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なんの加護もなく、いきなり異世界転移!  作者: 蘇我栄一郎
冬の到来の前に、やらねばならぬこと
22/71

初心者用の………

 結局シーンと沈んだ雰囲気の中、黙々とハッサンが鑑定してくれた。

 そしてその気になる鑑定額は、金貨六枚だった。

 うむ、意外に高くてビックリした!


 まぁ、それほど沢山狩ったから当然だと思えるが、それでも結構高めだと思う。

 ハッサンも、レッドテイルフロッグの尻尾を一人で、しかも一度にこれほど大量に持ち込まれたことは無いと言っていたし、尻尾と数本のゴブリンの牙だけで稼いだ金額と考えれば上々だろう。


 そんなこんなで、そそくさとその場をあとにした俺は、宿屋に戻って晩飯を満足するまで食べると、服を手洗いして魔力操作の訓練をした。

 そして勿論、爆睡。

 魔力操作の訓練をしている時、瞑想の状態になるので何時の間にか眠ってしまうのだ。

 こればっかりは慣れないね。


 そうして翌日のまだ陽が昇り始める少し前に起床した俺は、ラジオ体操擬きをしてから朝食を摂る。

 ……あぁ、ちなみに、宿屋の代金については、一週間分はディーン達が支払ってくれているので心配はしなくていい。

 マジでクールダンディー様様である。


 まぁ、それはさて置き、食事を摂った後は今日も狩りに行く予定です。

 勿論、森へは行きません。絶対に行きません。

 じゃあ何処へ行くのかと言うと……それは移動した場所に着いてから説明しようと思う。

 きっと皆がテンションの上がる場所だと説明しとこう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 やって来ましたよ!

 場所は、壁で囲まれたブリッツの街の中の一画で、比較的若い人達が集まっている所だ。


 おいおい、冬を無事に越せるお金を稼ぐのは良いのか? って思うだろうが、無論ここに来た理由はお金を稼ぐ為で間違いない。

 なら何故街の中かと説明すると、ここには冒険者としてランク外の俺でも入れるダンジョンが存在しているからだ。


 ダンジョンの数は数百は有るのだが、その内の半数近くは人間が管理している。

 そして、その人間が管理しているダンジョンに入る為には、許可が必要になる。

 で、その許可を貰うには、入るダンジョンに指定されているランク以上の冒険者か、騎士団に所属しているような人物にしか許可されることはないらしい。


 そこで問題なのが、俺はランク外の冒険者ということだ。

 しかし、俺の目の前にある地下へと続くダンジョンでは、ランク外の冒険者だろうが、例え普通の一般人だろうが、誰でも入る許可が下りるのだ。

 だからこそ、ここのダンジョンは新人冒険者などに人気であり、今のように若い人達が集まって来ている。


 もう虫と対峙して駆逐モードになる必要は無いのですよ!

 最初からここに来れば良かったのだが、稼ぎは普通のフィールドの方が良いのか、それともダンジョンが良いのか検証したかったので、最初はフィールドに狩りに行ってたんだよ。

 俺は俺なりに考えていたのです。

 立派でしょ?


 まぁ、それは兎も角、騎士団の人達がダンジョン前で受付をしているので、俺もその列に並びますよ。

 だいたい二十人ほどの若い男女がキャッキャウフフと並んでいる最後尾に立ち、微笑ましいなぁ、などとオッサン目線で眺め続け、気が付けば俺の番になっていた。


「おいおい、ここは誰でも入れるが、流石に成人前の子供は危ないだろう」


「大丈夫だろ? 俺も成人前に一度だけ入ったことがあったし………でも、坊主はその時の俺よりチビだな。

 坊主、年齢はいくつだ?」


 軽装の鎧を身に付けた騎士二人が、俺の姿を見て困惑しながら問い掛けてきた。


 うむ、確かに君達の言い分ももっともだと思います!

 でも、此方は生活が掛かっているのだよ!


 なので、ここは子供の可愛らしさを存分に見せつけて受付を済ませるのが無難だろう。

 きっと無下には扱われない筈だ。


「ぼく? ぼくは六歳だよ。お名前はキリュウ」


 ふふふ、この愛らしさ! どうだ!!


「あのな、ここはモンスターが出る危ない場所なんだよ。だから、キリュウが十二歳の成人を迎えてから来るんだよ?」


「お兄ちゃんも、その方が良いと思うよ? せめて、十歳を超えてから来なさい」


 計画失敗!! ジーザスクライスト!!

 愛らしさを全面に押し出し過ぎたらしい。

 その証拠に、騎士二人は俺の目線に合わせて腰を低くしながら優しい口調で諭してくる始末だ。


 ヤバい………ヤバいよヤバいよ!


 こうなったら、ディーンのようなダンディーさで切り抜けるしかない!


「ふっ……確かに君達の言い分も理解出来る。

 しかし、俺にはこのダンジョンに入らねばならない理由が有るのだ。

 なればこそ、ここは通して貰う! 御免!!」


 愛らしい表情から一変、俺はキリッとした顔でそう告げると、颯爽と…………


「「いやいやいや、ちょっと待とうか?」」


 駄目でしたー。

 ワハハハ、ワロス!


