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なんの加護もなく、いきなり異世界転移!  作者: 蘇我栄一郎
冬の到来の前に、やらねばならぬこと
20/71

駆逐してやる!

 現在俺が居るエルキンス領を統治している領主に呼び出された時は、最初は面倒臭いと思っていた。しかし、結果を見てれば会いに行って正解だったと思える。

 魔法解体全書には記されていない詳しい説明は、かなり有意義なものだったと言えた。


 そのせいか、俺は終始スキップをしながら冒険者ギルドに行き、ルンルン気分で狩りの成果を買い取って貰った。

 だが、買い取って貰った金額が金貨一枚なのは納得がいかない。


 少なすぎでしょ! あんなにグロい物を見たというのに、金貨一枚て!


 そんな風に叫びたくもあったのだが、目の前のハッサンが"なかなかやるな!“なんて誉めてくれるから文句も言えなかった。

 うん、俺って誉めらると強く言えない性格なのかも知れない。


 まぁ、それはさておき、冒険者ギルドでの用事を終わらせた俺は、真っ直ぐ小麦亭へと戻り、血まみれのシャツを潰したクレンで綺麗に洗った。

 そうして、俺は魔法剣の為に魔力操作のスキルを取得しようと一時間くらい瞑想し、その後は食事も摂らず少し早い眠りについた。


 そして、翌日の今日…………


「帰って来たぞ、俺は! エビルアイラビットめ、目にもの見せてくれるわ!

 グハハハ!!」


 気分は魔王、と言った感じで昨日と同様に平原へとやっ来た俺は、高笑いをしながら目の前の………


「居ない?! 昨日はアホみたいに居たでしょ!?」


 何故か、エビルアイラビットの姿は一切見当たらない。

 ……不思議だ。


 しかし、そのエビルアイラビットの変わりに俺でも直ぐに分かるようなモンスターが居る。

 全長一メートル五十センチほどで、緑色の肌をしており、醜悪な顔をしているモンスター。


 ここまで言えば誰でも分かるだろう。


 はい、ゴブリンです。滅茶苦茶狂暴そうな外見の、ゴブリンです。


「見た目はアレだけど………無邪気そうに遊んでいるのを攻撃するのは居たたまれないな」


 そう、五十メートルほど前方で、ゴブリン三体が取っ組み合いながら遊んでいる………いや、喧嘩してるのか?

 まぁ、それははっきりとは分からんが、アレを倒すのはちょっと精神的にクる物が有る。


 しかし、だがしかし!!


 ゴブリンはランクFに指定されている歴とした人を襲うモンスターなのだ。

 よく創作物で人間の女性をナンチャラとか言うが、このエルドラドに出るモンスターにそういう類いのモンスターは存在しない。

 で・も、それでも、だ。

 ゴブリンは人を襲い食べるので、やはり討伐するのが好ましいモンスターであるのは間違いない。


 なので、ゴブリン三体が遊んでいる(?)隙に、俺はゆっくり近付き………


「ファイヤーアロー! ファイヤーアロー! もういっちょ、ファイヤーアロー!」


 ゴブリンの顔面に突き刺さったファイヤーアローは、突き刺さると同時に拡散して燃え広がる。

 とは言え、まだ火魔法のスキルは0.1という低い数値なので、燃え広がる規模はたかが知れている。

 まぁ、顔の半分が燃えるくらいだな。


 しかし、それでも効果はバツグンで、三体のゴブリンは地面を転がり痛みにもがき苦しむ。

 そして、やがて火が消えると同時に動かなくなった。


「うむ、南無阿弥陀仏」


 手を合わせて念仏を唱えると、俺はゴブリンに近付いた。

 ちなみに、俺は無宗教なので念仏を唱えたのはノリでしかない。


 ワハハハ! 実に罰当たりだな、俺!


 ゴブリンで素材になるのは犬歯らしい。

 って言うか、底ランクの魔物の大概は犬歯しか使えないそうだ。

 なので、俺はナイフを取り出すとゴリゴリと音を立てて歯を取っていく。


「うわぁ………ゴブリンの口って臭いわぁ」


 キモいのもあるが、それより何より、コイツの口は臭すぎる!

 まるでドブの匂いですよ!


 そんな愚痴を呟きつつ、ゴブリン三体の犬歯を取り除くと、俺は次なるターゲットを探す。

 まぁ、そうは言っても平原にはもうモンスターの姿は見えない。

 見晴らしが良いので一目瞭然である。


 であれば、あまり気は進まないが、森に移動するしかないだろう。

 ディーン曰く、森には厄介な昆虫型のモンスターが居るので気をつけろ、と言われている。

 俺は虫が嫌いなんですよ………絶望的に嫌いだ。


 あいつらって、何であんなにキモい姿をしてるんだろうか?

 何であんなに足が多いの?

 そして、何であんなにキモい動きをするの?


 Gのやつが典型的な例だよ。

 素早いし、ゴキジェットで攻撃すれば、何故か此方に突撃してくるし………あまつさえ、飛んで来るし!

