13・永遠に絶望しない勇者
「ゴメンなさい、お兄ちゃん。僕がお兄ちゃんの耳当てを取っちゃたから。お兄ちゃんは悪い事なんて何もないよ。町を襲う魔物を倒してくれて、ありがとう。」
誰しもが静まりかえる広場でそれはきっかけとなった。
「その....すまんっ!」
「そうだよな!勇者様は俺らを散々苦しめた魔物を倒してくれたんだ!!何て失礼な事を言ってしまったんだ!申し訳ない!!」
「ゴメンなさい!」
「あのっ、すみませんでした!!」
「ハーフエルフだとか、奴隷だとか、関係ない事だったよ!今まで命懸けで戦ってくれてありがとう!」
キース君がそれらの謝罪を受け取るように片手を上げると広場は大きな拍手とお礼の合唱の波に包まれた。
もう誰一人として勇者を拒否する言葉は吐かなかった。
宿に着くとキース君は私の腕を引っ張って部屋に向かう。
へにゃ?どどどどうした!?キース君???
途中ネイビーちゃんが私から魔法の竹ボウキ君を回収した。
《お前達、あれは止めなくていいのか?》
「お互い馬に蹴られたくはないの。」
「まだ一線を越えるのは許さないけどね?」
ベリル君は後ろで含むような苦笑いをしているが、二人共キース君を止めようとはしない。
もどかしげに部屋のドアを乱暴に閉めるとキース君は私を壁に押し付け抱きしめるように覆いかぶさった。
むぎゃあああああああ!!
これはアレですね!ソレですね!コレですね!
流石の私も察してしまいましたよ!!
「ミルフェ。好きだ。」
そうキース君は甘く熱のこもった言葉を吐いて。
優しい瞳で私を見つめて、そのまま壁に押し付けるように
強く私の唇を奪った。
私の心臓が破裂しそうな悲鳴を上げて思わず逃げようと身をよじった時、ふと私の頬に温かいものが落ちた。
キース君は泣いていた。
驚く私にキース君は泣き笑いの顔で口を開く。
「違うんだ、ミルフェ。」
違う?
「ああ。幸せなんだ。俺は幸せだから。嬉しくて涙が出るんだ。」
嬉しくて、泣く?
「この世界に生まれて、良かった。勇者として生まれて、良かった。君に会えて、良かった。ネイビーやベリル、魔法の竹ボウキに会えて、良かった。」
そして僅かに震えながら思いを込めて、彼は言った。
「ハーフエルフに生まれて、良かった!」
「キース君....!」
「君があの日、あの王宮の庭園で。ありのままの俺でいいと、そう言ってくれた時からもう俺は救われていたよ。ハーフエルフである事に何の偏見も持たない、そんな人間もいるのだと、教えてくれた。」
キース君、キース君。良かったね、良かったね。
生まれてきて良かったって思えたんだ、今回の君は。
もうこんな世界で生きていたくない、もうそう思う事はないんだ。
私はどうしようもなく溢れてくる喜びに打ち震える。
私はね。今やっと自分の気持ちに気づいたよ。
君が嬉しそうだと私も嬉しいよ。
君が悲しそうだと私も悲しいよ。
今泣いてる君を見るとどんな事をしても笑って欲しいよ。
だから。言うね?
「私もキース君が好き。女神様の使命なんて関係なく、大好き。」
「女神様の使命?」
不思議そうにピコンと耳を傾けて聞くキース君が、堪らなく愛しくなって。その全部をはぐらかすように私は彼にキスをした。
ーー勇者はもうこの先、どんな事があっても
永遠に絶望なんてしないだろうーー




