14・3年ぶりの魔王城と魔王君
それから半年の月日が流れた。
耳当ての装備を外したハーフエルフであるキース君を理解し、受け入れてくれる町や村がほとんどだったが、魔物によって家族や友人を多く失った土地では感情を割り切れない人達もいた。そんな時は仕方なく野宿や遠回りをしたり、時には詐欺罪なんて酷い言い掛かりで連行されそうになったりと思わぬ時間がかかってしまったのだ。
それでも、ようやく辿り着いた魔王城。
私はその魔王城の庭園で感慨深く佇む。
そうそう、ここ、ここ。ここで私は3年前、落ちゲーの如く上からの飛来物を逆に頑張って避けてたなぁ。
あの時のスコアが知りたいくらい大変だったよ!
ん?あれれ?この庭園ってこんなに荒れてたっけ?
「ミルフェ~?ぼ~としてどうしたんじゃ??」
今では親友となった白竜のネイビーちゃんが立ち止まったまま動かない私を心配して顔を覗き込んできた。
「きっと庭掃除がしたくなったんだよね?聖女さんは魔王城の庭だとて相も変わらず、関係ないんだから。」
ハタチを過ぎても今だ少年の風貌のままなミステリアスな忍者ベリル君が苦笑しながら私の肩にポンッと手を置く。
「流石ののんびりミルフェも不安なんだろう。でも安心しろ、俺が命を懸けて君を守るから。」
最近独占欲が激しい勇者キース君はベリル君の手をペシッと弾いて私に向かってその手を差し伸べる。
うん。魔王なんて恐くないね!!
こんなにも頼りになる、大好きな仲間が私にはいるんだから。
でも辿り着いた魔王の玉座は空だった。
あれ?魔王さんおトイレ???
でも玉座にはあれれ?蜘蛛の巣が.....。
呆然と立ち尽くす勇者パーティーの私達。
でもその時、私の横を通ってベリル君がコツコツ前に進み、玉座の蜘蛛の巣をハンカチでぺぺっと払い、そしてそこにストンと座った。
「よくぞここまで辿り着いた!勇者達よ。私が第44代目魔王、ベルセロイドだ!!」
え?はれ???
「あはは!勇者の情報を得る為に王国に潜入したら、ウッカリ勇者パーティーに入ってしまってね?だってまさか履歴書に奴隷出身と書かれたあんな怪しい黒ずくめ忍者を採用する馬鹿がいるとは思わないじゃない?」
む?忍者は怪しくないんだぞ!
色んなゲームで忠臣キャラに位置付けされてんだから。
んんん?あれ?馬鹿って私???
「しかもそのお馬鹿さんは地位や名声なんてこれっぽっちも求めてなくてさ。ひたすら楽しそうにいつもいつもいつもお掃除してるんだ。町や村を訪れれば孤児や浮浪者達の汚れた服を洗い、魔法の竹ボウキ君でお風呂を作って身体を綺麗にして回って。病気の人を見れば彼らの汚れも吐瀉物なんかも気にせず、慈悲深く手を握って回復魔法を掛ける。討伐の道中でだってどんなに疲れていても必ずみんなに回復魔法を掛けてくれる。」
いや、だって病は不衛生から罹りやすいからね?
手を握るのは脈拍と熱を診る為で。
回復魔法は実際に討伐時に力を使っているのは魔法の竹ボウキ君だから、私は疲れていても法力が有り余ってるからで。
「果てには人類最大の敵であるこの魔王が死んだ暁には海へ弔う、とまで言いのけるまさに天上知らずの大馬鹿者!!!」
ちょぉぉぉぉっと言いすぎーーーー!!!
「だからもう。僕魔王辞めるわ。」
「「「《えええええええーー!!!》」」」
「だって元々44代目継いだばかりで悪い事大してしてないし?むしろ魔物討伐に協力してたし。別にいいよね?」
い、いいのぉぉぉぉぉ!??
「はて?よ、よいのか、のう?」
「え!さ、さあ。いいのか??」
魔王ベルセロイド君の自由過ぎる発言に戸惑うネイビーちゃんとキース君。でも魔法の竹ボウキ君は突然ビックリするほど大きな笑い声を上げた。
《あっははははは!!いいんじゃないのか!?魔王が辞めると言ってるんだ。いいんじゃないのか!それで女神様も良いとおっしゃっている!その魔王ベルセロイドとやらからはもう闇は一切感じられぬ、と。》
おお?こんなにテンション高い魔法の竹ボウキ君は初めてだね?
そうやって喋ってると結構若いカンジなんだねぇ。
《案外世界など、こんな適当でいいんだよ。いい加減で良かったのさ!!ははは!いい加減で別に良かったんだよ。》
ま、魔法の竹ボウキ君???
《聖女ミルフェリア・エーゲル!君に心から礼を言う。俺を救ってくれてありがとう!!!》
ーえ!?
パァァァァァァァーーーーーーーー....
魔法の竹ボウキ君は楽しそうな笑い声を上げながら私の手からキラキラと光に包まれて女神様の元へと帰って行った。




