第2話 奴隷商の手伝い
前の話を投稿してからこの話を投稿するまでの間が短すぎる。
俺が『裏社会の一員』になってから2年が経過した。
自分が望んだことだったのだが、訓練漬けの毎日だった。
朝起きてから夜寝るまで訓練ばかり。
一応、強制されてやっているわけではないのでいつでも減らすことはできるのだが、普通は10年ほどかけて徐々に馴染んでいくらしいので、俺には時間が足りない。
俺は、中学生からは表社会で生活しようと思っているのだ。
これからずっと裏社会というのも不便だし、もう少し表社会の知識が欲しい。
「百聞は一見に如かず」と言うやつだな。
他にも理由はあるが、大きいのはこの2つだ。
だから、あと1年半ほどで訓練を終わらさなければならない。
訓練ではいろいろなことをする。
筋トレ、銃の練習、ハッキングの練習……
最も時間が費やされるのは、感情の制御や拷問に耐える訓練だ。
俺も一応『裏社会の人間』なのだ。もし捕まったらポリグラフや拷問など普通にありえるだろう。
だから、それに耐える訓練をする。
『裏社会』の人たちは耐えれるようにならないと、仕事を与えられない。
それどころか、『裏社会の人間』として認められないこともある。
それほど情報漏洩とは恐ろしいことなのだ。
俺ももうこの訓練をやり始めて1年ほどになるが、やはり感情の制御は難しい。
他の人達にはもう十分だと言われるが、人より上手でないと落ち着かない性分なのだ。
その性分の御蔭で、俺のハッキングや銃の腕は『裏社会』の中でも10本の指に入るほどにまで成長した。
「これ以上は実戦経験を積まないと成長しない」と言われるところまで訓練した。
それ故、『裏社会』では『努力を惜しまない天才少年』と言われることもあった。
だが、上には上がいる。
この程度で満足しているようでは俺は幼稚園児のときに高校生の頭脳を持っていない。
俺は、もっとオールラウンダーでありたいと思い、いろいろなことに手を出した。
ナイフの腕、武器製造・整備の腕、製薬の腕、など……
それだけの訓練をすると、2年はあっという間に経ってしまった。
「さて、今日は……拷問に耐える訓練と筋トレだけか。少ないな」
どちらも常人なら発狂してしまいそうな内容なのだが、俺はこれだけならまだ楽だと感じるようにまでなった。慣れとは恐ろしいものだ。
「アキくーん、ちょっと来てー。話があるんだけどー」
今日の訓練が終わったあと、ソレイユさんに呼ばれた。
多分、「仕事しろ」って言われるんだろうな。
「なんですか?初仕事ですか?」
「その通りだよ。アキくんはあと1年半くらいしかここにいれないだろう?もうそろそろ仕事はしておかないと」
予想的中。というかあと1年半ほどって………今日9月か!
「そうですね。どんな仕事ですか?」
「……えーっと」
まさかこの人、考えてなかったのか?
ソレイユさんは会ったことがある人たちの中で一番考えが読めない。
「あ、そうだ!」
「思いつきましたか?」
「うん、今日から1週間はアルバイトって感じで!僕の手伝いをしてもらおう!」
ソレイユさんの手伝い?
……確か、ソレイユさんは奴隷商だったな。
『裏社会』では、優しい人のみが奴隷商になることができる。
これは、『裏社会』にあるルールの1つで、優しいという基準は、『裏社会』全員の投票により選ばれた人を上の方の幹部がさらに選抜する。
複雑な手順があるため、「『裏社会』の奴隷商になるということは日本国憲法を改正することと同じくらい難しい」と言われているらしい。
つまり、ほぼ不可能なのだ。
「俺が、奴隷商の手伝いをするんですか?一体何をすればいいんですか?」
「着いてから話すよ」
そう言うとソレイユさんは歩き出した。
* * *
「ここが、奴隷販売店だよ」
「へー、そうなんですか。こんな奥まで来ないとないんですね」
「そりゃ、ここに来るのはごく一部の人だけだし、何よりも奴隷はすごく高いからね(値段が)」
「そうなんですか…………あ、そういえば。このアルバイトって時給何円ですか?」
「えっ!?まあ、手伝ってもらうんだから、ただとは言わないんだけどねぇ。どうしようか……」
ソレイユさんは、再び深く考え込んだ。
そして15分ほど後(長いよ)、報酬のことを話した。
「じゃあ、奴隷をひとりあげるよ。今は少し人数が多くて、管理に困ってるし」
報酬が、奴隷!?
奴隷って普通に買えば100億は余裕で超える値段なんだが!?
それを手伝っただけで1人くれる!?
