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全13話です

この世界において、人は誰もが瞳の中に『輝き』を持って生まれてくる。



ルビーのような燃える赤、サファイアのような澄んだ青、トパーズのような温かい黄色。



街を行き交う人々はみな、自慢の極彩色を瞳に宿し、その輝きの美しさを競い合っていた。



そんなきらびやかな世界の中で、私の瞳は一風変わっている。

――というか、最悪に醜悪かつ不気味なようで、周りからは『魔女の目』だと言われていた。



「おい、見ろよ。またあの『魔女』が歩いてるぞ」


「うわ、こわい……。目を合わせたら呪われそう。早く行きましょ」



街の広場を歩けば、容赦のないひそひそ話が突き刺さる。



私の瞳には、何の色もない。

光を反射することすら拒むような、ただただ深い、真っ黒な色。



カラフルな瞳が当たり前のこの国において、濁りのない黒は『光に嫌われた不吉の象徴』とされ、

私は幼い頃から周囲に避けられ、後ろ指をさされながら生きてきた。



普通なら、ここで部屋の隅でシクシク泣く薄幸のヒロイン(美少女)になるところなのだろうけれど。



「よし! 今日も一日頑張ろーーー!」



鏡に向かって満面の笑みを浮かべ、私は自分の両頬をパンッと叩いた。



落ち込む? まさか。

そんな暇があったら、おいしいご飯を食べて、家族のために働いた方が何倍も有意義だ。



「お父さん、お母さん! 朝ご飯できたよー! アルベール、リン、早く起きないと私が全部食べちゃうからね!」



私がリビングに向かって元気に声を張り上げると、バタバタと賑やかな足音が響き、我が家の愛すべき家族が姿を現した。



「アスタ姉ちゃん、おはよー……。今日のスープ、すっごくいい匂い!」


「お姉ちゃん、髪の毛結んでぇ……!」



まだ眠そうに目をこすりながら私のエプロンに抱きついてきたのは、10歳の弟のアルベールと、6歳の妹のリンだ。



二人の瞳には綺麗なトパーズ色の輝きがあるけれど、私の黒い瞳を怖がることなんて一度もない。



私は「はいはい、順番ね」と笑いながら、手際よくリンの髪を三つ編みに結い上げ、アルベールの酷い寝癖を直して椅子に座らせる。



「ああ、おはよ、アスタ。今日も朝早くからみんなの面倒を見てくれてありがとう。本当に我が家のお姉ちゃんは世界一優しくて、お父さんの自慢だよ」



豪快に笑って私の頭をクシャクシャに撫で回すのは、お父さん。

木こりの仕事をしているが、お父さんの切った薪の断面はとっても滑らかで評判がいい。



「おはよう、アスタ。まあ、今日もとっても美味しそうな朝ご飯ね。……ふふ、毎日こんなに頑張ってくれて、お母さん本当に助かっているわ。あなたのような可愛い娘がいてくれて、私たちは幸せね」



上品に微笑みながら私のトーストにジャムを塗ってくれるのは、お母さん。

たまに誰も読めないような古い魔導書を子守唄代わりに読んでくれるし、お母さんが入れるハーブティーは飲むと一瞬で疲れが吹き飛んでしまうくらいに美味しい。



街の人たちが私をどれだけ嫌おうと、私の家族は世界で一番私を愛してくれている。



だから私は、自分の黒い瞳がちっとも嫌いじゃなかった。



家族が「可愛い、自慢の娘だ」と私自身を丸ごと愛してくれるから、それだけで私の心はいつも太陽みたいに晴れ渡っていた。



「今日は東の森まで、お母さんに頼まれたハーブの材料を摘みに行ってくるね。お父さん、薪割りの手伝いは帰ってからでいい?」


「ああ、無理するんじゃないぞ、アスタ。あっちの森は滅多に人が入らないからな。何かあったら大声で叫ぶんだぞ?」


「お姉ちゃん、いってらっしゃい!」


「おいしい実があったら拾ってきてねー!」


「今日は潮風が少し強いから、森の奥まで行くなら気をつけるのよ。」



お母さんは庭先に干してある薬草を揺らす風を見上げ、ふっと目を細めた。



「……案外、素敵なご縁が待っているかもしれないわね。」


「え? なにそれ?」


「ふふ、独り言よ。」


「ふふ、わかったよ。留守番よろしくね、アル、リン!」



アルベールとリンに見送られ、私はカゴを片手に元気に家を飛び出した。



私たちが住んでいるのは、街外れの静かな場所。

そこからさらに奥へと進む東の森は、緑が深く、空気がひんやりとしていて私は大好きだった。



「ええっと、お母さんに頼まれたのは……『月見草』と『静寂の苔』、それから――」



鼻歌を歌いながらどんどん草むらをかき分けて進む。



人が滅多に入らない森と言っても、私は小さい頃から両親と一緒に何度も足を踏み入れていた場所だし、お父さん直伝のサバイバル能力のおかげで、森の中で迷うことも、危険な目に遭うこともなかった。