 ガシッと肩を掴まれた俺は、直ぐに受付の机の前に移動させられ、呆れた表情を浮かべる騎士の二人に詰問される。


「お前の年齢は、本当に六歳か?」


「ドワーフなんじゃねぇか? ……それにしては小さ過ぎる………いや、成人したばかりのドワーフか? でも髭がねぇな。

 身分証明出来る物を持ってるか?」


 どことなく胡散臭そうな表情で俺に問い掛ける二人。

 理由は言わずもがな、先程の態度の豹変が悪かったのだろう。


 俺はこのやり取りが面倒なので、出来ればサクッと通して欲しかったのだが………しかし、こうなれば仕方がないので、俺は無言でウエストポーチから冒険者カードを取り出した。

 そして、そのカードを騎士二人に差し出しながら、自身の口元に人差し指を当てる。


「シーーーッ」


 俺の仕草に戸惑いつつも、二人は差し出したカードに視線を移す。

 そして、目を見開き驚きを顕にした。

 その理由は勿論、カードに記載されている種族を見たからだろう。


 まぁ、こうなるのが分かっていたからこそ、"シーーーッ“と言ったのだし、俺は二人の反応が予想通りで別に驚くことはなかった。


「(おい、ハイヒューマンは絶滅したんじゃないのか!?)」


「(俺に聞くな! 俺だって絶滅したと思ってたんだから、分かる訳がないだろう!)」


 俺の後ろに並ぶ人達に聞こえないように気を遣う二人は、コソコソと話し合う。

 端から見てると、まるで愛を囁く二人………いや、これはキモいから、これ以上は言わないでおこう。


 まぁ、そんなこんなで、一応は俺のことを理解して貰ったのだし、早速俺はダンジョンへと………


「「いやいやいやいや」」


 ガッデム!! ファックオフ!!


「身分証明は出来たんだから良いじゃん! ケチ! エッチ! スケッチ、ワンタッチ!」


 地団駄を踏みながらそう言うと、二人は溜め息を吐いて口を開く。


「ケチじゃないし、エッチとスケッチとワンタッチは関係ない」


「六歳のキリュウには危ない場所なんだよ。だから俺達は止めてるんだ」


 物凄い冷静に正論を述べる二人。

 そう言われてしまえば、流石に反論出来ない。


 しかし、此方は生活が掛かっているので引けない。

 その為、暫し騎士の二人と俺の間には奇妙な空気が漂い、無言で睨み合う両者間は腹の内を探り合う。

 俺の方は、騎士二人の隙を見つけダンジョンに入ろうと………騎士二人の方は、俺がダンジョンに入ろうとするのを全力で止めようと。


 お互いの緊張感はどんどんと増していくばかりだ。


「…………………」


「「……………………」」


 無言で睨み合う両者に、何時しか列に並ぶ者達にもその緊張が伝わっていく。


 ………と、その時。

 普段着姿の半端ねぇ男が一人、串に刺されている肉を頬張りながら呆れたような表情を浮かべてやって来た。


「何してんの、お前ら………馬鹿なの?」


「「「ハインツに言われたくねぇよ!!!」」」


 ハンパネェ男の一言に、奇しくも騎士の二人の叫びと同時にツッコミを入れる俺。


 そんな俺達を見たハインツは、ポカーンとした後に"うひゃひゃひゃひゃ“と品の無い笑い声を上げた。

 その笑い声を聞いた俺達三人は、無言でハインツを殴る!

 ちなみに、俺はドロップキックだ。


 ハインツは、三人の攻撃を受けて三メートルは吹き飛び、地面に数度バウンドすると勢い良く立ち上がった。


「パネェ! お前ら何すんだよ!? マジでハンパネェ!!」


「「「ふん!!!」」」


 あまり効果が無かったことに苛立つ俺達。

 だけど、内心では少し驚いていたりする。


 ハインツって、サイクロプスよりタフなんじゃない?


 そんなことを考えつつ、怒り心頭のハインツを宥めると、現状の説明をするのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ハインツを加えてから、少し状況の説明をすると意外にもあっさりとダンジョンに入る許可が下りた。

 その理由は、ハインツが俺のことを詳しく騎士の二人に説明してくれたからだ。

 で、その時にハインツから騎士二人の名前を聞いたのだが、トムとジュリーと言う同期の騎士らしい。

 トムは剣が得意でジュリーは槍が得意なんだそうで、二人とも女にモテなさそうな顔をしている。

 実際、彼ら二人は彼女が居ないそうだ。ドンマイ!

 ちなみに、彼ら三人は一応は貴族の家に産まれた者達なのだが、トムは三男でジュリーは五男、そしてハインツは三男なので、家督を継ぐ資格が無いらしく廃嫡してブロリーさんに雇って貰ったという経緯がある。


 貴族ってのは世知辛いものですね。


 しかし、ブロリーさんが抱える騎士団員にはそういった者達ばかりであり、むしろそれが普通らしい。

 何でも、庶民の出で騎士団に入れるような人は、余程優秀じゃない限りは雇ってくれないらしく、貴族同士のコネ入社が優先されてしまうのだそうだ。


 うむ、ファンタジーの世界とは思えない現実感ですな!


 まぁ、それは置いておいて、非番だったらしいハインツに礼を述べると共に腹パンをすると(ドヤ顔がムカついたから仕方ない)、俺は地下へと続く階段を降りて行った。


 今日もガッツリ稼ぐぞぉぉおおお!!!

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