 以上の結果、俺は森には行きたくない。

 しかし、もうすぐ冬が来るので、お金を早く稼がなくてはならない俺からしたら、そんな悠長なことを言ってる暇は無いのだ。


「グスッ……泣きそう」


 辛い現実に直面すると、泣いてしまいそうになるが………いや、もう泣いてるけども……。

 でもでも、ここは男気一発!

 気合いを入れて行きます!


 平原から三十分もしない距離に、件の森が存在する。

 森の大きさは東京ドーム三個分くらいと小さいが、モンスターの密集地であるので入るのは非常に危険な場所である。

 そして、何よりも問題なのが、さっき説明した昆虫型のモンスターだろう。

 奴らは音も無く襲ってくるし、時には罠を仕掛けていることもあるそうだ。


 そんな森を目の前にして、俺は槍を力強く握りしめながら前進し始めた。


「……………」


 ……そんな森を目の前にして、俺は槍を力強く握りしめながら前進し始めた。


「………………」


 …………そんな森を目の前にして、俺は槍を力強く握りしめながら前進し始めた。


「………………………」


 ……………そ、そんな森を目の前にして、俺は槍を力強く………やっぱ無理!

 だって想像しただけで鳥肌が立つんだもん!

 昆虫だよ?!

 あのキモいフォルムをした昆虫だよ?!


「し、しかし……お金が……」


 足を踏み出そうとはするものの、日本で見た昆虫を想像してしまうと、とても簡単には進めない。

 しかし、この森の中央に存在する湖………そう、その湖に生息するレッドテイルフロッグを狩る為には、どうしても森を突っ切る必要が有るのだ。


「ええい、ままよ!!」


 気合いの掛け声と共に、今度こそ俺は足を踏み出した………ソロリとね。


 ダンジョンの森は、背丈の高い木が密集することなく、ある程度離れて生えていたが、この森の木は密集して生えているので枝が空を覆っていて暗い。

 だが、真っ暗闇とまではいかないので一応見えてはいる。

 しかし、その微妙な暗さが俺の心に負荷を掛けてくるのだ。


「うおっ!? ………気のせいか」


 ほんの少しの物音、ほんの少しの風向きの変化、それらに敏感に反応してしまう俺は………まるで乙女のようである。


 気配察知のスキルと気配遮断のスキルを使ってはいるのだが、やはり怖くてしょうがない。

 ぶっちゃけ、ダンジョンで倒したオークジェネラルとかサイクロプスの方が余裕だ。


 昆虫など滅べば良いんだ!!


 そう叫びたいのを我慢して進む内に、妙に気配察知に反応が有るのでそれを避けながら前進していると、何時の間にか自分の周囲がモンスターの反応だらけになっていた。


 おいおい、嵌められたのか!? 虫ごときに?!


 もしかして、罠っていうのはこんなパターンも有るの?

 昆虫のクセに頭良すぎじゃね?


 少しだけパニックになりつつ視線を周囲に巡らす。

 すると、奴らがゆっくりと姿を現した……。


「き"も"ち"わ"り"ーーー!!」


 足が六本、目が何個もある蜘蛛のモンスター。

 体長は五十センチを容易く超えている。


 その蜘蛛モンスターの名は、イェーガースパイダー。

 罠を仕掛けて良し、自ら獲物に襲い掛かって良し、という生粋の狩人だ。


 そんなイェーガースパイダーが、木の影からノソリノソリと二体姿を現し、俺へと素早い動作で駆け出した。

 俺はもうパニック寸前………否、パニックです!


「ふ、ファイヤーアロー!! もう一発、ファイヤーアロー!!!」


 必要以上に声を張り上げて、イェーガースパイダーに目掛けて炎の矢を放った。

 それは見事に命中し、イェーガースパイダーの体を焼く。

 周囲に嫌な匂いが漂い、"ギィギィ“と鳴いていたイェーガースパイダーは死んだ。


 だが、まだまだ周囲には無数の反応が有る!

 その数は三十体ほどで、おそらく全ての反応がイェーガースパイダーだと思われる。


 俺の顔色は間違いなく真っ青だろう。

 多分、人生でもこれほどビビったことはないと言っても過言ではない。

 そんな俺へとモンスターの反応はどんどん近付き、やがて完璧な包囲網が完成した。


 人間追い込まれると可笑しくなると言うが、アレは間違いではないだろう。

 事実、何故か俺は右手に槍を持ち、左手にはレイピアを持って叫んだからだ。

 その叫びは悲痛な物とは違い、絶対的な恐怖を前にして立ち向かう勇者のようである。


 ………もう一度、俺は叫ぶようにして宣言した。


「駆逐してやる……この世界から、お前達昆虫を……駆逐してやる!

 ウオオオオ!! 俺こそがイェーガーだぁぁああ!!!」


 俺は叫び終わると同時に、森の中央目掛けて勢い良く駆け出した。

 そして、そんな俺を奴らが逃す訳もなく、俺へと次々に襲い掛かってくる。


 しかし、だがしかし!!


 俺は襲いくるイェーガースパイダーを、両手の武器で突き殺す。

 何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も!!

 そうして行く内に、何時の間にか俺の視界の前には、淡くミステリアスに輝く湖が見えていた。


「………美しい………」

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