76/83
暗転
夜の空気は冷たかった。
歩き出してすぐ、ハディの足取りが鈍る。
段差に引っかかる。瓦礫を踏み外す。
避けているつもりでも、身体がついてこない。
今日はいろいろありすぎた。
カイルがちらりと見る。
「……限界か」
返事はない。
息が浅い。視界が狭い。
首飾りの熱も、もう感じない。
数歩。
——そこで、途切れた。
膝が落ちる。
「おっと」
崩れる身体を、カイルが受け止める。
「……軽いな。子供なんだよなぁ」
軽く笑って、そのまま担ぐ。
ハディの意識は、そこで完全に沈んだ。
重い扉が閉じる。
石造りの大広間。
灯りは揺れない。
中央の机に、淡い光の表示。
ネリアがそれを見下ろしている。
「……来たわね」
低く呟く。
向かいに座るカイレンは動かない。
「確認は」
「ええ。ラドネス中枢からの信号。接続あり」
わずかに間を置く。
「認証が、通ってる」
空気が変わる。
そのとき、奥の扉が静かに開いた。
足音。
白い装束の神官が、一人入ってくる。
誰も振り返らない。
だが、全員がその存在を認識していた。
神官は机の脇で止まる。
「……報告は以上か」
静かな声だった。




