第14話 護衛に気をつけろ?
「まずは一つ目…と言ったところでしょうね」
執務室に戻った僕は、テオドラとこれからの事について話し合う事にした。
「まあ、出だしは好調。……と言いたいとこだが、向こうさんはそう簡単には納得しないだろうな」
「えぇ」
テオドラが危惧するように、隣国の遣いの者らは納得はしていない。……というより、手に入ると思っていたコレクションを奪われたことを知られるのが怖いと言った表情だった。
(それに、大臣の方も……)
反対の意見を強く示してきたのは大臣のグレム・パーシング。この婚姻を取り決めた張本人。自分の取り決めたものを簡単に覆されたんだ。反対するのは当然のことだと思うが、あの眼……殺気を放ちながら僕を睨みつけて来た。あれは、恨みや悔しさではない。……あれは、支配欲が剥き出しになっていた。
(少し調べた方が良さそうだ)
テオドラも引っかかる事があるのか、視線が合うと軽く頷いた。
「こうなってくると、嬢ちゃんの周りも気を付けた方がいいぞ」
「そうですね。注意したことに越したことはありませんから。早急に手を打ちましょう」
「へぇ?」
テオドラの言葉に乗っかっただけなのに、ニヤニヤと気持ち悪い笑顔を向けられ「何です?」と不機嫌を顔にだしながら声をかけた。
「いや、お前が他人を心配することなんてあるんだな」
「……僕をなんだと思ってるんです?心配ぐらいしますよ」
「今まではしなかったろ?女共がお前を取り合って、エグイ争いしてても知らん顔で止めもしなかっただろうが。あれ、止めるの大変だったんだぞ?」
まだツェスカと出会う少し前、複数人と遊んでいた女性らが城へ押しかけ、言い争いを始めたことがあった。自分が一番僕の事を想っているだの、僕は自分のものだの好き勝手言い放題。その内、一人が手を挙げた事で言い争いが乱闘に変った。
こんな状態で、僕が仲裁に入ったら火に油を注ぐことになるだけ。この場合、静観している方が被害が少なくて済むと思い黙っていた。
まあ、すぐにテオドラ達騎士らが駆けつけてその場を収めたが、その件がきかっけで隣国行が決まったと言っても過言ではない。
「嬢ちゃんの事だ。並みの相手なら大丈夫だろうがな」
「彼女は強いですからね。多少の事では動じませんよ」
「それが裏目に出る場合もある」
「その為に我々がいるんです」
テオドラはフッと微笑み「そうだな」と呟いた。
***
「──という訳で、護衛を付けようと思います」
リオネルは私の部屋に入って来るなり、自己完結した口調で言ってきた。
あまりの事にあ然としたが、すぐに我に返り大きめの溜息を吐いた。
「『という訳で』じゃないわ。なに勝手に回想しただけで説明した感じになってんです?私にはまったく説明されてませんが?」
「大体想像はつくかと」
「つかんわ!」
私を神か何かと思っているのか?
……違うな。これは、揶揄ってるだけだ。リオネルの顔を見ればよく分かる。嬉々として瞳が輝いている。私が言い返すのが面白くてわざとやってる。
「団長様。説明を」
これは後ろに控えている奴に聞いた方が早いと、テオドラを睨みつけながら説明を求めた。
「あ~、先に言わせてもらうが、俺はちゃんと説明しろと言ったからな。共犯じゃないぞ」
テオドラは先に弁解してから、一連の経緯を説明してくれた。
リオネルの隣国への婿入りの話は一旦白紙になったこと。隣国は納得しておらず、きっと何か手を下してくるであろうこと。それに関して一枚咬んでいるであろう大臣の事。
「嬢ちゃんは精神的、心理的攻撃はいける口だが、物理攻撃となると脆い。そこで、嬢ちゃん専属の護衛として──」
テオドラが視線を向けると「初めまして」と優しい声色の女性が現れた。
漆黒の髪を靡かせたプロポーション抜群の美ボディ美女。女の私でも思わず目が奪われるほど。
「私は殿下の影であるハオラン。普段は諜報として各国を回ってるの。ツェスカちゃんって呼んでいい?」
視線を合わせながら言われたが、妖艶な雰囲気に酔ってしまい、頷くのが精一杯。綺麗な深紅の瞳に私の顔が映っているのが見える。ジッと見つめられたまま、赤い花ように、赤く美しい唇が近づいてくる。
柔らかな息が、唇に当たる……
「ツェスカ!」
寸前のところで我に返ると、いつの間にかリオネルの腕の中にいた。
「やり過ぎだ」
ゴンッと鈍い音と共に「痛ッ!」という声が聞こえた。
「何すんねん!?ちょっとした冗談やんけ!本気でキスしたりせんわ!まあ、ワンチャンいけちゃう?とは思うたけど」
「ほぉ…?」
テオドラに首を絞められ悶絶するハオランに、先ほどまでの妖艶の雰囲気は欠片も見られない。何が何だか分らず、呆気に取られて言葉すら出てこない。
「ごめんな、嬢ちゃん。俺の説明不足だった。コイツはこんなナリをしてるが生物学的には男なんだ」
「え!?」
得意気にピースサインしているハオランを半信半疑で見るが、どこからどう見ても綺麗なお姉さんにしか見えない。
「ハオランの特技は変装なんです。性別や容姿を自在に変えては、他国へ潜入しているんです。私達ですら彼の本来の姿が本物かどうか正解が分かりません。唯一分かっているのは男性だという事だけ」
「全部を曝け出さず、謎多き男の方がミステリアス感が出てモテるやろ?」
にわかには信じられないが、どうやら男という事は本当らしい。ま、モテるかどうかは私の知るところじゃない。
「リオネルほど女癖は悪くないが、一応気を付けてくれ」
「護衛に付ける人材間違ってない?」
食い気味に言い返した。
なに?護衛に気を付けろって。初めて聞いたんだけど。
戸惑いが隠せず、言葉を失っている私の肩をリオネルが抱いてきた。
「大丈夫ですよ。私のものに手を出そうなんて馬鹿は部下にはおりません」
「今までのやり取り見てた?」
数分前にキスしようとした前科ありなだけに、まったく信用出来ない。リオネルの言葉通りでいけば、この人馬鹿でしょ。
「言いたいことは分かる。だが、ここはどうにか飲み込んでくれ。コイツの腕に勝る奴が他にいないんだ」
「そうそう。私に任せておけば大丈夫よ」
長い指先で私の顎を持ち上げ、いい女モードで落としにかかってくる。
中味は男だと分かっているのに、視界で捉えるのは美しく華々しい女性。頭で理解するよりも、視界から受ける威力が強すぎて、拒否したいのに拒否できない。
「ぐぐぐ……」
しばらく葛藤してみるが、やはり目を奪われたらこちらの負け。諦めたように頷いた。




