第11話 邂逅
彼女がこの村へ訪れた理由は、ブラットウルフという魔物の討伐依頼が冒険者ギルドへと届いたからであった。
冒険者ギルドとは、薬品の素材の採取や魔物の討伐を生業とした人々が依頼を請け負う為の場である。
そのシステムは全土へと普及し、今や国に次いで影響力を持つほどだ。
また、ギルドに登録している冒険者達は、ランク付けをされる。
ランク付けを行い、ランク毎に依頼を振り分けることで、成功率を上げているのだ。
ランクはS~Eまでの五種類があり、依頼もそれに準じて設定されている。
今回のブラットウルフの討伐はCランクの依頼であった。
中級者とも呼ばれるCランクに依頼されるそれは、小さな村にとっては由々しき事態であった。
そして、討伐が完了し、彼女が村長へと報告を行っていた時にゴブリンの群れの情報がもたらされた。
「村長! 大変ですっ!」
「なんだ、今は取り込み中だぞ」
村長の家に飛び込むようにして入ってきたのは、偵察を任されている若い男であった。
「何があった?」
村長がぞんざいに扱う中、冒険者である彼女だけはその異常性に気づき、若い男へと疑問を投げかける。
「はっはい! ご、ゴブリンの群れを、発見しました!」
「なっ!」
「なんだとっ!?」
その情報を耳にした村長と彼女は驚きを隠せない。
群れなどそうそう発生するものではないからだ。
事の重大さを瞬時に認識した村長は、男へ向かって村の男手を集めて武装させるように告げる。
そして、冒険者である彼女へと向き直った。
「無理は承知でお願い致します。 報酬は出来るだけ希望の金額に合わせましょう。 この村に、手を貸しては頂けないでしょうか」
そう言いながら、一部ではならず者とも呼ばれることもある冒険者の彼女に、深々と頭を下げる。
ゴブリンの群れは、対象によって難易度が大きく変化する。
故に、相対することは得策ではない。
しかし、村長の態度やこの村の過ごしやすさを見る限り、彼女に断るという選択肢は存在しなかった。
「承知した、依頼を引き受けよう」
「ありがとうございます……!」
冒険者にとって最も大切なのは、命を落とさないことである。
命さえ有れば、まだ生きていけるのだから。
しかし、彼女は命をなげうったとも取れるような選択肢を選んだ。
村を見捨てて自分だけが生き延びる事が許せなかったのだろう。
その返事をし、装備を整えていると先程の若い男が命令の完了を告げる。
「では、参りましょうぞ」
村長はそう言い捨てると、自らも武装をし、外へと歩みでる。
「ああ」
それに続いて彼女も外へと歩みを進める。
門の前まで行くと、手を震わせながらも決意を秘めた眼差しをした男達が既に並んでいた。
その男達に、村長が声をかける。
「私達に手を貸してくださる冒険者殿だ!」
「おお」
「はは、ありがたいぜ!」
「頼んだぞ、ねーちゃん!」
冒険者が手を貸してくれる、という情報に村人達は歓喜の声をあげる。
「リーシアだ! 共にゴブリンどもを蹴散らすぞ!」
その投げかけに、おお! と男達は声を返す。
そして、リーシアが先頭へと並び立ち、ゴブリンの群れを待つ。
十数分経った後に、ゴブリンの群れが現れる。
そして、その背後にはゴブリンよりも明らかに大きい立ち姿があった。
「ゴブリンジェネラル……!?」
それは、リーシアにとって、予想外の展開であった。
ゴブリンリーダーなら、勝ち目はあった。
ゴブリンキャプテンならば、被害は大きいものの、なんとかという感じだっただろう。
大体にして、それらがゴブリンの群れの旗印となるのだ。
しかし、今回の長はゴブリンジェネラル。
それは、もはやBランク相当の敵であった。
そして、その周りにはゴブリンよりも一回り大きいゴブリンリーダーが数体。
勝ち目など、何処にもなかったのだ。
「うそだろ……!?」
「これは……ないぜ……」
覚悟を決めた男達も、現実を突きつけられ、死を幻想する。
その声に気づいたリーシアは、男達を鼓舞する為に声を張り上げる。
「怯むな! 自分達の家族がどうなってもいいのか!」
勿論、リーシアも恐怖を感じている。
手足は震え、心臓の音が痛いほど聞こえてくる。
だがそれでも、諦めることはしなかった。
「そう、だよな」
「やらなきゃ、誰がやんだって話だよな」
死の覚悟すらも決め、男達はゴブリンの群れと向き合う。
「……申し訳ないですな、こんなことになってしまって」
リーシアの隣には村長が並び立ち、謝罪の言葉を述べる。
「気にするな。 これらを倒せば、希望の金額をくれるのだろう?」
「はっはっは、そうですな、希望の金額を渡さねばいけませんな!」
冗談を交えながら、勝利への欲望を掻き立てる。
全員の戦意が高まっていく。
命を守る為に。
家族を守る為に。
この村を守る為に。
しかしその戦意は、容易く打ち砕かれる。
「グギャアァァァア!!!」
『威圧』を含んだ咆哮。
それは、リーシア達の戦意を打ち砕くには、十分過ぎるほどであった。
「……ははっ」
リーシアは自嘲の笑いを漏らす。
こんな化け物に勝てるとでも思っていたのか、と。
咆哮だけで足がすくむ相手にどう戦えと言うのだ、と。
そこにいる全員が希望を捨て、死を確信した。
ゴブリン達がゴブリンジェネラルの指示を受け、リーシア達の元へと走り出してくる。
弓を構え、狙いを定める者までもいた。
───これで、終わりか。
弓が放たれるその瞬間、リーシアは膨大な魔力の接近を感じた。
「『ウインドブラスト』っ!!」
風の爆弾が接近していたゴブリン達に直撃し、地面ごと吹き飛ばす。
その余波に起こる風で弓矢は大きく外れ、見当違いの方向へと飛んでいく。
その光景に呆然としていたリーシア達に、声が降り注いだ。
「大丈夫ですか?」
リーシアの目に飛び込んできたのは、白髪赤目の絶世の美少年であった。
そして、その背に生えているものに目を奪われる。
「……天使」
リーシアの口から、そんな言葉が零れ落ちる。
純白の大きな一対の翼を持つ、この世の者とは思えないほどの美貌。
リーシアから見た彼は、間違いなく天使であった。




