偉大なる魔術師!?
リアリレッタから逃れるために我武者羅に森の中を駆けた。
そのおかげか、リアリレッタは振り切ることができた。がしかし、完璧に迷ってしまった。
当たり前だが、右を見ても左を見ても木ばかりが見える。
目印となるものもなく、足を止めればたちまち魔物の襲撃にあう。
屠った魔物は数知れず。
返り血で服が湿り、気持ち悪いことこの上ないが変わりの服がない為脱ぐわけにも行かない。
ふらふらとさ迷っていると、ぽつりと建つ一軒の小屋を発見した。
これ幸いとそこで少し休ませてもらおうと、扉をノックする。
空き家だとは思うが、仮にも先客が居た場合、失礼に当たると思ったのだ。
しばらく待っても返事がなく、誰もいないのだろうと取っ手に手を掛けようとしたところで扉が内側から開かれた。
「こんな森の奥に一体誰だ」
ブスっとした声で呟きながら扉を開けたのは二十台後半くらいの男だった。
第一印象としては普通。
どこにでもいるような普通のおにーさんにしか見えない。
ラフな絵柄TシャツにGパン、若干癖の混じった髪の毛は濃いこげ茶色をしていた。
しかし、だからこそ違和感を感じた。
ここは異世界だ、ラルやシュイを見ていた限りではTシャツもGパンも存在しないし、服だってせいぜい綿がいいところである。
では、なぜこの男はこんな格好をしているのか?
俺の疑問が問題へと変わる前に、男の放った言葉にしばし考えるのを中断する羽目になった。
「んあ、日本人じゃねえかなんでこんなとこに居んだぁ?」
「・・・・・・日本を知ってのか!?」
俺の驚愕にしまったと顔をしかめ、何事も無かったかのようにドアを閉めようとした男を逃がさないように腕を万力を込めて掴む。
「痛い痛い! 骨が砕ける!!」
俺の手を外そうともがきながら叫ぶ男にこちらの要求を言う。
「とりあえず、俺の質問に答えてもらおうか」
「わ、わかった! 答える!答えるから腕を離してぇぇ!」
その言葉に一度頷いて手を離してやると、掴んでいたところにしっかりと俺の手の跡が残っていた。
男は乱暴だなと愚痴りつつ、俺を家の中へ促した。
小屋の中へ踏み入って俺は絶句した。
なぜなら、あたり一面フィギュアやらポスターやらで埋め尽くされていたのだ。
いわるゆるオタクの部屋そのものだ。
「そこいらへんに適当に座ってて、今飲み物をだすから」
男はそういうと、棚の中から普通にペットボトルのウーロン茶をコップにそそいだ。
それを俺の座る椅子の前に置き、男は俺と向かい合わせになるように座った。
「さて、まずはお互いに自己紹介と行こうじゃないか。お互い、名前が分からないと不便だろう?」
男の言葉に一理あるなと思い素直に頷いた。
「僕はケンプファー、ケンプファー・サレジエッド。見ての通り、魔術師さ」
「どこが!?」
俺に罪は無い、反射的に突っ込みを入れてしまったのは長年の癖だ。
仕方の無いことだ。
だって考えても見ろ、TシャツGパン姿の二十台後半の男が室内をオタクチックにしていてどこに魔術師と分かる要素があるだろうか?
