商店
夜は、やけに静かだった。
混乱を免れた区画だが、人の気配が薄い。
——商店街。
明かりはない。
わずかに残った機構が、どこかで動いている気配だけがある。
ハディは迷わず足を進める。
目当ての店の前で、手を伸ばす。
閉ざされた扉。
分厚い。外からの侵入を拒む造り。
——だが。
手甲が、わずかに鳴る。
低い音。
内部の金属が軋み、破断する。
次の瞬間、扉は音もなく、そのまま押し開かれた。
抵抗は、なかった。
中は暗いが、見えている。
棚。衣類。道具。
冒険者向けの道具が整然と並べられている。
ハディはゆっくりと歩く。
指先で布に触れる。
厚手で丈夫。何よりも軽い。
デザインも無駄がない。
一着を取り、肩にかける。
深くかぶれるフード付きの外套。
暗い色合い。汚れが目立たない。
縫い目は強く、動きを邪魔しない。
袖口はベルトで締まる。風を通さない。
内側には簡単な留め具があり、荷を固定できる。
——いい。
十分だった。
ほかの衣類をいくつか見て、選ぶ。
迷いは短い。
決めるのも早い。
すぐに着替える。
今までの服は、その場に置いた。
重みが消える。
がらくたも、袋も。
もう持っていない。
少しだけ、手が止まる。
感知の指輪。
何度も使った。
頼っていた。
だが——
いらない。
ハディはそれを、服の上に放り投げる。
視線も落とさない。
代わりに、腰に手を伸ばす。
取り上げられた武器。
棚の奥。
飾りではない、実用品。
幅広の刃。
短すぎず、長すぎない。
重さがある。だが、振れる。
刃先はやや反り、叩き斬ることも、裂くこともできる。
鉈と剣の中間。
手に取り、一度軽く振る。
空気が裂ける音。
刻印が刻まれているようだが、何であろうと問題ない。
鞘ごと腰に収める。
それで終わりだった。
カウンターへ向かう。
当然、店主はいない。
ハディは懐から袋を出し、放り投げる。
寺院から持ち出した金貨。
音が重い。
足りないことはないだろう。
それでいい。
扉は開いたまま、外に出る。
夜気が流れ込む。
フードをかぶる。
視界が少しだけ絞られる。
だが、問題はない。
むしろ——晴れ晴れしい気分である。
一歩、踏み出す。
足取りは軽い。
もう迷わない。
頭の中で、何かが組み上がる。
線。
構造。
繋がり。
ラドネスの内部。
回路の欠けた部分。
空白。
そこに、はまるもの。
——一つだけ。
はっきりとした像。
小さな背中。
静かな目。
こちらを観察する視線。
わずかに、口元が動く。
笑っているのかもしれない。
足りない。
——あいつだ。
ハディは、方向を変える。
迷いなく。
セリアのいる方へ。




