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朝舞探偵事務所~妖魔のおもてなし~  作者: 空と青とリボン
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鶫守と茜たちの対峙

所長は自分が何をしたのかまったく分かっていなかった。手にした御札を見てしめしめとほくそ笑む。

「これでしずくに喜んでもらえるな。」

ほくほく笑顔で再び屋敷に向かって歩き出した。

ふと誰かがこちらに向かって駆けてくる気配を感じた。とたんに恐ろしくなる。月の光はあるが街燈はない夜の田園。そのど真ん中で御札を剥がした直後に何かが自分に向かってくる気配を感じたら誰だって恐怖に戦く。所長は慌てて携帯電話を取り出した。震える指で茜に電話をかける。

すると気配がする方向から電子音が聞えてきた。

「おいっ!!」

所長は震え上がった。怪しき月夜の狭間を縫って電子音が自分へと近づいてくる。これは洒落にならないホラー映画か!!しかしよくよく耳を澄ますとこの着信音には聞き覚えがあった。

「茜ちゃんの?」

まもなく所長の所に茜と淳がやってきた。月明かりに照らされて浮かび上がった茜と淳の姿に所長は心から安堵する。だが依然として茜の鞄から呼び出し音が鳴っているままだ。

「随分早いお出ましだな。すぐに駆けつけてくれるのはありがたいがせめて電話に出てくれんか?」

しかし、だ。茜と淳は所長に脇目もくれず横を通り過ぎた。しかも全速力で。またもや一人おいてけぼりにされた所長。あっという間の出来事に呆気にとられて立ちすくんでいる。

「なんだよ、そんな必死な顔して。しずくとまだ話し足りないのか?というか私を追い越すな!」

後れをとってはなられんとばかりに所長も慌てて二人の後を追った。


今夜は満月だった。光を蓄えた月が天高く昇ってきて地上を青白く照らしている、その月明かりは懐中電灯よりも尚も明るい。この明るさは夜道をゆく人にとってありがたい道しるべとなった。

屋敷が見えてきた。

「あれね。」

「あぁ。」

茜と淳の緊張は高まる。

その時だ。いきなり生暖かい風が吹いてきた。こんな凍てつくような寒い夜にはおおよそ不釣り合いなほどに生暖かく不気味な風。茜と淳は立ち止まった。

「来たわね。」

「そうだな。」

二人は身構えた。その視線の先に現れたのは妖魔、鶫守だった。山のような大きな体。色黒の肌と鋼のような筋肉は荒波に打ち付けられても耐え続ける岸壁を思い起こさせる。そしてその目は獲物を狙う猛禽類のように鋭く茜と淳を見据えていた。

「ここから先は通さんぞ。」

その低い声は嵐の夜の猛烈な轟音のようだ。耳にした者の心を恐怖で震え上がらせるには十分すぎるほど。しかし茜と淳は動じない。

「太郎ちゃんはどうしたの!!太郎ちゃんを返して!!」

茜が一歩も引かない強さで太郎の返還を求めた。隣にいる淳も同じように強い眼差しで鶫守を睨む。すると鶫守は感心したように呟いた。

「・・・そなたたちが太郎の仲間か。あやつとは違ってなかなかの能力者だな。」

「やっぱり太郎君はお前が捕らえているんだな!太郎君を返せ!!」

「だが断る。」

「!!?」

これは茜たちが予想していたことではなかった。いや、予想をしていなかったというと語弊がある。心の中のどこかで返してもらえないことは予想はしていた。しかし鶫守は弱者には手を出さないと聞いていた。その噂に茜と淳は縋っていたのだ。だが噂は所詮噂。安易に噂を信じて太郎を行かせたことを激しく後悔する茜と淳。後悔がこれでもかと胸を締め付け二人は唇を噛みしめた。だが鶫守は意外なことを口にした。

「あぁ、断ると言ったのはわしではないぞ。」

「どういうこと?」

「太郎なら断るだろうということだ。」

茜と淳には鶫守が何が言いたいのかさっぱり分からない。

「なぜそう思うのよ!」

「太郎は羽根布団が好きらしい。」

「わけがわからないわ。」

茜と淳は鶫守の答えに頭がこんがらがった。もしかして鶫守は自分たちをからかっているのか。

「分からなくって結構。太郎は明日の朝早く解放してやる。だからそなたたちはここから引き返せ。それで三人仲良く家に帰るがよい。」

「ふざけないで!!」

「このままおめおめと帰るわけがないだろう!!」

茜と淳はそれそれに怒りを吐き出した。

「それは夜鶫の鏡を盗みに来たからか?」

「!!」

鶫守の声色が一層低くなり威圧感を増した。二人の緊張がピークに達する。

「わしの元へくる人間や妖怪どもは皆そうだ。そなたたちも例外ではないだろう。」

「分かっているなら話は早いわ。鏡を渡して。太郎ちゃんも返してもらうわ。」

茜が挑発的な眼差しを向けた。

「ほほぉ。なかなか気の強いおなごだ。わしはそういうのは嫌いではないぞ。だが鏡は渡さん。欲しければ力づくで奪ってみろ。まぁ無理だろうがな。」

鶫守はニヤリと笑み、余裕綽々だった。

「どうする淳君。」

「やるしかないだろう。」

「そうね。」

二人は炎のように闘志を燃やし己の能力を体中にたぎらせた。そしておもむろに懐から妖魔具を取り出す。それを見た鶫守は眩しそうに目を細めた。やがて挑発的な鋭い目で茜たちを睨む。

「それは妖魔具だな。そちらの腕輪は妖気の放出を封じる封魔具、その玉は妖気を吸い取るものか。そんなおもちゃでわしに勝てると本気で思っているのか。」

「思っているわ。」

「ではやってみるがいい!」

突如、鶫守は目をカッと見開いた。瞬間、凶暴かつ尋常ではないくらいの巨大な妖気が鶫守の体から津波のように立ち上った。


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