1 瞳そらさないで
Stay tuned!
We've got lots of summer love songs coming your way.
Hope each of you finds a wonderful summer romance.
── August 31, 1994. From the radio...
8月最後の日。夏はまだ終わらないと言わんばかりに、光は容赦なく降り注いでいた。
朝の国道246号線は、眠気を引きずりながらも、どこか夏の名残を抱えて走っているように見えた。
助手席の彼女は、眩しさに目を細めながら「このまま南へ、江ノ島まで行っちゃおう」と無邪気に言った。
その声の軽さの奥に、僕にはまだ読み取れない何かが潜んでいる気がした。
明るいグリーンのノースリーブと灼けた肌のコントラストが、夏の光に溶けていくように綺麗だった。
「めずらしいじゃん、サングラス」
「あなたの真似して、夏っぽくしてみた」
アロハシャツにサングラスの僕は、確かに“夏の人”らしく見えるのだろう。
彼女はそれを真似たと言いながら、どこか僕とは違う光をまとっていた。
「あれ、高速に乗るんじゃないの?」
「小田原厚木道路なんて乗るだけお金の無駄だって」
「そうなの?」
「うん。びんぼー学生ですから」
彼女の言葉は軽やかで、風のように流れていく。
僕たちは平行した側道へとハンドルを切り、西へ向かった。
ラジオからはFMが流れ、車内の空気をゆっくりと満たしていった。
DJの女性が「今日は8月最後の日。夏にしっかりケジメつけちゃいましょう」と言った。
その言葉に、彼女はすぐ反応した。
「夏休みの宿題ってちゃんとやった人?」
「もちろん」
僕は平然と嘘をつく。実際は、手をつけずに提出しなかったものばかりだ。
画用紙一面を青く塗って「夏の空と海」と題したこともある。今思えば、あれは空と海の境界を描けなかった僕自身の象徴だったのかもしれない。
「『夏のケジメ』ってなんか素敵な響きだね」
「夏遊びすぎたことを持ち越すな、みたいな感じするよね」
「そっか。高校生だったら明日から2学期かぁ」
FMからは「夏だね」が流れ、車内の空気をさらに柔らかくした。
「去年の今頃、って何してたの?」
「きみと一緒に授業を受けてましたけど」
「あ、そっか。なんだか全然違うね」
「何が?」
「一年前の空と、今日の空」
「それは場所の違いじゃないの?」
「ううん。そうじゃなくて」
「どういうこと?」
「一年前のあなたは全然笑ってなかったよ」
彼女の言葉の意味が、僕にはまだ掴めなかった。その一言は、夏の光よりも強く胸に残った。
♪ Chapter Playlist
Every summer has its own soundtrack. Here are the songs behind this chapter.
TUBE「夏だね」
B'z「裸足の女神」
杉山清貴「潮風のFreedom」
浜田麻里「Return to Myself」
Mr.Children「innocent world」
サザンオールスターズ「ミス・ブランニュー・デイ」
Stay tuned!




