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第2話 毒殺未遂

「アノウ族デス……」

 

 侍女はそう答えた。アノウ族はリーグラードの山岳地帯に住む部族。確かに女性は結婚した相手以外に顔を見せない風習があった。


「そうか。慣れない土地だががんばって働いて稼げよ」


 そうケントは励ました。そして再び、書類に目をやる。

 リノと名乗った侍女はそっと部屋を出た。そして部屋を出るとほくそ笑んだ。


(ククク……バカ王子メ、ナントイウ危機感ノナサ。コノ我ノ変装ヲ見破レナイトハ……)


 侍女はケントを暗殺しようと潜入した暗殺者。ブラックハートの頭目リィである。

 彼女は闇巫女であるため、顔を異性には見せない。

 今は布で覆っているが、普段は仮面を被っている。その仮面はニケによって壊され、その時にケントに素顔を見られてしまった。


 それ以来、リィの魔力は低下した。魔神ズーファとの契約が切れてしまったのだ。

 ケントに顔を見られたことが原因だ。それだけではない。唇まで奪われてしまった。闇巫女としての不貞行為になる。

 相手のケントを殺さない限り、再契約は不可能だ。そしてその相手と結ばれない限り、ズーファの呪いで自分が死んでしまう。


 呪いの象徴である黒い模様はもう太ももまで来ている。早くしないとリィ自身も死ぬ。


「絶対ニ殺サネバ……」


 ケントと結ばれるということは結婚すると言うことだ。

 暗殺者の自分が一国の支配者とそうなることはありえない。そうしないとズーファの呪いからは逃れられない。リィはケントを殺すしかないのだ。


「我ガ偉大ナル神ズーファ様、今、奴ヲ殺シマス……」


 先ほど運んだお茶には毒を入れている。一口飲めば確実に死ぬ。

 リィはそっと部屋の前から立ち去った。数分もすれば城は大騒ぎになるだろう。

 その混乱に乗じて疾走する。

 雇われた侍女が犯人と分かった頃には、もうノースサンドリアを脱出しているであろう。



「主様、せっかくのお茶を飲まないのでゲスか?」


 吉音は侍女が去ってから、ケントがお茶を部屋にあった水槽に流したの見てそう聞いた。


「ああ。これを見てみろ……」


 水槽にはバステト族の土地に生息する小魚が飼育されている。

 鑑賞用ではない。こういう時に使うためだ。

 吉音が見ると魚は痙攣して水面に浮き上がった。


「こ、これは毒ズラ?」

「ああ、毒だ。あの侍女は暗殺者だ」

「主様は奴を知っているズラか?」

「まあ、ちょっとした腐れ縁だ」


 ケントはどこか余裕だ。暗殺者に狙われている割には恐れている様子はない。


「主様、油断は禁物ズラ。すぐに逮捕するズラ」

「いやいや、あいつは少し泳がせる。どうせ、ケンジントン公の指金。あいつを泳がせているうちは他の暗殺者の心配はしなくていいからな」


 そうケントは首を振った。ケントもバカではない。トパーズ色の瞳。銀色の髪。そして片言の話し方。

 ケントとニケを襲った暗殺団の頭目。ドリスの森で強力な魔法で攻撃してきたリィと名乗った魔導士である。

 ケンジントン公配下の暗殺団、ブラックハートのリーダーである、その能力は恐ろしいほどの魔力。

 もし彼女が能力を全開したのなら、歩兵一個師団でも抑えられないだろう。

 それが侍女に化けて目の前に現れたのだ。

 しかし、あの変装で気付かれないと思っているところがポンコツである。

 もしかしたら、暗殺技術以外はポンコツなのかもしれない。


 そう考えてケントは泳がせることにした。逮捕するのは簡単だが、相手は強力な魔導士である。正面から立ち向かえば、多数の犠牲が出る。


「だから泳がせる……」


 そうケントは宣言した。同時に吉音に口裏を合わせるように命じた。

 ケントは幼少の頃から毒に対する抵抗をつけているから死なないということにするのだ。これで毒を使った暗殺はなくなる。


 そうなると直接攻撃をしてくることになるが、それには十分な備えをする。


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