プロローグ 不眠症
4作目です。若干の性的描写はありますがレーティングは全年齢にしてあります。行為に至らなくても味わえる至極の快楽。どうかおたのしみ頂けますと幸いです。
また今作は非常に遅筆となります。虫屋としての撮影が優先になりますからね。それでも、読んでいただけたら幸いです。
杜 妃湖
「⸺はいッ…その件につきましては…こちらで保証は致し兼ねますと…」
とめどなく電話の音が鳴り響くとあるコールセンターの一室。
小鳥遊 愛美は頭を下げながら電話口の相手に必死で謝罪と説明を繰り返す。
「だからさぁ!保証ができないなら返金!カネ返せよ!!」
電話口の相手はおそらく初老の男性。相手が気弱そうな女性であるということを逆手に取り、もう一時間も延々と話を続けている。
ようやく特例と言うことで商品の8割の額を返金することを告げると電話口の男は「最初っから素直に応じてりゃいいのに…時間の無駄なんだよ!」とブツリと電話を切った。
(胃が痛い…頭も…。)
愛美が眉間にシワを寄せていると隣のデスクの同僚、結城佐江が話しかけてくる。
「今回も手強かったねぇ…大丈夫?」
愛美はほんのり眉を下げて無理に笑顔を作ると佐江に一言。
「しょうがないよ…これが仕事だもの…」
その顔は微笑みは浮かべているが⸺目の下には痛々しいほどのクマができている。
「愛美、寝てる?」
佐江が心配そうに顔を覗き込む。
愛美は力なく首を横に振る。
「相変わらず眠れないのか…そうかぁ…」
佐江はそう言うとスマートフォンを操作して画面を見せる。
そこに表示されていたのは⸺
レンタル彼氏のサイト。
「本番なし。添い寝、ハグ、キスまではできるみたい。愛美、元カレと別れてもう1年以上でしょ?女性専用風俗とまでは行かなくても…こういうの利用してみてもいいんじゃない?」
愛美は一瞬画面を見つめたが⸺その瞬間また電話が鳴る。
「はい、こちらコールセンターです。ご用件は⸺」
夜20時。愛美は激しい疲労感と共に帰宅した。
どんなに言葉を尽くしても分かってくれない顧客が八割。胃も傷めば頭も痛い。
適当に作り置きの惣菜とパックご飯、実家から送られてきた漬物を並べ簡素な夕餉を取るとシャワーを浴びてすぐに床に就くが⸺やはり眠れない。
どうしても昼間のことがフラッシュバックして頭の中をぐるぐると回る。
(明日もまたあれが待ってるのか…)
愛美は大きくため息をつくとパジャマの上に薄手のカーディガンを羽織り外に出る。
元々女子アナウンサー志望だったが、やはりそこは狭き門でなんとか就職できたのが今のコールセンター。
愛美はため息をつくと空を見上げる。
薄く雲のかかった空には月が煌々と輝いている。
(明日のことは明日考えよう…)
愛美がそう思い自室に引き返そうとしたとき。ある男と目があった。
パーカーのフードをかぶり、黒いマスクをした同世代位の男性。身長は180cmはあるだろうか。
愛美は思わず後ずさると男は敵意はない、と言うように両手を上げて近寄って来て一言。
「眠れないの?」
愛美が何も返せずにいると男はポケットから名刺を取り出し愛美に手渡して、こう言った。
「もし⸺興味があるならここへ。なければ捨てて。」
そう言って立ち去る男の姿を見送ってから名刺を見るとそこにはこう書いてあった。
「快楽と眠りのサポート致します。添い寝代行インソムニア 鵺」
「鵺…?ってトラツグミのこと…?」
愛美がそう独りごちると冷たい風がざあっと吹いてきて思わず身震いが出る。
「とりあえず眠れなくても…目を閉じよう…」
愛美は寒風に震えながら自室へと戻って行った。




