第11話 そんなの傀儡じゃん
「大変失礼しました」
ようやく落ち着きを取り戻し、私は解放された。時間は数分程度だったが、体感的には何時間にも思えた。
「まったくですよ。私は貴方と違って異性の耐性がないんで勘弁してください」
顔を赤らめ、気まずそうにしながらも強気な態度は崩さない。なぜなら、この人に少しでも隙を見せるのはなんとなく癪だから。
「ふふっ、私が教えてあげましょうか?」
「……そういうとこですよ。少しは学んでください」
そんなことを軽々しく言うから、勘違い女が湧いてくるんだと助言してやった。
「そうですね。すみません」
(お?)
素直に謝られ、ちょっと拍子抜け。
先ほどの様子といい、なんかいつもと違う感じがする……悩みがあるなら聞いてやりたいが、それは私が聞いていいものなのか悩まれるところ。王太子が悩む事と言えば、国の事と自身の結婚の事。国家機密なんて話されても困るし、結婚となれば更にデリケートな部分。
(ん~~~……)
険しい顔をしながら首を傾げていると「ふはっ」とリオネルの吹き出す声が聞こえた。
「全部漏れてますよ」
「え!?」
しまった。またやった……と自分の失態を反省はするが、時には開き直るのも大事。ジッと構えてリオネルの言葉を待った。
リオネルは苦笑しながら、ゆっくりと口を開いた。
「……私は、近々隣国の女王の元へ婿入りさせられるんです……」
「は?」
女遊びばかりを繰り返すリオネルに陛下が見切りをつけたらしい。今後は、女王陛下のコレクションとして生きていくと……
「身から出た錆……仕方ない事なんです」
「笑ってもいいですよ?」なんて言われるが、笑える訳ない。……だから『時間がない』だの『最後』だのを強調してたのか。
(時折見せる寂しげな表情はこれが原因か)
ようやく納得できた。
「……貴方はそれでいいの?」
「私のようなものでも、国の為になるのなら本望ですよ」
そんな無理やり作った笑顔を向けられても説得力がない。
確かに、この人はどうしようもないクズで下衆だと思う。でも、この人にも意思はあるし心もあると思う。
「国の為って言うけど、私は貴方を犠牲にしてまで良くした国になんて住みたくありません」
「え?」
「あ、勘違いしないでください。これは私個人の意見です」
王族なら国をよくする為の結婚なんて当たり前。それは分かってる。けど、これは違うでしょ。
(ただの生贄じゃん)
気に入った男をコレクションにする?この人も大概だけど、相手の王女様の方がヤバいでしょ。人生終わるどころの話じゃない。
「……貴女は本当に……」
「え?なに?また声に出てた?」
「いいえ。顔を見れば何を言いたいか分かりますよ。貴女は分かり易いですから」
「ウソ!?」
リオネルに指摘され、慌てて顔を手で揉んで表情を変えようとする。その姿をリオネルはクスクス微笑みながら見ていた。
「……そうですね。本音を言えば、行きたくない」
目を伏せ、自分の気持ちを話し出した。
「おかしいですよね。覚悟は決まっていたんですよ?……でも、貴女に会って……一緒にいるようになって、もっと一緒にいたいと願うようになってしまった」
「……」
「自分の行いが招いた事なのに、行きたくないなど自分本位で呆れてしまいますよね?」
自嘲するリオネルを黙って見つめた。私の情を引く為の嘘かもしれないが、不思議と嘘はないと感じた。
とはいえ、これは国同士の結婚。リオネルの本音を聞いたところで私に出来る事など何もない。いつもの私なら「自業自得だ」と言って嘲笑っているが……
「貴女を貰うと大口を叩いてしまいましたが、それも叶いません。……貴女をまた独りにしてしまうのが唯一の心残りですね」
辛そうに苦笑して見せるリオネルに、私はキュッと唇を噛みしめた。
別にこの人が誰と結婚しようが関係ない。私を貰うって豪語してた癖に、本当は既に結婚が決まってたって知っても別に何とも思ってないし……独りになったからって別に……
「……ふざけんなよ……」
息を吐くように自然に言葉が出た。
「私を独りにさせるのが嫌なら、行かなきゃいいだけでしょうが!」
「しかし……」
「私への気持ちはその程度なの!?少しは上に楯突くぐらいの男気見せてみなさい!」
指を突き立て檄を飛ばした。
「それに、貴方は私のものなんでしょ?」
「!」
ニヤッと悪戯な笑顔を向けて言うと、目を見開いて驚いていた。
私を貰う代わりに自分を貰ってくれと言ったのはそっちの方だからね。何を驚くことがあるんだか……
「ふん」と鼻を鳴らしてやると、リオネルから「フッ」とようやく笑みがこぼれた。
世話の焼けると一息付きながら安堵していると、腕を掴まれ力一杯に引かれた。
「え」
気が緩んでいる時に腕なんて引かれたら、そのままなすがままに倒れ込むに決まってる。で、倒れた先はリオネルの胸の中。
「そうでした……私は貴女のものです。そして、貴女は私のものです。誰のものでも無い私だけの……」
力一杯に抱きしめられながら、囁くように呟かれた。




