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洋館を買ったら謎の薔薇色人生が待っていました  作者: でいでい


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3/3

メイドたち

――が、だ。

本当にこれで良かったのか?

感情に任せてこんなとんでもないもの落札して。あれだけの金があれば、好き勝手して死ぬまで豪遊できたはずだ。

ここにきてまた生来の貧乏性が顔を覗かせた。

綺麗に磨き上げられたトイレでそんな事を考えつつ、用を足し終えると彼女がお茶を淹れて待っているという大ホールに向かった。一際大きな扉だからすぐに分かると言っていた。

ゆっくりと館内を確かめるように歩を進め、それであろう扉はすぐ目の前に現れた。

「ここか‥‥」

荘厳な彫刻の施されたその扉を開けた瞬間――本当の意味で俺の物語は幕を開ける。

「パーンッ!!!」

「パパーーーンッ!!!」

パーティー用の特大クラッカーが何発も打ち鳴らさせ、その薄煙の先に見えたのは、

「せーのっ!改めて旦那様!ようこそ我が家へッ!!!」

さっきとは打って変わって、満面の笑みと躍動感で彼女たち――メイドさんは俺を囲むように駆け寄ってきた。

「旦那様!よくぞ落札してくださいました!あの変態陰険女に落札されるかと思ったら‥‥うぅ~っ!考えただけでも身の毛がよだちます」

メイド長という一華は両腕で自らを抱き、身震いする。さっきとの落差、本当に同一人物か?

「ホントだよ!もしそうなってたらボクなんて真っ先にターゲットだよ!」

二葉はご馳走の並ぶテーブルからケーキをつまみ、怒りをあらわにする。

「二葉ちゃん、お行儀わるいわよ。でも本当に、智樹様のような優しそうな方で良かった」

心の底から安堵したような安らいだ顔を見せるのは三実だ。楚々としてお茶をすする。

「三実はすぐそうやって人を信用するなぁ。わかんないぞぉ?ご主人様だって男なんだから。ハハハッ!」

大声で笑いながら四乃は豪快にチキンレッグを頬張る。

「四乃っち!人は信用に足る生き物なんだよ!ましてや私たちのボスなんだから!」

表情に幼さが残る五月はピョンと玉座のような椅子に飛び乗り、シャンパン(多分シャンメリー)を口に含む。

しばらくギャップに圧倒されていた俺は、ハッと我に返り問いただした。

「あ、あの、さっき外で会った時の挨拶は――」

「旦那様、儀式ですよ。ぎ・し・き!」

「儀式、ですか?」

 俺はオウム返しに聞き返した。一華が胸に手を当て、得意げに胸を張る。

「左様にございます。あの陰険オークションの会場には、新当主たる旦那様を見定める『有象無象の目』が光っております。我らメイドが本性をお見せするのは、ご当主と無事に契約を交わし、この館の扉が閉じられた後――というのが、初代館主様の代から続く伝統でございまして」

「待って、ちょっと待って。本性って、こっち? こっちが本性なの?」

「もちろん」

 四乃がチキンレッグを骨ごと振り回しながら、ニッと笑った。

「あんなお人形遊びを四六時中やってられっかってんだ! 肩がこってしょうがないっつーの」

「四乃っち、お行儀!」

「五月だってさっき玉座に飛び乗ったろうが!」

「あれは演出だもん! 演出と素行は別問題なの!」

 俺は思わず後ずさった。完全に置いていかれている。さっきまで人形じみた無表情だった連中が、今や学園祭の打ち上げみたいな空気で騒いでいる。脳の処理が追いつかない。

「あの、それで――前所有者って、どんな人だったの」

 俺が尋ねると、五人の動きが、ピタリと止まった。

 空気が、変わった。

 二葉がケーキの皿を静かにテーブルに戻し、三実が湯呑みを置く。四乃が骨をナプキンに包み、五月が玉座から音もなく降りる。

「‥‥旦那様」

 一華が、ゆっくりと俺に向き直った。さっきまでの陽気さが嘘のように、その顔には影が落ちている。

「その質問は、もう少しだけ、お待ちいただけますか」

「え、あ、うん」

「いずれ、必ずお話しいたします。ですが今日は、旦那様の歓迎の日。湿っぽい話は、お茶の味を悪くいたしますから」

 一華はそう言って、また満面の笑顔に戻った。だが俺は、その一瞬の変化を見逃さなかった。

 この館には、何かがある。

「と、いうわけで!」

 二葉が空気を読んだのか、両手を勢いよく叩いた。

「旦那様、まずは席についてください! 今日のために腕によりをかけたんですから!」

 促されるまま、俺は中央の椅子に腰を下ろした。途端、目の前に湯気の立つ料理が次々と運ばれてくる。ローストビーフ、エビのテルミドール、見たことのない色のスープ、デザートに至っては高さ三十センチはあろうかというパフェ。

 昨日までコンビニのおにぎりを齧っていた男が見るには、刺激が強すぎる光景だった。

「‥‥俺、こんなの食べていいの」

「もちろんですよ! 旦那様の口に合わなかったらどうしようって、ボク朝の四時から仕込んでたんですから!」

 二葉が拳を握りしめる。よく見ると目の下にうっすら隈ができていた。

「悪い、本当にありがとう」

 俺は素直に頭を下げた。すると五人が一斉に「ええっ!?」と声を上げた。

「旦那様、頭を下げるのはおやめください! ご当主のお立場が」

「いやでも、人に料理作ってもらって礼の一つも言わないのは違うだろ」

 俺の言葉に、メイドたちは顔を見合わせた。三実が小さく微笑む。

「‥‥本当に、優しい方なのね」

「だから言ったじゃん!」

 五月が三実の腕にぶら下がりながら、得意げに笑った。

 俺はナイフとフォークを手に取った。形だけでも当主らしく振る舞わなければいけない気がした。とはいえ、二十四年生きてきてフルコースなんて食ったこともない。ぎこちなくローストビーフを切り分け、口に運ぶ。

 ――旨い。

 言葉にならないほど旨かった。涙が出そうになって、慌てて誤魔化す。

「二葉ちゃん、これ、すごいよ」

「やったぁっ!」

 二葉が両手を挙げて飛び跳ねた。その様子を見て、他の四人も嬉しそうに笑っている。

 奇妙だった。

 昨日まで赤の他人だった連中と、こうして同じテーブルを囲んでいる。しかも全員、なぜか俺に好意的だ。出来すぎている、と頭の片隅では思う。だが、その違和感を打ち消すほどに、目の前の光景は温かかった。

 ふと、俺は窓の外に視線を向けた。

 すっかり日が暮れて、庭の木々が黒い影となって揺れている。月明かりが芝生に落ちて、その一角――

「‥‥ん?」

 俺は目を凝らした。

 庭の隅、大きな木の下に、白いワンピース姿の小さな影が立っていた。

 あの少女だった。

 俺と目が合うと、少女は小さく手を振った。そして、唇だけで何かを告げた。

 声には出ていないが、口の動きで分かった。

 ――『おかえり、お兄さん』

 俺は思わず立ち上がりかけた。だが次の瞬間、少女の姿はかき消えていた。

「旦那様? どうかなさいましたか?」

 一華が小首をかしげる。俺は窓を指差しながら、

「今、庭に女の子が‥‥」

 言いかけて、口をつぐんだ。

 五人のメイドたちの表情が、また一斉に固まっていたからだ。

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