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季節外れの囀りと夜鷹

体験入店の3時間はあっという間に過ぎて行った。

愛美は遊美ゆうみという源氏名をもらい、先輩の嬢たちからの手ほどきを受けながらも⸺なんとか3時間、粗相の一つもなく過ごすことができた。

オーナーの假屋崎は吃驚した。

愛美の巧みな話術。元アナウンサ志望でコールセンター勤務のそれは非常に引き出しが多く、たった1時間ほどの接客でも客を喜ばすのに長けていたからだ。

「遊美ちゃん、どうする?とりあえずこれ今日のお手当だけど…」

假屋崎はそう言いながら茶封筒を手渡す。中には1枚の5000円札が入っていた。

体入の3時間で5000円。もしも、だ。

自分に固定客が付けばそれは大きな収穫になる。

愛美はまっすぐに假屋崎を見つめ、一言。

「やります。土日の2日間で良ければ。」


それから愛美の多忙な日々が始まった。

平日はコールセンターのオペレーターとして。

土日の夜は夜の女として。

目まぐるしく時が過ぎて7月。本採用から初めての給料日。

假屋崎は満面の笑みで愛美に封筒を渡す。

「遊美ちゃん、頑張ったじゃない!」

愛美は恐る恐る重みのあるそれを手にすると、控室に戻り札の数を数える。1.2.3............18万。

愛美の口角は否応なしに上がる。

と、その時だった。


「遊美。」

背後から声をかけられ髪を掴まれる。

先輩の嬢の亜里沙だ。

「アンタちょーっとさ、お喋り上手だからって調子乗ってない…?」

愛美は突然のことに驚きながらも亜里沙の手を払い除け、一言。

「私のこといびるより、先輩も話術の引き出し増やしたらいかがです?」

目に見えない火花が散る。

その時だった。

ボーイが控室にやってきて亜里沙を呼ぶ。

「亜里沙さん、A卓にお客様です。夜鷹さんですよ」

その声に亜里沙は跳ねるように振り向くとヒールを鳴らしホールへ駆けていく。

「夜鷹…!!来てくれたんだ…。ねぇ、報酬はちゃんと払うから…このあとアフターいいよね…?」


愛美が乱れた髪を直してホールに戻るとそこには頬を赤く染めた亜里沙が浅黒い肌に筋肉質の男⸺夜鷹にしなだれかかっていた。

夜鷹は時折亜里沙の巻かれた髪に指を絡めたり、大振りなイミテーションのピアスのついた耳を愛撫している。

そのたびに亜里沙は恍惚とした表情を浮かべ⸺その姿が鵺と過ごす自分と重なる。

と、その時。夜鷹と愛美の視線が交差した。

「すぐ戻るから。」と夜鷹は亜里沙に声をかけ、一歩ずつ愛美に近づいてくる。そして妖しく笑うとこう言った。

「お前、鵺の客だろ。アイツの客は大体そうだ。飢えたメスの顔していやがる」

それだけ言うと夜鷹は亜里沙の元へと戻って行った。


飢えたメス。そう言われて愛美はフラフラとトイレへ向かう。

ゆっくりとドアを開け、蛍光灯がチカチカと光るそこに写し出されたのは⸺。

夜鷹の言うとおり、鵺というオスだけを待つ愛に飢えたメスの顔だった。

「違う…私はただ…。」

愛美はそうつぶやくとフラフラと個室に入る。無理に飲んだ酒が胃の中で撹拌されて⸺

びちゃびちゃと音を立ててそれは便器の中に吸い込まれて行った。

「違う…違う…。違うわ…。」

すっかり胃液まで吐ききった愛美は魘されるように呟くが、そのつぶやきはホールの喧騒にかき消されて行った。

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