」と猛烈に威嚇している。

「準決勝のお題は【酷暑を極上の至福に変える、究極の贅沢・伝統魚介料理】!!

制限時間は50分! 調理、開始ッ!!」

ブザーが鳴り響くと同時に、朧が妖しく動いた。

彼女が取り出したのは、都の大市場で秘密裏に取引されたという、怪しく黒光りする最高級の『天然大ウナギ』。それを容赦のない手際で目打ちし、裂いていく。彼女の狙いは、宮廷秘伝の特製五香粉ウーシャンフェンを利かせたタレを何度も塗り重ねる、脳を痺れさせるような『魔性の薬膳うなぎ蒲焼き丼』だった。

一方、俺は。

「ウナギか……。奇遇だな、僕も同じだ」

俺はいつものように裏表のない、飾らないナチュラルな笑顔のまま、大市場の信頼できる老舗から仕入れた、丸々と太った活きのいい江戸前うなぎを手に取った。

伝統、そして贅沢。

このうだるような熱気の中で、高級なだけの料理は胃を疲れさせる。

宮廷のスパイスにも負けない、だけど日本人のDNAに深く刻まれた、身体の底から「生きててよかった」と思えるほどの純粋な多幸感。それこそが、俺がこの大舞台で出すべき答えだ。


職人の手解き:炭火の煙と、鍛え上げられた職人の『串打ち・蒲焼き』


「ウナギの美味さを120%引き出すには、ここからの数分がすべてだ」

俺は調理服の袖を二の腕の限界まで力強く捲り上げ、包丁を握った。

背開きにしたウナギの身に、細かく、等間隔に金串を打っていく。この『串打ち』は、ウナギの硬い皮目と身を崩さず、均一に火を通すための最も地味で、最も高度な技術だ。

大型スクリーンに映し出された俺の姿。

調理服の袖から露出した、毎日重い鉄鍋を振り、包丁を握りしめ続けて鍛え上げられた、男らしい引き締まった二の腕と前腕の筋肉。炭火の強烈な熱気によって、その小麦色の肌に大粒の汗がじわりと浮かび、筋肉の筋に沿って妖しく流れ落ちていく。

そのあまりにも雄々しく、硬派で色気のある職人の佇まいに、スタジアムの数万人の女性客から「は、激しすぎる……ッ!」「あの男の人の腕の筋肉、汗で濡れててヤバい……!」「私をあの炭火で焼いて!」と、狂気じみた絶叫と悲鳴が地鳴りのように湧き起こった。

パチパチパチッ……! シィィィィーッ!

団扇をリズミカルに煽り、炭火の熾り(おこり)をコントロールする。

「まずは白焼きだ。皮目をパリッと焼き、余分な脂を炭に落として、その煙で身を燻す!」

滴る脂が炭に落ち、香ばしい煙がウナギを包み込む。

白焼きにしたウナギを一度、じっくりと「蒸し器」へ投入。この『蒸し』を入れることで、関東風の、箸を入れただけで崩れるほどのフワフワ感が生まれる。

そして仕上げ。俺がこの夏休みの港町(みなと食堂編)で、渚さんたちとタレの研究を重ねた経験からさらに進化した、秘伝の『極み本醸造醤油と熟成みりんの黄金タレ』。

蒸し上がったウナギをタレにドボンと浸し、再び炭火の上へ。

ジューーーーーーーッッッ!!!

立ち上る、甘辛く、そして炭と脂が焦げる世界最高の香りがスタジアム全体に広がった。観客席の女たちが、その匂いだけで「ハァハァ」と理性を失いそうになっている。

「お待たせしました。『食事処 藤』特製――炭火焼きフワホロ江戸前うな重です。お重の蓋を開けて、一気にどうぞ!」

宮廷料理人の理性の完全陥落、そして決勝へ

朧の『薬膳うなぎ丼』は、そのスパイスの計算された魔力で審査員たちを陶酔させていた。「身体の芯から熱くなるわ……!」と、朧は妖しく勝ち誇る。

しかし、審査員たちが俺の『うな重』の蓋を開け、箸を入れた瞬間、すべてがひっくり返った。

フワッ……ト口ォォォォッッッ!!!

