第16話 不良品回収ありがとうございます
この日、ふと思い立ったように街へ出かけた。
城へ何日も篭もりっぱなしでは、息が詰まるし肩が凝る。気分転換も大事だと、足取り軽く城を出た。
言い訳がましく言っているが、単に行きつけだったカフェが恋しくなっただけ。
小耳に挟んだ情報だと、新作ケーキが出たとか出ないとか……
『新作』『限定』その言葉にめっぽう弱い。こればっかりは仕方ない。
そんな訳で、上機嫌に鼻歌なんかを歌いながらカフェ目指して歩いていた。
頭の中は新作のケーキの事で頭が一杯で、添えるお茶は何にしようか悩むところ。
濃厚なチョコだったら少し渋みのあるダージリン?柑橘系だったら爽やかなアールグレイ?
こうして、道すがら考えるのも楽しみの一つ。
悩んでいる内にカフェに到着し、扉に手をかけようとしたら、カランカラン…と内側から扉が開き、人影が見えた。
「あらぁ?ツェスカ様じゃないですか」
目が合うなり、下卑た笑みを向けてきたのは、オズワルドを寝とった女。
(確か、ジェシとか言ってたっけ)
小柄で愛くるしい感じではあるが、纏っている雰囲気からは性根が悪い事がひしひしと伝わってくる。
「私、ずっと謝りたかったんです。オズワルド様をあんな形で奪ってしまって申し訳ないと……そのせいで婚約破棄されちゃったんですよね?お可哀想……」
白々しく涙を拭う仕草を見せているが、涙なんて一滴も出ちゃいない。そもそも、自分のせいだと口にした上での同情は、相手を見下しているとしか思えない。
パン屋の娘が貴族令嬢に対して随分傲慢な態度だが、身分に屈しない態度は嫌いじゃない。
「別にいいわよ。むしろ、あの男の本性を自分の身で教えてくれんだから、感謝しているぐらいよ」
嫌味ぽい言い方だが、間違ったことは言ってない。
私があまりにも冷静な態度を示してきたので、ジェシは面白く無さそうに顔を歪めた。
「は、強がりは醜いですよ?オズワルド様とヨリを戻したいって縋っているらしいじゃないですか」
「……は?」
ちょっと待って。誰が誰に縋ってるって?
「オズワルド様が言ってましたよ?私と一緒になる為に婚約を破棄したのに、ツェスカ様が納得してくれていないって。次期伯爵をチラつかせてヨリを戻そうとしているんですよね?いい加減、現実を見てもらって良いですか?貴女はフラれたんです。引き際間違える人ってみっともないですよねぇ?」
ほくそ笑みながら蔑み言う。
(この子は何を言っているの?)
いつ、私が彼に縋った?いつ、私が彼にフラれたって?何処から突っ込んでいいのか分からず、ただただ開いた口が塞がらない。
「あの御方は私が幸せにします。大人しく身を引いてください。負け犬さん?」
耳元で『負け犬』なんて言われたもんだから、目がカッ開いた。流石にそれは黙ちゃいられない。
フゥと小さく息を吐き、出来るだけ感情を表に出さず「貴女ね──」と口を開きかけたが、すぐに大きな手で口を塞がれた。
「お待たせしました」
「リオネル殿下!?」
私が確認する前に、ジェシが声を上げた。
「ふふっ、面白い噂が一人歩きしているようですねぇ?」
私に視線を向けてくるが、口を押さえている手は離れない。お前は黙っていろって事なんだろう。
「貴方が彼から何を聞かされているのかは知りませんが、ツェスカは僕のものです。近々、婚約発表も予定しておりますし」
(ん?)
「そんなのウソよ!」
「おかしな事を言いますね。当事者の僕が言っているのに何故、貴方が決めつける事が出来るんです?」
「ッ!」
正論で言い返され、ジェシは顔を赤らめ醜く顔を歪めている。
「夢に溺れている貴方に一つだけ、教えて差し上げましょう。ツェスカが本当に愛しているのは僕です。愚息に未練があるなんて、嘘でも耳にしたくないのでね」
淡々とした口ぶり言っているが、言葉に怒りが滲んでいる。そんなリオネルの圧に押されたジェシは怯み、反射的に一歩引いていた。
リオネルは私に視線を向けると、口を塞いでいた手をゆっくり離した。私の口から追い討ちを掛けろと言う意図が伝わってきた。
(腹黒さは王妃様譲りといったところか)
呆れるように息を吐き、ジェシに向き合った。
「殿下の言う通り、あの人に未練なんて1ミリも感じてないから安心して。見ての通り、私の隣は埋まってるの。貴方を憎む事もない。むしろ、不良品を回収してくれて有難いぐらいね」
リオネルの腕に自分の腕を絡ませ、見せつけるように言ってやった。少し大人気ないかな?とも思ったが、立場というものを分からせるのには丁度良かった。
このまま大人しく帰って、オズワルドに慰めてもらえばいい。そう思っての言葉だったのに
「あはっ、可哀想なツェスカ様。殿下が貴女なんかに本気になる訳ないじゃないですか」
どうしても自分の負けを認めたくないのか、ジェシは現実を受け止めようとしない。
「どうせすぐに飽きられて捨てられるわよ」
「……」
相手がリオネルなだけに、説得力がない事は承知している。唯一の誤算は、この子のメンタルの強さ。
「はぁ~……別に貴方にどう思われようと、痛くも痒くもないから好きな様に捉えてくれていいわよ。でもね、引き際を間違えるとみっともないわよ?」
クスッと微笑みながら、数分前にジェシが言い放った言葉をそのまま伝えてやった。
「~~~ッ!」
会心の一撃に、流石のジェシも言葉がない。
「ほら、これ以上醜態を晒す前に帰ったら?」
チラッと周りに目を向ければ、騒ぎを聞きつけた人が集まっている。
王太子と伯爵令嬢を相手に言い争っていりゃ、人集りだって出来る。当然、ジェシの事を知っている者も……
「な、何よ!親切で忠告してあげたのに!もう知らない!」
ジェシは、嫌味ったらしく吐き捨てると、隠れるように人の波へ消えていった。
「……色んな意味で怖いもの知らずですね」
ジェシの姿が見えなくなると、リオネルがポツリと呟いた。
「本当に参ったわ。親でも殺したんかってぐらいに敵意丸出しなんだもんなぁ」
頭を掻きながら、うんざりと呟き返した。
「……で?貴方は何故、そんな姿してんの?」
「おや?」




