最終回 ライフ先生参る!
(さてっ!ちょっとしんどくなってきたわ、イス、椅子
ありがとー、いい男ー、じゃエイダ嬢、貴女からいくわよ!)
「わたくし……この決意は変わりません」
(貴女、イザヤ殿下の分析は合ってた?)
「半分は。
妃という職分に不満はありません。むしろ女性として最高の位でわたくしのこれまでの努力を存分に発揮できる事と、考えるだけで震える程でございます」
(半分ね)
「はい。反面、これで良いのかとずっと悩んでまいりました。政務に邁進し、国を動かし、でもそこにわたくしの家族はあるのか?と。
子をなしても、乳母や教育係に任せ、夫は初めからわたくしのものでは無い。女として、そのような暮らしに身を置く事が、わたくしに出来るのか、と」
(そうねえ。仕事でバリバリ鳴らしても、人生振り返った時に、生身の女が不幸せ、ってのはありがちなのよ)
「貴族に生まれた以上、義務からは逃れられません。分かっております。でも、でも、恋も知らず夫にも愛されず、子を育てる事も公の事業。女を殺し母性を抑え、女でも男でもない《王妃》という生き物になる未来。
いっそ、馬鹿をやって、放逐されて、平民として細腕で成り上がってやろうか。
この娘とアーヴィングが戯れているのを眺めているうち、そんな風に思えたのですわ」
(やっぱりねえ。
女って損よね!
嫁ぐ相手の力量で人生が決まってしまう。子を成しより良い種を増やし、それで評価されてしまう。その資質が違うところにあっても、そんなものは見向きもされない)
「……」
(それでも殿下を愛しているのなら、1つの番として生きていくのであれば、将来、国王の成す事はご自分の成す事と考えられたでしょう。……
けれどこの殿下は、貴女の御心を考えもしていない。それどころか、浮気を公然とし、貴女は婚約者としてつなぎ止め……なにゆえに自分は都合よく扱われなくてはならないか、と、憤りを感じ…ねえー)
「だから!私を待って欲しいと申し上げたのです。お姉様、私は貴女をお慕いしております、だから」
(紅茶王子!あんたまだ11歳でしょ?ばっかねえっ!エイダの欲しい恋情なんか、まだ無理じゃないのこのひよっこ!)
「そんな!私は!」
(あんたがあと5年成長したら、そりゃわかんないわ!多分、今の美少年から美青年になるだろうね。中身も残念王子にはならないでしょうね。でも、でもね、恋は約束するもんじゃないの!)
「ライフ先生……わたくし……」
(エイダ嬢は今!悩んで苦しんでいるのよー。逃れられない義務まで棄てて、一人の女性として何処まで生き抜けるか、それを試したくなる位、今恋愛に身を置けない事に苦しんでいるのよ。そんな5年も待てって、ないわー、あんた)
「……」
「いえ!イザヤ殿下のお気持ち、とても、とても嬉しゅうございました」
「ならば!私は兄上と争ってでも、貴女を輝かせる様な男になります!」
「いえ。
イザヤ殿下は太陽でいらっしゃる。輝くのは貴方です。
わたくし、月にはならないと決めたのです。どんなにちっぽけな火であろうと、自分の力で自分の身体を輝かせる。そんな生き方をしたいのです。イザヤ殿下を臣下として、お慕いする気持ちは変わりません。
……お察し、頂けませんか」
(……イザヤ殿下、もうちょい早く産まれて欲しかったわあ。先生、本当にそう思う)
「……今は引きましょう。押すときではないと理解しました。でも…私は執念深いので、5年10年、いくらでも待たせて頂きます」
「殿下。ありがとうございます」
(さーあ、1つ解決ね!
おいっ、そこでぼんやりしてるアーヴィング殿下!どうすんのよ?)
「……。」
(ショタの弟に今すぐ盗られる事はないけど、大きな魚が逃げちゃうわよ?)
「……せ、なのか」
(何?)
「……の、方が、……のか?」
(何ブツブツ言ってるの?
曲がりなりにもあんた、この国の次期王太子でしょ?はっきり言いなさい!)
「……ここで、自由に、した方が、エイダは、幸せになる、のか?」
「アーヴィング」
「俺は、どうしたらいい?
お前が必ず隣に居る。これまでもこれからもずっと、と、思って。
だから、よそ見をしようと、胡乱でいようと、エイダがいるから、と、思ってきた」
「アーヴィング」
「空気の様に。宇宙の定理のように。お前とこの国を統治する事は決定事項だった。……でも、違うのか?この手を離し、自由にする方が、エイダにはいいのか?」
「アーヴィング、貴方」
(馬鹿王子!やっぱりあんた馬鹿ねっ!エイダがどうこうじゃなくて、あんたは、どうなの!)