「「「「――――っっっ!!!!」」」」

審査員5人の身体が、同時にビクッと跳ね上がった。あまりの柔らかさと、口の中に広がる多幸感の暴力に、顔を真っ赤にして涙を流し始めた。

「な、何よこの柔らかさは……っ! 箸を当てただけで、何の抵抗もなく身が解けていく……っ! お口に入れた瞬間、ウナギの極上の脂とタレのコクが、淡雪みたいにトロトロに溶けて消えちゃったわ……っ!」

「タレが絶品すぎるわ! 甘すぎず、辛すぎず、ウナギの純粋な旨味を極限まで引き立てている! 炭火の香ばしい薫香を纏ったご飯が、一粒一粒が輝いていて……食べるほどに、脳が幸せでとろけそう……っっ!!」

審査員たちは、宮廷の格式も朧への畏怖もすべて忘れて、大ぶりのお重を抱え込み、野生の獣のようにウナギとご飯を貪り喰らっていく。

「そんな……っ! 私の魔性の薬膳が、こんな……ただただ『実直に焼かれたウナギ』に、優しさで包み込まれて消されていくなんて……っ!」

絶句する朧に、俺は小さな器に盛ったウナギの肝吸いを差し出した。

「朧さんも、どうぞ。炭火の前にずっといて、喉が渇いたでしょう。出汁で一度、喉を潤してください」

朧は潤んだ瞳で俺を見つめながら、うな重を一口口に運んだ。

モグッ……トロン……っ!

「っ……あ、あぁ……っ! 悔しいのに、身体が……私の硬くなっていた心が、この男の圧倒的な『包容力』の前に、完全に骨抜きにされていく……! 伝統なんてどうでもいいわ、私、あなたのタレになりたい……っっ!」

朧はハァハァと熱い吐息を漏らしながら、顔を真っ赤にしてうな重をかき込み、そのあまりの美味さと幸福感に、その場にへたり込んで熱い吐息を漏らしてしまった。

「勝者――『食事処 藤』、藤崎 創!!」

またしても審査員5人全員の票を奪う、圧倒的なストレート勝ち。

ステージ裏の暗がりで、朧が乱れたチャイナ服の胸元を押さえながら、熱い吐息と共に俺の調理服の袖をギュッと握ってきた。

「藤崎創……。あなたは本当に罪な男ね。私の心まで完璧に焼き上げちゃうなんて。……もう裏の世界の仕事なんて辞めるわ。これからは、あなたのためだけに生きる、あなたの可愛いお人形(妻)にしてちょうだい……っ!」

「ずるいわよ朧!! 創のウナギは、私のスタミナを補給するためにあったんだからね!」

「何が宮廷料理人よ、一瞬で創さんの包容力にオチてんじゃないわよ!」

千草さんと一ノ瀬さん、さらに葵と麗華までが涙目でバックステージに乱入し、東西料理大極祭の裏舞台は、手が付けられないほどの超巨大な修羅場と化していった。

俺は困惑して苦笑いしながらも、調理服の袖をゆっくりと下ろした。

「あはは……。皆さん、次はいよいよ決勝戦です。天領さんが待っていますから、僕も最後の仕込みをしてきますね」

路地裏の職人がもたらした、フワホロの『極上うな重』。

スタジアムのすべての女たちの胃袋と心を完全に掌握した創は、ついに、あの圧倒的な権力と美貌を持つ総帥・天領馨の待つ、運命の決勝戦のステージへと歩みを進めるのだった。









創流・炭火焼きフワホロ江戸前うな重(2人前)

材 料

ウナギの長焼き(生の開いたもの、または市販の白焼き):2尾分

温かい白米(タレが絡みやすいよう、少し硬めに炊いたもの):2お重分

竹串(または金串):適量

粉山椒:お好みで

【マスター秘伝・極み本醸造の黄金タレ】

本醸造醤油:150ml

熟成みりん:150ml

純米酒:50ml

砂糖(ざらめ、または氷砂糖):大さじ3

ウナギの頭やあれば:適量(香ばしく素焼きにしておく)

