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本条都九子は魔導書をつくる  作者: 筧伊瀬
グリモアツクール編
26/31

25.“雷帝”

やっと恋愛タグが生きてきたでしょうか…!

「ツッコ! よし決めた! 俺の嫁になって!」

「はぁ? いやですけど」


 藪から棒になんだ、こいつ。

 やっぱり、笑いすぎで気が狂ったのかもしれない。


 私はディーンをうろんげに睨む。

 ごはんを食べさせた分でもう彼への恩も返せただろうし──なにせ、私の特製ハンバーガーを食い尽くしやがったのだ。食べ物の恨みは恐ろしいんだぞ──、ここにいられるとセンさんも迷惑になるかもしれないから早々にお引き取り願おう。


「うわ、即答! そんなこと言わずにオレの嫁になってよー。苦労させないから! オレのために毎日このはんばぁがぁってやつ作ってよ! あ、焦げてないやつね!」

「やなこった! 冗談は休み休み言いやがれこのスットコドッコイ。唐変木。女たらし」

「その毒舌なところもイイ! ますます嫁に欲しい! っつーかなんでオレが女たらしって知ってるの?」

「やっぱり女たらしだったんかーい! んなの、カンだよ、カン!! もう帰れよー! 女たらしと結婚とか絶対苦労するし、捨てた女に刺されて死亡とかありえそうだし! 結婚なんか絶対するかチクショー!」

「取り巻きオンナどもとの関係は清算するから! 絶対不幸にさせないし刺されそうになっても逆に刺し返すから! なぁなぁオレの嫁になってよー。ツッコも女ならあこがれるだろ、玉の輿! なんせオレは──」

「──ツッコ? 誰か来ているのですか?」


 うわ、センさん!?

 なんというタイミングの悪いときに帰ってくるんだ!

 いや、逆に助かったのか!? タイミング良かったのか!?

 


「あ、あなたは……()()()()()()()()()!? なぜここに!?」



 ハ? だれ?

 『ディーン』が偽名だろうなとは思ってたけど、ライテイディーンハルト? センさんの知り合い?

 かと思ったら、センさんは素早い身のこなしで背中の大きなポケットに入れている護身用グリモアを取り出して、流れるように詠唱をはじめた。

 黄色い表紙のあれは、センさんが持っているグリモアのなかでも最も呪文の短い、雷系の魔導書だ。


「イナズマニーラ アカクルスガメルクンガ デイリンクスリガール──」

「おっと!」


 ディーンも背中から隠し持っていたらしい魔導書を取り出す。あの背中に大きなポケットがあるタイプの服を着ているのは、ほぼグリモア使いだ。そっか、今度からその辺を確認してから指摘するようにしよ……って、アレ? あの魔導書、めちゃくちゃ薄くない?


「アルマカン、イナマクレフトメルト! 子狐のような神鳴りよ!」

 

 パチィ! と強い音がした。乾燥した真冬の日の、強い静電気のような音。

 “雷”と呼ぶにはあまりにか弱いが威嚇としては十分のそれに、センさんは持っていた魔導書を取り落とした──え!? いまの、呪文だったの!? みじかっ!?

 サッ、と隙を付いて窓枠に飛び上がったディーンの、なんと身軽なことか。サルっぽい。

 

「ばれてしまっちゃあしょうがない!」


 唐突に怪盗3世みたいな口振りである。


「改めて、オレの名はディーンハルト! 皇国の第三王子であり神速のグリモアリーダー、人呼んで“雷帝”ディーンハルト!」

「あ、あ、あなたがなぜこんな所に……! もしや、とうとう戦争が!?」

「いやいや、戦争とか面倒くさいモンにオレが協力するはずないだろ! アンタも知ってるだろ、“()()()()()()。オレが戦争なんてかったるいものキライなことくらいさぁ」


 心底めんどくさそうな口調だった。

 やはり魔導書使い同士、二人は既知だったらしい。

 ただ、『ほんとのほんとに顔見知り、むしろ仲は悪いよ』というような雰囲気だ。その証拠に、センさんの姿を認識したディーンはスタコラサッサと逃げようとしている。


「じゃあな、ツッコ! 次に会うときはちゃんと取り巻き女共の清算しとくから! そしたら嫁になれなよなー!」

「へ!? よめ!?」

「やなこったイロザルー! おとといきやがれー!」

「あと、“星生み”! 弟子に魔導書(グリモア)の読み方教えるんなら、闇との向き合い方くらい教えないとだめだぜー」


 サッ、と窓から外に飛び出して一目散に駆けていくディーン。あっという間に見えなくなった。

 

「ま、待ちなさーい! ディーンハルト、こ、こここここは我が国の領土で……!」


 弱々しく彼の背に向かって叫んだセンさんだが、ディーンには絶対届かないだろう。

補足

雷帝ディーンハルトは、5話でセンさんが呟いてためちゃくちゃ短い呪文のグリモアを作るグリモアクリエイターでした。

そしてそろそろ話のストックが切れてきました…………。

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