扉
行き止まりだった。
通路は、唐突に終わる。
壁。
だが、それはただの壁ではない。
円柱状の黒い柱が、そこに埋め込まれている。
なめらかで、硬質。
その外側を、通路がかすめるように削り取っている。
——ここが、目的地だと。
セリアは、そう直感する。
「……ここ」
足を止める。
壁面に走る刻印。
整然としていた流れが、そこで途切れている。
まるで、途中で削られたように。
不自然な断絶。
「わかるわ…ここだけ……違う」
指先でなぞる。
刻印は、途中で“意味”を失っている。
それでも——
奥から、何かが“見ている”。
そんな感覚があった。
セリアは、ゆっくりと手を伸ばす。
レリーフ。
刻印の途切れた、その中心。
迷いはない。
触れる。
——反応。
淡い光が、指先から広がる。
刻印が、一つずつ浮かび上がる。
柱ではない。
これは、モニターだ。
「……始まった」
小さく呟く。
空間に、幾何学的な線が走る。
層が重なり、展開する。
眠っていた何かが、ゆっくりと起動していく。
ハディは、それを見ていた。
視線を上げる。
浮かび上がる刻印。
読み取れる。
意味ではなく、“文章”として。
「代理にて入力を」
短く言う。
問いが、現れる。
文字ではない。
だが、分かる。
血の系統。
認証用コード。
その後には、意味をなさない刻印。
恐らく、固有の文字。暗号の様なもの。
まともに入力できるものは一つもない。
だが、手は止まらない。
“不明”として入力する。
恐らく、このシステムは、それを受け入れる。
完全な答えを求めていない。
——ルール内で、承認するべきものを、探している。
いくつかの問いが、流れるように過ぎる。
そのたびに、入力。
曖昧なまま。
それでも、弾かれない。
ふと。
胸元が、熱を持つ。
首飾り。
淡く、光る。
細い光の糸が、浮かび上がる刻印と繋がる。
干渉。
接続。
セリアの手元から広がった光と、
ハディの首飾りの光が、
空間の中で交差する。
二つが、重なる。
一瞬。
すべての光が、止まる。
そして。
接続の“深さ”が変わる。
それまでの空間が、表層だったと理解する。
世界が、広がる感覚。
静寂。
その中で。
声が、響いた。
『……接続を確認』
『認証を、進行します』
わずかな間。
呼吸のような沈黙。
『——承認』
空間が、わずかに震える。
刻印が再配置される。
形を変え、意味を持つ。
そして。
はっきりとした声が、告げる。
『お待ちしておりました』
間。
ほんの、わずか。
『ラドネス、と申します』
セリアの指先が、かすかに震えた。
ハディは、ただ見ている。
その声を。
その奥を。
“都市”が、応答している。




