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StudentsⅡ  作者: OKA
8/14

慈悲の無い月の微笑み


深みを増す夜の校門

花を咲かせず寂しく佇む桜

誰もいない下駄箱

冷気が制す闇の廊下


曖昧な足取りで階段を上り続ける

保健室、職員室、そして

かつて自分達がいた教室へと辿りつく

扉を開ける懐かしい感触


広がる世界

机、黒板、掃除用具入れ

そして

高校生むかしからの「親友」


窓越しから差し込む陰鬱な明かり

その僅かな灯火は俺たち2人に問いかける

俺達が過ごしてきた日々を弄ぶように

その慈悲の無い月の微笑みは深々と朝を拒み続ける

















俺は教室の窓側の列の一番後ろの右側の席に座る

親友かのじょは同じく窓側の列の俺の座る席の左斜め前に座る

そして互いに少しはにかみながら口を開く

















「君主は今日、どうして高校ここに来たの?

 私から連絡してないのにここに来るなんて…。」

「…わからない。」

「…?」

「さっきまで公園で白井と話していたのに気づいたらここに来た。

 夕暮れが堕ちて月が出てる。

 そんな断片的なことしか考えなかったな…。」

「私も大体そんな感じ…

 でも、なんとなく君主に会えるような気がした…。」

「…不思議だよな。

 約束もしていないのに会うなんて…。」

「きっと、あの子が導いてくれたんでしょ…。」

「………、違いないな。」

















俺と親友かのじょは視線を一つに重ね、同じ場所を見つめた

窓側の列の一番後ろの左側の席

俺の席の隣りの場所を、親友かのじょの席の後ろの場所を見つめた

















「…君主、もう大丈夫なの?」

「…ああ、まあな」

「前にも高校ここの屋上で話し合ったわね…」

「あの時は悪かったな…、急に昔のことが…。」

「昔…か。

 そんなに私達は歳を重ねていないのにね…」

「きっと深層心理がはたらいているんだよ…

 思い出したくないものほど知らないうちに忘れていく…。」

「でも、私と君主は今こうして再び教室ここで出会った。

 忘れたくても、忘れられない思いを抱えたまま…」

「…気づいたんだ。」

「………?」

「消したくても消えない思い出がある。

 でも、それはたとえ最悪な記憶だとしても紛れもない…

 …俺たちが過ごした日々なんだ。」

「……………。」

















俺は席を離れ窓越しの月を眺めたまま親友かのじょを見ないように話す

これを話したら親友かのじょは恐らく壊れてしまう

でも乗り越えなければならない
















「安心した…。

 君主がまた前みたいな状態だったら園歌を助けたくても助けられないんじゃな………」

「…助けられない。」

「…………………………………」

「…完全には助からない。

 目を覚ましても言葉を話せず、体が動かせず、今までの記憶も消えているかもしれない…。」

「………、どういう…意味?」

園歌かのじょは脳に損傷を受けすぎている。

 体の細胞組織と違って、脳細胞は一度損傷すると回復することは無い…。」

「………君主、うそよね?

 …嘘なのよね???

 そんな冗談は…嘘なの………よ…、ね????」

「………受け止めろ。

 これが俺たちがいる世界なんだよ。」

















静寂の教室に椅子が勢いよく倒れる音が鳴り響く

親友かのじょは俺の胸座むなぐらを取り、怒鳴り散らす

涙の混じるその悲しい顔が、俺の無表情を装う瞳を襲う

















「………………、どうするの…よ

 それじゃ私達と同じ気持ちを、想いを、苦しみを時見たちに…!他の子たちにも受け止めろって言うの!!!!?」

「俺も長原おまえと同じ意見だよ。

 でも俺たちが望んだほど、この世界は…優しくないんだ。」

「何をふざけたことを言ってるの!!!!!

 何かあるでしょう?何であきらめてるの!?何を根拠にしてるの!!!

 どうしてそんなに落ち着いて人の命をあきらめてるの!!!?」

「命は助かる…。

 脳の運動野と言語野の損傷量の結果を述べているだけだ………。」

「……………どうしちゃった…の?

 君主はもっと何とかできるはずなのにどうして………!!!おかしいよ!!!?」

 これじゃあの子との約束も守れないよ!!!???」

「…アイツとの約束は必ず守る。」

「ねえ!!!ねえ!!?なんでなのよ…!!!!!なんでもっと頑張らないの?努力しないの??試さないの???

 …本当は助かるのよね!!?

 これはあくまで最悪の結果であって別に絶対的に園歌の心身が束縛されるわけじゃ………」

「…………………、…いい加減に黙れ。

 …長原………。」

















床に崩れ落ちる親友かのじょ

いつもの強気な様子はなく、体を丸め、息を吐き出し続ける

駄々をねる子供のような親友かのじょの姿を見るのは初めてだった
















「俺も本当は泣きたいけどな…

 ここで泣いたら………

 前とおんなじなんだよ、…長原。」












俺は親友かのじょを抱きよせていた

自分を慰めているのか、親友かのじょを慰めているのか

…わからないほど強く。

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