ふたり
足音が、低く響く。
石の通路。
湿った空気。
どこまでも続くような、地下。
後ろに続くセリアはランタンを持つが、先導するハディの手に灯りはない。
しかし、ハディは迷いなく進む。
セリアは、その少し後ろを歩く。
「……ねえ」
静かに声をかける。
返事はない。
分かっている。
それでも、続ける。
「たぶん、だけど」
言葉を選びながら。
「あなたは“ほかの場所の管理者”だったのよね」
一歩。
足音が重なる。
「この街の中の人間じゃないけど、町に、許可された」
視線を前に向けたまま。
ハディは止まらない。
歩調も変わらない。
だが、否定もしない。
それだけで、十分だった。
セリアは、わずかに息を吐く。
「……やっぱり」
小さく頷く。
「だから、“操作する”ことはできる。でも——」
少しだけ間を置く。
「“奥に進む”には足りない」
自分の胸元に触れる。
「それで、私。私の血筋」
指先が止まる。
「中の認証のために。ラドネスに古い血」
歩きながら、思考を重ねる。
「外から来たあなたが“接続”して、内側の私が“承認する”」
わずかに、口元が引き締まる。
一歩。
また一歩。
通路の壁に手をかすめる。
ざらついた感触。
けれど、その奥に、何かの“流れ”があるのが分かる。
セリアがハディの前に出る。
「外部接続と内部鍵。両方揃わないと、核心には届かない」
小さく息を吐く。
「だから、あなたは私を探した」
少しだけ振り返るようにして、ハディを見る。
「違う?」
返事はない。
だが、否定もない。
セリアはそれを肯定として受け取る。
「で、ここから先」
声が少しだけ低くなる。
淡々と並べる。
「あなたは——」
言いかけて、止まる。
ほんのわずかに、眉が寄る。
「……分からない」
正直に、そう言う。
「この町の支配?お金かしら?復讐とか?
……あなたはこの先に何を見るの?」
足音だけが続く。
沈黙。
長くはない。
けれど、はっきりとした空白。
ハディの足が、わずかに緩む。
完全には止まらない。
ただ、一瞬だけ、間ができる。
そして。
低く、かすれた音が落ちる。
「……別に」
言葉。
不自然なほど短い。
「ただ——」
少しだけ、前を見るが、ランタンの光から顔をそむける。
もっと奥。
暗闇のさらに先を見つめ。
「一番奥を、見てみたいだけだ」
足音が、また揃う。
地下は、まだ続いている。