「お、れ、は。
今のエイダがもう一度、婚約者に戻ってくれるなら、妻になってくれるなら、一生他の女は要らない!!」
「「アーヴィング殿下あ?」」
「あーくん……」
「ピンキー、すまない。
君を飾らせ、君を育てるのは男の虚栄心だと、今分かった。私でなくとも、君は、幸せを掴める。
私のできる限りの償いをする。
どうか、私の伴侶は諦めて欲しい」
「ぐ、すっ。わたしじゃ殿下には不釣り合いなのですか?こんなにお慕いしているのに」
(ピンクちゃん。あんた野心もって田舎から出て来たんでしょ?母親捨てて)
「えっ?」
(お母様、貴女と同じ髪色ね。とても綺麗な人だわ。そして苦労を感じさせない人柄が滲み出た美人だわ。今、あんたは殿下に貰ったドレス着てるけど、果たして作業服を着て、母親の美しさに勝てるかしらね)
「な、何のお話ですか?私…」
(卑しさが滲み出てんのよ。
あんた本当に、アーヴィング殿下を愛してんの?
公爵令嬢に棄てられた情けない王子として父王に見限られて、廃嫡されて……野に放たれても、殿下に付いてく?)
「え?」
(あんたのお母様みたいに、野良仕事に明け暮れて、それでも愛する人と暮らす。お母様よりか、幸せかも。そんな風に生きていける?)
「え、ええー。えと、私」
(これが最後よ。
あんた本当にアーヴィング殿下を愛してる?)
「……愛じゃないかも。
身分が高くてお金持ちで顔が良くて。でもでも、顔だけ良くても生きてけないしー」
(そ。すがすがしい位素直ね!
……アーヴィング殿下、憂いは無いわよ、さあ!)
「エイダ」
「……」
「私が悪かった。
中身がスカスカの馬鹿王子だ。
頼りなくて、ちょっと可愛い女の子に誘惑される腰の軽い男だ。
優秀な弟に腹が立つ嫉妬深い腐った奴だ。
でも、エイダ。君のいない人生なんて考えられない。
君と言う太陽がいつでも輝いていられるよう、私は努力しよう。
取るに足らない石ころだが、君の傍にさえいれば少しは照り返されるだろう。
君という女性を大事にする。
君は妃なんかじゃもったいない。それは十分承知している。
でも!どうか私の伴侶として傍にいて欲しい」
「アーヴィング……」
(馬鹿!馬鹿王子っ!
こういう時は、長々饒舌にならなくていいの!
一言言いなさいよ!男でしょ?)
「ライフ殿……
エイダ・アシュレイ。
私、アーヴィング・デル・エラントは貴女を
あ、愛しているっ!!」
「「「(…言ったーーっっ!!)」」」
「王に、なれなくても、情けない男でも、たとえっ!イザヤに言い寄られて君の気持ちか動いても!
君しか考えられないんだ!」
「アーヴィング殿下!
ああ、……申し訳ありません!
殿下にこのような事をさせてしまって!わたくし、のことなどとうか」
(くぅおぉらっ!
賢い女ぶるんじゃないわよ!
エイダっ、お へ ん じ っ!)
「………ほんと、う、に、
わたくしを……愛していますの?」
「そうだ!
私は愚かで馬鹿だから
気がつくのが遅かった!
エイダ、君にしか言わない!
愛してる!君のいない人生なんか要らない!」
「殿下……」
「婚約破棄、白紙にして下さるか?」
「……は、いっ……」
(よし!)
(さー、皆様ー、お騒がせしましたー
決着しましたよー
宰相閣下寝たフリやめてこのお2人王宮に連れてってね!
伝令ー、も一度王宮いって!
でも、その前にっ、
旦那ー、近衛の皆さん無礼講で行くわよー
さっ、せーのっ!)
キース!♡キース!♡
キース!♡ キース!♡
キース!♡ キース!♡
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『会場、万雷のKissコールです!
視聴者からとんでもない量のコメントが来ています!パンク状態でお繋ぎにくくなっております!』
『大団円ですねっ、ぐすっ。
皆様からも
良かった!アーヴィング殿下男が上がったぜ!
イザヤ殿下、5年後待ってます!』
エイダ嬢、女の道は1つじゃない!どうかお幸せに
等など頂きました』
『あ、ここで、アーヴィング殿下、心を決めました。エイダ嬢に、今、近づいて、顎をとりー、からのー、』
『からのー』
end
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皆様
いつもの人生相談のお時間ですが、皆様ご承知の通り、先日、王家の
断罪⇒婚約破棄⇒求婚⇒熱愛宣言⇒ロイヤルキス
とまあ、やるだけの事をやりまして
バカ王子だの紅茶王子だの
腹黒だの
罵詈雑言を王家にのたまったライフ先生ですので、当然ただ今番組も先生も、放送倫理検証委員会に捕まっております。
でも、皆様ご安心下さい。
ウエディングドレスをいそいそと用意する公爵様やタヌキ寝入りの宰相閣下などが、必ず身分回復を保証なさっております。
また、聖女様が
ライフ先生に何かあったら祈りを3日程やめます
と、教会を脅しております。
軟禁状態のライフ先生には、下町の料理屋より差し入れが毎日届いているそうです。あれ以上お太りになられたらどうなんでしょうね。
では、皆様、再びライフ先生と番組をお送りできる日まで、ごきげんよう。さようなら。
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いかがだったでしょう?
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感想がわりに、ご評価★もお願いしますー。