17・キース君サイド2~お掃除の歌~前編
聖女と名乗る少女、ミルフェリア・エーゲルにこてんぱん(?)に負けた俺は、約束通り王宮に連れられて今現在勇者教育を受けている。
魔物の知識や戦い方、適性な武器や防具の選択、騎士団長自らの武術指南。使える魔法と技の確認とレベルアップ。忙しい毎日が続く。
「チュートリアルってやつですね!初期の基本勉強は後々重要ですよ!!」
彼女の不思議な言動にも慣れてくるほど、聖女さんは何故か毎日俺に四六時中ピッタリ張り付いている。
「むむむ?ご迷惑ですか?でもこれは使命なのですよ!キース君、困った事があったらいつでもご相談下さいね♪」
聖女さんはいつも元気で明るい。
でも俺は過去のトラウマで女の子は苦手なんだ。
だから録に返事も出来ない。出来てもぶっきらぼうな乱暴な言葉になってしまう。それでもにぱーと笑う聖女さんを横目で伺いながら今後の未来に不安が頭をよぎる。
俺はハーフエルフだ。世の中の人々から忌み嫌われている種族。勇者に選ばれた事なんて全く現実味が湧かない。
これはきっと女神様の間違いで、聖女さんだって俺がハーフエルフだと知ったら手の平を返すはずだ。
そう、あの時の女の子のように...。
「キース君、やっぱり疲れているようですねぇ。うん!ここは私が人肌脱いで差し上げましょう!!」
俺の顔をその優しげな水色の瞳で覗き込んだ聖女さんはふと思い立ったように木の下に俺を引っ張って行き、そこに座るとポンポンと自分の膝を叩く。
そして胸元から取り出した耳かきを手にニッコリと笑う。
「お耳のお掃除、してあげますよ♪」
はああ?み、耳掃除!?その膝にまさか俺の頭乗せんのか!?
ていうか何故胸元から耳かきが出てくるんだ!!
「掃除道具を持っていると侍女長さんに取り上げられてしまうのです。聖女様のなさる事ではありません!って酷いです!!でも今の処ここなら侍女長にバレないのでっすよぅ~」
.....ああ。侍女長さんは残念な胸囲だからな。まさか谷間に物が収納出来るなんて思い浮かばないんだろう....。
あ、いかん。つい目がいってしまう。
あれは見事な感触だったからなぁ....。
「さあさあ、キース君♪どうぞどうぞ♪」
引く気のない聖女さんに仕方なく俺は耳当ての装備を器用にずらして長い耳の先端部分はうまく隠し、気恥ずかしいのを我慢してその膝に頭を乗せた。
聖女さんの膝は柔らかくて温かい感触。女の子って何でこんなにふわふわしてるんだろうか?それに物凄く耳掃除が上手だ。
俺は心地良さに抗えず、うとうとと眠くなってきた。
「ランッララ~ララララ♪ひと~つ、人より掃除好き~♪ふた~つ、踏まれたガム拾い~♪みっ~つ、お耳の耳掃除~♪よぉっ~つ、横にも汚れあり~♪いつ~つ、いつでもゴミ拾い~♪むっ~つ、向こうで落ち葉拾い~♪ななっ~つ、甘夏皮掃除~~...」
***
「いや!あっち行って!!」
髪の短い女の子が不愉快そうに俺を追い払う。
ああ。これは幼い頃の夢だ。
山の麓でたまたま栗拾いに来てた女の子と仲良くなって楽しく喋っていたら、その子が不意に俺の耳当ての装備を取り上げてしまった。
理由は自分も付けてみたいとか他愛のない事だったんだろう。
でも俺の少し人より長い耳を見た途端、手の平を返したように俺を蔑み追い払った。
その時は訳が分からず泣いて帰り、母さんに抱き付いてその理由を聞いた。
俺は誰からも嫌われるハーフエルフなんだ...。
でも母さんは首を振って否定した。
「いいえ。母さんにも父さんがいたように、きっとキースにもいるわ。そんな事を気にしない人が。だから大丈夫。大丈夫よ。」
***
「♪こっこのぉ~つ、困ったよこの竹ボウキにィ~♪とお~で、とうとうピッカピカ♪♪♪」
目を覚ませば聖女さんは優しく俺の頭を撫で、繰り返し優しく歌を歌い続けていた。
「あ。目を覚まされましたか。さっきよりすっきりしたお顔です。私もお耳のお掃除が出来てすっきりしましたよ!」
晴れ晴れとした顔をする聖女さんを見て、本当にこの子はお掃除好きなんだなぁと笑えてきた。
そしてもしかしたらこの子は大丈夫かもしれない、とふと信じてみたくなった。ああ。そうか。いつからか、俺は心の何処かでこの先も一緒にいたいと感じてしまっていたのだ。
その気持ちがまだどういう類のものか今は分からないけど。
でも。やっぱり聖女さんと離れるのは嫌だ。
それにはちゃんと向き合わなきゃダメだ。
ハーフエルフの俺を受け入れて貰わないとそれは叶わない。
だから次の日、俺は人気のない早朝に聖女さんが庭にいるのを見ると、思いきって耳当ての装備を外して彼女のいる方へと近づいた。
甘夏みかんの皮には油分解成分と消臭、除菌効果があります。お掃除の裏技で使われていまーす。
八つ目は後編で。