ソレイユさんはどれだけお人好しなんだ…………
「その分、アキくんには頑張ってもらうから、覚悟してね」
……まあ、いいか。
「じゃあ、仕事内容を言うよ。
1つ目は奴隷がいる部屋やその前の廊下の掃除。これぐらいは普通だね。
2つ目は食事を作る。1日3食だからね。
3つ目は奴隷がお風呂に入っているときの監視。お風呂の入り口に座って数を数えてね。
4つ目は洗濯。奴隷に清潔な状態でいてもらうためにも、手は抜けないね。
この4つをアキくんには任せようかな」
それだけならそれほど難しくない。
ただ、奴隷は結構人数が多い。
その分服や部屋もあるし、食事も必要だ。
仕事量がすごいことになりそうだ。
よし、報酬に見合うように頑張って働くか!
* * *
あれから1週間経った。
俺は朝4時に起きて、朝食の準備をしていた。
7時から10時までは掃除をして、昼食の準備。
12時から5時までまた掃除をして、夕食の準備。
8時から風呂の監視(覗きみたいに聞こえるが、入口にいるだけ)をする。
夕食後、皿洗いなどを済ませたら寝る。
これが、俺の毎日のスケジュールだ。
早寝早起きを徹底しているので、最近は少し背が伸びた気がする。
今日は7日目、最終日だ。
明日にはどの奴隷にするか決めないといけない。
同い年ぐらいがいいかな……
そんな事を考えつつ、朝食を作る。
奴隷たちの朝食の時間は7時なので、それに間に合わせなければならない。
「頑張るか……」
6時半になった。
ぎりぎり間に合った。
ぼーっとしてたのが問題だったな。
奴隷たちが歩いてくる。
「おはようございまーす」
「おはよー」
いつも通りの光景だ。
奴隷たちは朝食を終え、俺は皿洗いをする。
これが終われば廊下や部屋の掃除だ。
――――――――――――掃除と食事の準備しかしないので省略――――――――――――
地獄に結構近い1週間が終わった。
常人なら過労死するレベルで働いた。
人より上手でありたい性分のおかげで、掃除はピカピカになるまでした。
比喩などではなく、本当にピカピカにしたのだ。
これだけやれば、奴隷の値段と同じくらいの仕事をしたことになるかな?
「おはよう、アキくん。よく眠れた?」
「おはようございます。よく寝れました」
「それは良かった。今日は奴隷を決める日だよ」
「そうですね。誰にしましょうか」
どの奴隷にするかは全く決めていない。
1週間の間に選べたと思う人がいるかも知れないが、俺は仕事に集中していたので無理だった。
「やっぱり決めてないねー。希望はある?」
「やっぱり、同い年ですかね。一緒に学校に行きたいですし」
「なら、1人しかいないよー?」
「え」
まさか選択肢がないとは。
まあ、選ぶ手間が省けていいのかもしれない。
「じゃあ、連れてくるね。そこの部屋で待ってて」
「わかりました」
どんな人なんだろうか。
女子だったらめっちゃ困る。
* * *
「おまたせー」
ソレイユさんが帰ってきた。
後ろにつれているのは…………女子?
「この子がアキくんの希望通りの子だよー」
「その希望が1つしかなかったんですがね」
「紹介しよう。このこは奴隷番号340番。サヨって呼べばいいよ」
「『紹介しよう』って」
「1度、こういう事は言ってみたいじゃん?」
「そうなんですかね」
女子かー!
まあ、別にいいか。
変なこと考えなければ大丈夫だろ。
「どうする?この子にする?」
「そうします」
「おお、珍しい。アキくんが女子と!」
「変なこと考えないでくださいよ」
変なことを考えるのは俺じゃなくてソレイユさんだったらしい。
「……サヨの戸籍はどうするんですか?」
「どうしようかねぇ。その子、異世界転移してきた子だから戸籍ないし」
「どうしましょうかねぇ」
少し経ってソレイユさんがなんて言ったか振り返る。
異世界転移してきた子!?
「え!?」
「おお、その反応を待ってたよ」
「本当だと思うよ。実際、この子の戸籍は存在していない」
「隠し子だったのかも……」
「そうかもしれないね。でも、この髪を見ればわかるでしょ?」
そう言われたサヨの髪は、とても綺麗な銀髪だった。
こんな銀髪の少女がいるというのは、隠しても直ぐにバレる。
そもそも、銀髪の人などほぼ存在しない(高齢者は除く)。
異世界人ならではの髪の色というのなら説明がつく。
「そうかもしれないですね」
「今となっては立派な『裏社会』の一員。出身なんて関係ないよ」
「そうですね」
「よし。じゃあ、アキくんがこの子に名前つけてよ。戸籍はどうにかするから」
「えっ!?」
そう言われて考える。
この子が一生使う名前になるんだ、真剣に考えないと。
そう思ったとき、サヨの髪が目に入った。
白い…………雪みたいだな……。
雪って漢字を使うか?
