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「そろそろ時間じゃないですか?」
原田はそう言って
「君島、ヘルメット借りるぞ」
と続けた。
君島のヘルメットにもファンデーションをつけてやる。
ざまぁみろ。
帰りに「浅井さん」に一万円を渡され、つい「領収書要りますか?」と言った。
筆記用具を持っているつもりだった。
しかし言ってから無いことに気付いた。
さっき、これから学校だしな、と言ったので学校に行く途中のような気がしていたのだ。
違うだろ。俺ほぼ手ぶらで君島を迎えに出ただけなんだ。
その原田の様子を見て「浅井さん」がニヤリと笑う。
「今度会う時ちょうだい」
会うのかよ……。
原田はまた顔を顰めた。
でももう乗せないぞ。
「浅井さん」を降ろして、原田は結局また君島の部屋に戻った。
ヘルメットが邪魔だからだ。
「浩一が浅井さん乗せるとは思わなかった。知り合いなの?」
原田は無言で君島を睨み下ろす。
「浅井さん、かっこいいんだよね~。可愛いところもあるけどね。で、どこで知り合ったの?」
「店の客」
君島がなにやら含み笑いをしている間に原田はヘルメットを台所に置いて帰ろうとした。
「浅井さんは僕をそんなに好きじゃないんだってさ。だから友達なんだって」
「あそう。じゃ」
立ち去ろうとした。
「お金いらないの?」
引き返した。
「浩一は?僕は浩一の金づる?」
二千円を渡しながら君島が尋ねる。
「そんなに金持ちなのか」
原田が答えた。
君島は笑い出し、原田は顔を顰めて首を捻った。
※次はこの1年前の出来事『猫と金髪』です。