酔ったレオンハルト(一)
「大丈夫ですか? レオンハルト様」
「ああ……問題ない」
(それにしては目が合わないけれど……)
瞳を潤ませ、頬を赤く染めながら、ぼんやりとした様子で床を見つめるレオンハルトに、ルシアナは水を差し出す。レオンハルトはどこか気だるそうにそれを受け取ると、飲まずにぼうっと水面を眺めた。
(こんな風に酔っていらっしゃるレオンハルト様を見るのは初めてだわ)
義父は大丈夫だろうか、と思いながら、ルシアナは少し前のことを思い出す。
義母のユーディットからプレゼントを貰ったあと、少し話をしてから部屋に戻ったのだが、しばらくして、「ディートリヒがまだ帰って来ないがレオンハルトもか」とユーディットが訪ねて来た。
ユーディットに連れられ二人のいる談話室へと行くと、そこにはすっかり酔いの回ったレオンハルトとディートリヒがいた。
レオンハルトもディートリヒもとても柔らかい表情を浮かべており、いい時間を過ごせたのだろう、とルシアナは思ったが、ユーディットは「飲みすぎだ」と二人を叱った。
ユーディットに叱られた二人は同じようにどこかしょんぼりとしながら解散し、ついさっき、部屋に戻って来たところだった。
戻ってくる途中、足元が少々ふらついていたため、ユーディットの言った通りずいぶんと飲んだのだろう。
(お義父様も頭が揺れていたし……明日、二日酔いというものにならないかしら)
レオンハルトはよく好んで酒を飲んでいるが、“酔っている”という状態になったのは見たことがなかった。そのため、酔っている人への対処法がわからず、ルシアナはどうしたものか、と首を捻る。
(水分をたくさん取ったほうがいいと聞いたことがあるから、お水を渡したけれど……)
ベッドに腰掛けたレオンハルトは、先ほどから微動だにしていない。
水分を取るよりも早々に休んだほうがいいかもしれないな、と判断したルシアナは、中身が少しも減らないグラスに手を伸ばす。
レオンハルトもいらないのだろう、とグラスを取ろうとしたルシアナだったが、グラスに指先が触れたところで、レオンハルトにその手を掴まれてしまった。
触れる彼の手は、普段と比べてずいぶんと熱い。
「レオンハルト様?」
窺うように名を呼べば、彼は下げていた視線をゆっくりと上げた。潤んだシアンの瞳に上目遣いに見上げられ、どきりと胸が高鳴る。
「ルシアナ」
「はい……」
熱っぽい声に名前を呼ばれ、ドキドキしながら返事をすれば、レオンハルトに腕を引かれた。
「飲ませてくれ」
「……え?」
「ルシアナが飲ませてくれ」
グラスを持ち上げながら、あ、と口を開けたレオンハルトに、ルシアナは淡く頬を染める。今が冬で、今いる場所が雪深い地域だということを忘れてしまいそうなほど、体温が上がった。
ルシアナは、震える手を一度握り込むと、レオンハルトからグラスを受け取り、水を口に含む。待ち構えるレオンハルトにそっと口付け、水を流し込むと、少しの隙間から舌が捻じ込まれた。
「ぁ……」
彼の熱い舌とともに、アルコールの匂いがふわりと口内に広がっていく。その香りだけでルシアナも酔ってしまいそうだった。
「ルシアナ、もっと」
舌をひと絡めしてすぐに顔を離したレオンハルトは、ルシアナを抱き締めると、再び口を開けた。その甘えた様子にルシアナの胸は甘く高鳴り続け、考えるよりも先に行動に出ていた。
「ふ、ん……」
グラスの水がなくなるまで口移しと口付けを繰り返せば、レオンハルトは空になったグラスを素早く取り、床に置いた。それに驚く間もなくベッドに押し倒され、ルシアナはただ目を瞬かせながらレオンハルトを見上げる。
(……酔っていらっしゃってもさすがの身体能力だわ)
どこか現実逃避のようにそんなことを考えていると、レオンハルトは口元に緩い笑みを浮かべながら、ナイトドレス内に手を侵入させた。
「ルシアナ……」
レオンハルトは、ふくらはぎ、太腿、とゆっくり手を這わせていく。
(ま、まさかこのまま……? 酔っているときに激しい運動はだめだったのではないかしら……!?)
レオンハルトに求められるならできる限り応えたいが、さすがにそれは状況によるだろう、と彼を制止しようと口を開く。けれどルシアナが何かを言うより早く口を塞がれ、彼は甘く口を食んだ。
「舐めたい、ルシアナ。だめか?」
「えっ――ッんん」
「ルシアナ、だめか」
彼の手の動きに、じわりと官能が高まっていく。
彼が何を頼んでいるのか、尋ねなくてもわかる。わかるくらいには、彼にたくさん愛でられてきた。
(けれど……でも……)
酔っているレオンハルトに行為を進めさせていいのかわからないし、舐めていいと許可を出すのも恥ずかしい。
(ふ、普段はそのようなこと尋ねられないのに……)
顔を赤らめながら、どう答えるべきか迷っていると、レオンハルトはわずかに眉を寄せた。
「ルシアナ。舐めたい」
まるで子どもが駄々をこねるように同じ言葉を繰り返すレオンハルトに、ルシアナは一拍置いて、小さく頷いた。
「舐めてもいいのか?」
ふわりと微笑みながら、なおも尋ねてくるレオンハルトに、顔がさらに熱を持つ。
これは自分が言葉で答えるまで続くかもしれない。
そんな予感に、ルシアナは震える唇をおずおずと開く。
「……はい。その、どうぞ……」
“どうぞ”というのも少し違うかもしれないな、と思いつつ、羞恥に濡れた瞳で彼を見返せば、レオンハルトは上体を起こし、小首を傾げた。
「貴女からねだってくれ」
「……え」
「スカートを持ち上げて、『舐めてほしい』とねだってくれ」
その顔には、いつもより穏やかな微笑が浮かんでいる。
以前にも、自らねだるよう誘導されたことがあったが、これほど直球には言われなかった。
(本当に酔っていらっしゃるのね)
そう実感するとともに、酔いが覚めたあと、彼が自身の言動を悔いないだろうか少々心配になる。一方で、いつも自分を優先してばかりのレオンハルトが、こうしてお願いしをしてくれるのが嬉しかった。
恥ずかしさはあるもののそれ以上に喜びが大きく、ルシアナはシュミーズごとナイトドレスのスカートを掴んだ。
「……舐めてください、レオンハルト様」
期待に、声が少しだけ上擦る。
レオンハルトは満足そうに笑むと、ゆっくりと上体を倒した。




