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座学も終わり、次は実践訓練の授業になる。
一度戦服に着替える為、寮部屋に戻る。
「はあ、ジャージが欲しい」
隊服のような、制服と一体何が違うのかと問いたくなるような、堅苦しい服だ。まあ、一つ救いなのは、戦服は男女で変わらないということ。制服同様ぶかぶかだったら、流石に動きづらい。
私は早着替えに関しては自慢できることなので、まだ誰もいない運動場に一人だ。
「おや、もういらっしゃるとは。早いですね」
五十代くらいのおじさん先生が、嬉しそうにニコニコしながら私を見ている。
「動くのは好きなので、つい。あ、セレス・コロールといいます」
「おお、君が例の。では、間違えて呼ばぬよう、気をつける必要がありますね。ちなみに、コロール殿は剣術の腕に自信がおありですか?」
剣術、魔法に関しては、娯楽が小説しかなかった私にとって、アニメとゲームに代わるもの。つまり、自信しかない。
「ありますよ。本気で戦えば先生にも負けません」
「ほほう。それはぜひとも一戦交えてみたい」
「いいですよ。先生がよければ今からでも大丈夫です」
一回倒してるし。
「ははは、そうしたいところですが、コロール殿を倒したところを見られ、怖い教師になるのは嫌ですし、仮に負けたとして、情けない教師と言われるのも遠慮したいところです。もしコロール殿も一戦交えてみたいと思うのでしたら、また時間を見つけてやりましょう」
「はい」
先生と話していると時間がある程度経ち、他の生徒もちらほらとやってきた。
「お、チビじゃねえか、早いな。てか戦服はぶかぶかじゃねえのか」
嫌な声がした方向に顔を向けると、案の定嫌な奴がいた。そして、何故か隣にパールもいる。ここでのイベントはないはずだから、おそらく大丈夫だと思うけど、少し心配。
「げっ、なんでいんの」
「セレス様、訓練は学年ごとの参加ですよ」
「そんなこと言ってたような言ってなかったような……。どうでもよすぎて聞いてなかった。ちなみにパール、この馬鹿に何もされてない? 大丈夫?」
私がパールにそう聞くと、困り顔で笑った。
「大丈夫ですよ。それと、謝罪はしてもらえました」
「だからハンカチ返せ。あと、話し相手が欲しいだろうから、娯楽小説も何冊か読んでやった。感謝するといい」
「何言ってんの? あんたが前々から娯楽小説が好きだって事くらい勘づいてるよ。むしろあんたが、話し相手になってくださいってお願いする側でしょ。わた、僕にはパールだけで十分だし」
馬鹿はまた顔をムッとしたと思うと、パールの肩に手を置いた。
「なら、俺がお前からパールの時間を奪ってやる。それが嫌なら、大人しく俺に従ってろ」
「何馬鹿な事言ってんだか。パールの時間は僕のものじゃないし、もちろんあんたのものでもない。パール自身のものだ。勝手にパールの時間を制限するな。あと、離せ」
パールの肩から馬鹿の手をどかし、パールを隠すように前に出る。
「あの、娯楽小説について話せる方が増えるのは喜ばしい事ですから、一緒に話しましょう」
「ほらみろ、俺と話せることが嬉しいってさ」
パール、こんな馬鹿の事を気にしなくていいんだよ。
「パール、こんな馬鹿の事を気にしなくていいんだよ」
おっと、ついうっかり心の声が漏れてしまった。
「なんだと? パール、お前よくこんな性格悪い奴と一緒にいられるな」
「それはこっちのセリフだ。パールをお前みたいな馬鹿から守るのに必死なんだよ」
「お、お二人とも優しくて頼もしい方ですよ。一度でいいですから、お互いを褒める事をなさってはいかがですか? そうすれば、自ずとお互いの良いところが目につくようになりますよ」
パールの一声で、私と馬鹿は顔を合わせた。
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