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タマ、勇者になる



「……とね、ことね」

「っ!!」

その声を聞いて、思わず足を止めた。

耳を澄ませてみても、さっきの声は聞こえない。そぉっと周りを見回しても、人っ子ひとりいない。ここの廊下にいるのは、私だけだ。



「……?」

「……ね、ことね」

「だれっ!?」

今度ははっきり聞こえた。今、『ことね』って誰かが言った。この名前を知っているのはへーかだけ。もし違う人なら、その人は日本にいたころに会った人しかいない。私は思わず声のするほうへ走り出した。




「ここ、かな?」

大きな扉を見上げる。少し扉があいていて、中から私を呼ぶ声が聞こえる。扉に書かれている文を読み上げようとして、私は首を伸ばした。



「ほー、ほー……、ほーも、こ?」

真ん中にある字が読めない。そんな私を急き立てるように、もう一度声が聞こえた。こうなったら、入ってみるしかないや。意を決して、まず扉をコンコンする。人がいるなら、いきなり入っちゃう前にまずコンコンしなさいってママに言われてるの。何にも聞こえてこないから、そおっと扉を開く。



「……ふわ……」

薄暗くて、湿っぽい。埃の匂い。入るのやめよっかなとも思ったけど、足を踏み入れる。

変な鎧に、箱がいっぱい並んでいて、なんだか不気味だ。だけどその中に、綺麗なお姫様のティアラを見つけて私は駆け寄った。



「きれー……」

ショーケースの中に入れられているそのティアラをじいっと見つめる。これはきっと、お姫様のためのティアラだ。だって、きらきらしてて、嵌っている色とりどりの宝石がとっても大きいんだもの。



「……とね、ことね」

「はっ!! だ、だれ?」

危うく本当の目的を忘れるところだった。薄暗い部屋の中で目を凝らしてみるけれど、鎧ばかりで人の姿は見えない。もしかして、おばけ? と震えていると、また声が聞こえた。



「こっち、こっちだことね!ああやっと来てくれた!」

「……これ?」

大きな布をかぶせられたものから、声が聞こえる。埃の被った布を取ってみると、そこには立派な剣が台座の石に刺さっているだけで人の姿は見えなかった。



「ああ!やっと会えた!!ことね、ことね!この剣を引っ張ってみてくれ!」

「……えー? たま、ちからないよ?」

見るからにその剣は重そうだ。大きさだって、私の背に届きそうなほどある。それにべたべた触って壊したくない。



「大丈夫!大丈夫だから、抜いて!早く!」

「う、うん……」

どこから聞こえるのか分からない声に促されるまま、台座の上に上って、剣の取っ手に手を添える。きっとこんなに大きい剣だから、ものすごく力を入れなきゃ抜けない気がする。そう思って思いっきり力を入れたのに、その剣は簡単に台座の石から離れた。




「わわっ!」

あまりに簡単に抜けるから、バランスを崩してしまった。台座から足がずり落ちて、私は後ろに倒れ込んだ。床に頭をぶつけちゃうかもと思ったけど、ぼふりと何かに受け止められる。



「おっと!ことね、大丈夫?」

すぐ近くから、さっきの声が聞こえて、目を開けた。

真上から、綺麗な髪をした男の人が、私を見つめていた。ゆったりとした不思議なお洋服を着ていて、髪は複雑な形に縛っている。どうやら、この人が倒れた私を受け止めてくれたみたいだった。



「……だれ?」

「僕はディレアジード。創生の女神が作った、初代聖剣だ」

「……? おにーさんは、けん、なの?」

「そうだ」

「……」

よく言っている意味が分からなかった。もしかしたら変な人かもしれない。

青い瞳に銀色の髪をしたその男の人は、私を後ろからぎゅうと抱きしめる。




「ああ、やっぱり。あなたこそが私の新しい主に相応しい」

「……あるじ? それなに?」

ディア、ディレアジー……、ディレアは私の質問に、微笑みながら答えてくれた。



「私は初代勇者が使っていた聖剣なのだが、ここ魔王城にずっと封印されていたんだ。長い長い時間を、ずっとここで過ごしていいた。ある時、素晴らしい力をもった人物が、この世界に勇者として召喚される気配を感じた。君だよ、ことね。その力は、私の新しい主にふさわしい。私は自分の力を使って勇者召喚に割り込んで、君をここに転送した。代わりに向こうにはそこら辺を走っていたハツカネズミを送って置いたから、大丈夫」

「……?」

言っている意味がよく分からなかった。この人、興奮しているのかすごく早口だし、内容も難しい言葉ばかりでちんぷんかんぷんだ。もっとへーかやみんなみたいにゆっくりしゃべってくれないかなぁ?




「さぁことね。僕と一緒に、悪しき魔王を倒そう!!」

「!? めーっ!」

思わず叫ぶと、ディレアは目を丸くしてうろたえた。じたばたと腕の中で暴れて、私はディレアの膝の上から降りる。




「なんで、へーかたおすの!」

「え、なんでって、それが、使命というか、定めというか……」

「へーかいじめたら、たま、ゆるさないんだから!!」

なんて人だ。私の事知っている人かと思ったら、へーかをいじめる人だったなんて!

この前へーかとお出かけしたときの本みたいに、へーかを倒させるわけにはいかない!



「へーかは、たまがまもるっ!」

「え、え?ことね?」

「もどって!けんになって!」

ペシペシ叩くと、ディレアは慌てて剣に戻ってくれた。やっぱり、結構おっきい。うんしょうんしょと引きずりながら運んで、台座に差し戻す。



「ちょ、ことね!? なんで戻しちゃうの!?」

「へーか、いじめるひと、たまきらい」

「ま、まってことね! 新しい僕の主! 話を聞いて!」

「わわっ!」 

剣がガタガタ揺れて、フォンフォン光りだした。ど、どうしよう、壊れちゃったのかな。取り敢えず、このままじゃ剣が抜けて、またディレアが出てきちゃう。そうしたらへーかがいじめられて倒されちゃう。

剣が抜けないように抑えつつ、どうすればいいかキョロキョロと辺りを見回す。あ、あれが使えそう!




「よいしょ、よいしょ」

「ちょ、ことね! それ永封の鎖……! っ……!」

そこらへんに落ちていいた鎖でぐるぐる巻きにしてみる。すると光は出てこなくなったし、声も聞こえなくなった。と、取り敢えず、おっけーかな?



「っ……! っ……!」

「はんせーしたら、くさりとってあげるねっ!」

一日たったらまた来て反省しているか確認しよう。なんだか、みんなの知らないところでへーかの安全を守れた気分。いいことした。





「……さま、タマ様ぁ~。おやつの時間ですよ~」

「!! はぁ~いっ!」

「っ!! っ~……!!」

ルルカの声が聞こえて、私は『ほーなんとかこ』から飛び出した。今日のおやつは何だろう。いつも、たまもやこはくが作ってくれるおやつは、とってもおいしいから大好き!





そうしてへーかとおやつを食べた私は、すっかりあの剣のことを忘れてしまったのであった。




▶勇者タマがあらわれた!

勇者タマ「わるいことするひとは、たまがゆるさない!」


魔王軍「っ……!!」

▶魔王軍は攻撃できない!



なお、聖剣さんは封印されたので今後出てこない予定・・・(あまりにも不憫だからという理由で出てくる、かも)

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