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本条都九子は魔導書をつくる  作者: 筧伊瀬
グリモアツクール編
29/31

28.『本条都九子』という少女 前編

 ここで私は、私についての話をしようと思う。

 私の生家である本条(ホンジョウ)家は父、母、兄、私の4人家族。だが物心ついたときから、私は兄のおまけのような扱いだった。

 三つ上の兄は勉強は可もなく不可もなくといったところだったが、運動能力が高かった。幼稚園の運動会ではかけっこでは1番、鉄棒も誰より早く逆上がりが出来るようになったらしく、これはと思った母が親戚のつてで小学校1年から剣道道場に通いだすと、あっという間に頭角を表した。

 母は、兄に夢中だった。

 彼女はいわゆる、長男教、男尊教というものに分類されるんだと思う。

 隣町で兄の剣道の大会があると聞けば弁当を作って馳せ参じ、県外での全国大会に出場するとなればパートを休んで付いていき、兄の体づくりのための食事のメニューを作ってなにこれとなくサポートをした。

 父は、空気だった。家にあまりいなかった。平日は仕事、休日は趣味のゴルフ、接待や短期の出張で泊まりがけでどこかに行くこともあったそうだが、彼とはあまり話をしないのでよく分からない。ただ、隣の市にあるご自分の実家、つまりは私の父方の祖父母のところにはよく帰っていたそうだ。私がテストで100点を取ったと話すと本人からは何もいわれないのに、後日祖母から電話がかかってきて「つくこちゃん、すごいじゃない。さすが私の孫ね。母親に似なくて良かったわ」と私を誉めてるのか自分を誉めてるのか母を貶しているのかよく分からない電話がかかってきた。私の父は、つまりマザコンというものだったのだと思う。その遺伝子を色濃く受け継いだ兄もやはりマザコンで、兄は母が自分だけに関心を示し私に興味がないような様子を見せると、得意気に鼻を鳴らしていた。だから私は正直、兄が嫌いである。

 母は兄に夢中、兄は母と剣道に夢中、父は自分のことに夢中。必然的に、私は家に1人でいることが多かった。

 小学校1年生のころからひとりだけ学童に入れられて、学童が終わって帰っても家には誰もいなくて、ひとりぼっちで。学童を嫌がって暴れたら、今度は毎日習い事に行けと言われて放り込まれた。月曜日は絵画教室、火・木・土はそろばん塾、水曜日はスイミング、金曜日は英会話教室と、日曜日以外本当に毎日。そのころの私はまだ現実が見えていなかったから、母に私にも構えとダダをこねて、母の愛を独り占めにしたい兄と殴り合いの喧嘩をしたものだった。だが3つも年上で、しかも剣道をやっている兄に敵うはずがなく、喧嘩の理由がどんなものでも、たとえ兄が100%悪い内容でも母が怒るのはいつだって私だけだった。それでも諦めずに癇癪を起こす私を、母は扱いづらい子のように感じていたようで、ますます私に感心が向かなくなったのだけれど……ちなみに、ほとんど無理矢理やらされた習い事の数々は小学校4年のときに「お金が掛かりすぎるから辞めろ」と言われてそのまま全部辞めさせられた。理不尽である。加えて習い事を辞めて時間があるだろうと言われて、いつの間にか家事も私の担当になっていて、毎月決まった生活費の中から家計をやりくりするのも私の仕事になっていた。兄にはなにもさせないのに。理不尽の極みである。

 そんな私に転機がおとずれたのは、中学入学後まもなくのことだ。

 兄のお下がりで、ノートパソコンを貰ったのである。


長いので前後編に分けました

後編は本日20時に更新予定です

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