「さあさあ、次は君の番だよ美少女君。聞きたいことは多々あるだろうが、こちらは名のったのだからそれに順ずるのが礼儀って物ではないのかい?」
その通りだ。
向こうが名のってこちらが名のらないのは失礼に当たる。
「俺は門音、久我門音だ。お前の知っての通り日本人だ」
「久我? どこかで聞いたことあるような・・・・・・あぁ、思い出したよ! 確かこの世界に僕が最初に招待した青年が確か久我って苗字」
「お前が元凶か!!」
「おふぅ!」
殴った。
とりあえず問答無用でケンプファーとか名のったこの男の顔面を殴り飛ばした。
いや、だって、俺がこんな異世界に来ている元凶が目の前に居たら殴るしかないでしょう。
「ちょ、暴力反対!っというか、なんで僕が殴られなくちゃならないのさ! 僕が何をした!」
「ぁん? とりあえず答えろ、兄はどこだ?」
宗近に手を掛け、チャキリと音を鳴らす。
「兄? カドネ君は聖君の妹かい?」
「・・・・・・俺は、男だ」
「え・・・・・・変態?」
「死ねぇええええぇ!!!!!」
宗近を鞘から引き抜いてケンプファーを切りつけた。
「うひゃぁ! よくよく見たら天下五剣が一つ、三日月宗近じゃないか! 国宝だろう君!」
済んでのところで風魔法に防がれたのを見ると、かなりの使い手と見える。
今の抜刀は自分でもなかなかだと思えるほどの速度で威力だった。
それをいとも容易く防がれたのは軽くショックだ。
「っつかなんでお前はそんなに日本に詳しいんだよ!」
そう言った瞬間、ケンプファーの目がキランと輝いた。
「良くぞ聞いてくれた! 僕はこう見えてもこの世界一の魔術師でね、色々と極めていく内に異世界への転移に成功したんだよ。そんでもって地球の素晴らしさに感化されて度々足を運ぶうちに詳しくなってしまったのだよ」
「そんでもってこのショタフィギュアとポスターの山か・・・・・・」
「最高じゃない? 秋葉原」
「もう黙れよオタク・・・・・・」
「いいや黙らない!僕が始めて秋葉原へと行ったときの感動には・・・・・・」
話しが盛大にそれていくがこの手の相手に何を言っても聞かないから聞き流すことにした。
閑話休題
「んで、その流れてパソコンの使い方を覚えるためにホームページを作ったと」
「そういうことだ、素晴らしいページだっただろう?」
「まぁ・・・できばえは否定しないが、痛いことこの上ないな。おまけにあの召喚の奴って魔術だろ? よくパソコンのホームページに組み込めたな」
「凄いだろう? まさに『科学と魔術が交差するとき、物語は始まる』って感じで!」
「幻想殺しの話しか! あれは俺も面白いと思ったな。神話関係の所が特に・・・」
―――3時間経過―――
「君はショタの素晴らしさが分からないのか!」
「わからねぇよ!」
「あの無垢な瞳、穢れを知らぬ微笑、天使のごとき無邪気な心、最高じゃないか!」
「・・・・・・まぁ確かに子供は好きだ。特に女の子なんかはお手伝いとかもしっかりしてくれるしな」
「ほぅほぅ、君はロリコンなのか」
「ちげぇよ変態!」
―――さらに1時間経過―――
「・・・・・・随分と話しこんでしまったようだ」
「スゲーくだらない内容だったけどな・・・・・・」
「そういえば今更だが、門音はなぜここに着たんだい?」
「あぁ、ウィッチの里にとある人物の護衛として来たんだが、色々あってな・・・・・・」
「察した、ご愁傷様と言っておこう。それより、こんなところであぶらを売ってていいのか?」
「迷ったんだよ、魔女に追われて・・・・・・」
「ふむ、色々と納得できるな。あぁ、刀に手を掛けるな。里にならここから東に行けば着くさ」
「こんな森の中で方角なんてわかんねぇよ」
「仕方ない、ここは一つ新たなる友のために一肌脱ぐとしよう」
ケンプファーはそういうとスラスラと紙に何かを書き始めた。
ちょっとすると書き終わったのか、それを反転させて俺に見せる。
「この森の地図だ。術が刻んであるから自分がどこにいるか分かる」
やたら短い時間だったくせにかなり正確な地図になっていて、俺が居るであろう場所には逆三角の印がある。
「これがあればこの森で迷う心配はない、さぁ、行きたまえよ。私はこれから買い物に出かけるのだからな」
「おぉ、サンキューな」
俺はそう言ってケンプファーと硬い握手を交わした。
「地球に戻るときは訪ねてくるといい、住所さえ教えてくれればそこへ送り返してあげるよ」
「おう、頼むぜ」
意外なところで元の世界へ帰る手段を確立した俺は、森の地図を片手にその小屋を後にした。
意外と重要人物として登場しましたケンプファー。
彼の性格など、どうしようか本気で迷った・・・・・・。
色々と考えに考え抜いた末にあんなトンデモキャラになってしまったのはご愛嬌 (笑っ