いや、安直すぎる。
雪といえば……冬。冬といえば……
その時、ふと時計が目に入った。
そういえば、冬は夜が長いんだよなー。
冬至の日が一番長くて、その日に柚子風呂に入るんだよなー。
あ。
「柚葉ってのはどうですか?」
「いいんじゃない?あきくんが一生懸命考えた名前だし」
ソレイユさんはそう言うと、スマホを触りだした。
「知り合いのやつに、戸籍の書き換えを依頼しておくよ。アキくーん、苗字考えてー」
「苗字も!?」
そう言いつつも、そう言われると思ってすでに考えていた。
「北川で。ゆずといえば、北川さんでしょ。リーダーだし」
「岩沢さんに謝りなさい」
「ごめんなさい」
サブリーダー、ごめんなさい。
「まあ、とりあえず。北川柚葉で書き換えを依頼しておくよ」
「ありがとうございます」
俺は、銀髪の少女――柚葉の方を向いた。
「よろしくな、柚葉」
「……………………よ、よろしく……」
* * *
あれから1年半が経った。
柚葉は情報の秘匿や最低限の護身術などの訓練、小6までの勉強などをした。
俺は、訓練漬けの毎日だった。
たまにソレイユさんの手伝いをしたが、ほぼ訓練だった。
そして、今日は俺達の通う中高一貫の学校、私立玄青学園の近くにある賃貸の一軒家に引っ越す日だ。
もちろん、その一軒家は『裏社会』所有である。
アパートなどではなく一軒家なのは、銃などを隠すときに都合が悪いからだ。
にしても、1度家に帰ったときはヤバかったな。
そう考えつつ、家に帰ったときの会話を思い出す。
『ただいまー』
『どちら様ですか?ただいまって、家を間違えてませんか?』
『いや、ここは俺の家だよ?3年ぶりに帰ってきたけど』
『3年ぶり?3年も経ったのなら、場所を間違えたのでしょう』
『いや、俺だよ俺』
『対面型オレオレ詐欺ですか?珍しいですね』
『自分の息子の顔も忘れたのか!耀弦だよ』
『息子?息子なら3年ほど前に死にましたよ』
『だーかーら!その息子が俺だって!』
『そうですか、お帰りください』
『息子を追い返すやつがあるかー!』
ここで俺は名◯偵コ◯ン第1巻を思い出した。
『じゃあ、母さんのことを言い当ててやる!』
『息子しか知らないことを言えるのでしたら、信じるかもしれませんね』
『九条唯織38歳!誕生日は5月19日で職業は漫画家!父さんとは高校生の時に出会った!一目惚れで付き合って結婚!26歳の時に俺を出産!そして…………』
『わかりました。最後の試練を与えましょう』
『何で魔王みたいなこと言ってんの!?』
『円周率を……そうですね。100桁ぐらいでいいので言いなさい』
『それぐらいなら簡単!3.1415926535897932384626433832795028841971693993751058209749445923078164062862089986280348253421170679!!』
『わかりました、あなたを息子と認めましょう。おかえりなさい』
『ただいま!母親なら息子だとすぐに気付け!』
『ふふっ。最初から気づいていましたよ』
『この鬼母め!』
『…………』
『ドアを閉めるな!』
あのときは本当に疲れた。
息子だとわかっていたうえで扉を閉めるとは。
というか、なんで円周率なんか言わせたんだろうか。
100桁ぐらい、誰でも覚えれるだろうに。
……よし、現実に戻ろう。
今、俺達は家の中に運び込んだ段ボールを開けて荷物の整理を行っている。
銃を隠す場所やハッキング用の部屋など、いろいろな場所を整理しないといけないのでとても時間がかかる。
俺は、隣にいた柚葉に話しかけた。
「大丈夫か?」
「……………大丈夫、だよ」
絶対嘘だ。
めちゃくちゃ緊張している。
「なんでそんなに緊張してるんだ?」
「…………男子と一緒に暮らすなんて、したことないから」
「それを言うなら俺もしたことなんてないよ。大丈夫、変なこととかはしないから」
「変なことって?」
「想像におまかせします」
そういう会話をしていると、引っ越しの人(『裏社会』の人が手伝ってくれてる)が言った。
「引っ越し作業、完了しましたー」
「えっ、もう?」
「はいー。では、さようならー」
片付けも早かったら撤収も早い。
そうして、俺は柚葉と2人きりになった。
「明後日から学校だな、頑張れ」
「う、うん。頑張るよ」
…………やっぱり、俺には難しかったかもしれない。
ゆずのお二方、ゆずっこの皆さん、申し訳ありません。
岩沢柚葉よりも北川柚葉のほうがなんとなく良かったので……
鼠雪も一応ゆずっこです。
一番好きな曲は夏色です。