作り方

1. 秘伝の黄金タレの仕込み

1. 小鍋にみりんと純米酒を入れて強火にかけ、しっかりと沸騰させてアルコール分を飛ばします(煮切り)。

2. 弱火にし、醤油、砂糖、そして素焼きにしたウナギの頭や骨を加えます。

3. とろ火で全体の量が2/3程度になるまで、アクを取りながらじっくりと煮詰めます。

4. 目の細かいザルでこし、冷ましておきます。これで、深いコクとキレがある黄金タレの完成です。


2. 職人の「串打ち」と「白焼き」(余分な脂の引き算)

1. 生のウナギ(または白焼き)を、お重のサイズに合わせて2〜3等分に切り分けます。

2. 身が縮んで丸まらないよう、皮目と身の間に等間隔にまっすぐ串を打ちます。

3. 炭火(または魚焼きグリル)を強火にし、まずは皮目から焼きます。ジリジリと脂が出てきたらひっくり返し、身のほうも薄く焼き色がつくまでしっかり白焼きにします。


★職人の技術ポイント①:白焼き

最初からタレをつけて焼くのは素人の仕事さ。まずは何もつけずにしっかり焼いて、ウナギ特有の生臭さを含んだ「余分な脂」を炭に落とす(引き算)。落ちた脂が炭で焦げて煙となり、その煙でウナギの身を燻すことで、あの鼻に抜ける極上の薫香が生まれるんだ。


3. 関東風「じっくり蒸し」(フワホロ食感の足し算)

1. 白焼きにして串を打ったままのウナギを、湯気が勢いよく上がった蒸し器に並べます。

2. 蓋をして、中火でじっくりと15分〜20分間蒸し上げます。


★ここが朧を骨抜きにした技!

蒸し器のフタから水滴がウナギに落ちないよう、フタに布巾を挟んでおくのが職人の優しさ。この「蒸し」の時間をしっかり取ることで、ウナギの硬い皮やコラーゲンがトロトロに柔らかくなり、箸を入れただけでフワッと解ける「淡雪のような究極の口溶け」に化けるのさ。


4. タレつけ焼きの最終仕上げ

1. 蒸し上がったウナギは驚くほど柔らかいので、身が崩れないよう慎重に扱います。

2. ウナギを1の特製タレにドボンと潜らせ、再び炭火またはグリルの弱火にかけます。

3. タレがパチパチと泡立ち、香ばしい焦げ目がつく直前でひっくり返し、これを3回繰り返してタレを何層にも重ね塗りします。


5. 運命の盛り付け

1. お重(または丼)に温かいご飯をふっくらとよそい、スプーン等で秘伝のタレを軽く回しかけます。

2. 焼き上がったウナギから、回しながら静かに串を抜き、ご飯の上に隙間なく美しく敷き詰めます。

3. 仕上げに、上からもう一度ハケでタレをサッと塗り、お重の蓋を閉めて1分間蒸らします。


店主(創)からのワンポイントアドバイス

「お待たせ。準決勝で朧さんの魔性を優しく包み込んだ、炭火焼きフワホロうな重の完成さ。

お重の蓋を開けた瞬間、炭と甘辛いタレの香りが部屋いっぱいに広がって、それだけで胃袋が掴まれるはずだ。

箸をスッと入れて、タレの染みたご飯と一緒にガバッと口へ運んでくれ。噛む必要なんてない、極上の脂とタレが口の中でトローッと溶けて消えていく多幸感を全力で楽しんでほしい。

朧さんもこの圧倒的な優しさに、宮廷のプライドを忘れてへたり込んじまったからね(笑)。

さあ、スタミナを極限までチャージして、いよいよ天領馨さんとの決勝戦へ、一緒に突っ走ろうな!」



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