順調にカゴを満たしていき、森の最奥にある美しい湧き水の池へと辿り着いた、その時だった。



「……っ、……はぁ、……くっ……」



静かな森の中に、か細い、今にも消え入りそうな荒い呼吸音が響いた。



「え……? 誰かいるの?」



機転を利かせ、足音を消して音のする方へと近づく。

池のほとり、大きな木陰の草むらに、誰かが倒れていた。



私はハッとして駆け寄る。



そこにいたのは、色素の薄い銀色の長い髪をした、見たこともないほと整った顔立ちの、けれど今にも死んでしまいそうなほど青白い顔をした、同い年くらいの少女だった。



「大丈夫!? しっかりして!」



声をかけながら彼女の体に触れようとした瞬間――。



「……ひっ、来ないで……!!」



少女は弾かれたように目を見開き、私を激しく拒絶した。



怯えを含んだ震えた声。彼女の瞳を見た瞬間、私は息を呑んだ。

今まで見たこともないような、『七色』に光り輝いていたのだ。

まるで水晶の奥で虹が踊っているかのような、神秘的な輝き。

けれど、少女は自分の瞳を見られた瞬間、絶望したように腕で顔を覆い、狂乱したように叫んだ。



「見ないで……! 人間、あっちに行って! 殺す気でしょう、触らないで……!」


「待って、私は――」



近づこうとした私の手に向けて、少女が池の水を激しく弾いた。

鋭い水飛沫が私の頬をかすめる。それは明らかな敵意と恐怖だった。



他者から虐げられてきた者が持つ、深い拒絶。

普通の人間ならここで怒るか不気味がって立ち去るところだろう。



けれど、私は彼女の手が、ガタガタと酷く震えているのを見逃さなかった。

私は一歩下がり、カゴを地面に置いて両手を上に掲げた。



「わかった、近づかない。武器も持ってない。ほら、この通り」



私は真剣な顔で、しかし声をできる限り低く、穏やかに保った。



「私はアスタ。そこの街の外れに住んでる人間。……あなた、息がすごく荒いよ。足のところ、血が出てる。手当てをさせてほしいの」


「嘘つき……! 人間はみんな嘘つきだ! 私たちの目を奪う気なくせに!」


「奪わないよ。こんなに綺麗な目を傷つけるわけないでしょう」



少女は顔を覆った腕の隙間から、疑心暗鬼の目で私を睨みつけている。



私は彼女が落ち着くまで、じっとその場にしゃがみ込み、根気強く待ち続けた。

近づきすぎず、遠ざかりすぎず、ただ「敵意はない」という姿勢を崩さない。

時間が、ひどくゆっくりと流れる。



じっと見つめ合っているうちに、少女の七色の瞳が、私の『真っ黒な瞳』を捉えた。



「……お前の、その目……何、それ……」



少女の硬い声が、少しだけ揺らいだ。

カラフルな輝きが一切ない、底のない泥のような私の目。

人間界では魔女と蔑まれるこの瞳が、なぜか少女を興味を引いたようだ。



「これ? 生まれつき真っ黒なの。変でしょう。街の人からは不気味だって避けられてるんだけど」



私が何でもないことのように自嘲気味に笑うと、少女は息を呑んだ。

私の目の奥にある諦めを感じ取ったのか、少女の肩から、ほんの少しだけ力が抜けのが分かった。



「……本当に、何もしない?」


「約束する。私は嘘をつかないのが取り柄なんだ。……痛いの、我慢しなくていいよ」



私がそっと距離を詰め、もう一度優しく両手を差し出すと、少女は今度は水を弾かなかった。

おそるおそる、ぎゅっと目を瞑って私の気配を受け入れた。



「……ありがと。少し痛むよ、ごめんね」



私はカゴから薬草を取り出し、彼女の傷口に丁寧に手当てを始めた。



これが、私――アスタとルミナとの出会いだった。





またもや妄想が膨らんでしまいました。

ご都合主義ですが、楽しんでいただけますと幸いです。

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