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第3話 公園で待ち合わせ

警備隊の騎兵小隊を率いるバーモント准尉は5年前にカリフに駐在していた。

今の彼の愛馬は白馬である。

彼は駐在時に白馬に乗った少年を見て、自分も白馬に乗りたくなり、5年間コツコツと貯金して購入したのだ。


(あの髭もじゃおっさんとデートするのは、俺の一生の恥だが、そうしないとニケの王子様の手がかりが聞けない。どうにかして、奴から白馬の王子様の話を聞く)


 ケントは決意した。情報を聞いてしまえば、もうこのおっさんには用はない。ケイトは消えてケントに戻ればそれでよし。

 哀れ43年間彼女なしのバーモントは、その記録を更新することになる。せっかく、勇気を出してケイトを口説いたのに失敗に終わる。


(多少、心は痛むがバーモントよ。40台で20歳の若い女を嫁にできるわけがない。お前のその挑戦は無駄であった)


 ケントはそう心の中でバーモントを憐れんだ。しかし自業自得である。ケントは転生前にお見合いパーティに何度も参加したことがある。

アラフォーだが大金持ちだったケント。しかし、容姿の問題と年齢でまったく相手にされなかった。同じような参加者もいた。


 アラフォーなのにやたら20代の女性に声をかけていた男。実に痛い奴であった。当然、全く相手にされない。声をかけられた女性はみんな苦笑いをしていた。

 こういう勘違いおっさんは、何度も失敗を重ねてやっとターゲットを同世代に照準を合わせるが、その時には同世代にも相手にされなくなる。


(バーモントよ、お前は間違っているぞ)


 ケントはそう思うことでバーモントを利用する罪悪感を忘れることにした。


「さて、変身するぞ。吉音、手伝ってくれ」

「仕方ないズラ。主様も女装が気に入って趣味にならないようにするズラ」

「なるか!」


 正直、女装した自分がちょっと気に入ってしまったので、吉音の冗談に慌てて否定をした。今回で止めないと癖になってしまいそうだ。

 吉音はオトワと共に王都から逃れ、カリフに滞在していた。

 すぐにノースサンドリアにいかず、NSD株式会社のカリフ支店の経営を視察させていたのだ。

 ケントはニケもこのカリフに連れてきている。相変わらず、無機質な鎧姿である。


「できたズラ」

「おお、相変わらず俺は美しいなあ」


 鏡を見て惚れ惚れとするケント。今はケイトだが、鏡に映る自分を口説きたい気分になる。


「相変わらずブスですね」

「わたしはよいと思います」


 ケイトになったケイトの容姿をオトワはデスり、ニケはフォローした。しかし、美人侍女にデスられると、変な鎧娘にフォローされてもケントの心は晴れない。

 そもそも獣人であるバステト族のオトワ視点で見るとケイトはブサイクであるが、人族の目から見ればケイトは美人である。理不尽としか思えない。


 これで少し短いスカート丈のワンピースを着用して、ケイトはカリフの中央広場へと出かけた。


 そこにはバラの花束を手に一杯抱えた中年髭ずらおっさんがいた。


(うおっ!)


 遠くでそれを視認したケイトは立ちすくんだ。周りはみんなおっさんを見ている。

 バーモントの服装はばっちりとリーグラード陸軍騎兵将校の礼装を着ており、周りから完全に浮いている。


(どんな女と待ち合わせ?)

(あのバラの花束、求婚でもするつもりかよ)


 噴水で待ち合わせをしているカリフの男女は、自分の待ち人を待ちつつ、ちらちらとバーモント准尉の方を見ているのだ。


「ぐあああああっ~。あそこへ行くのか、俺は行くのか~」

「行くズラ」


 吉音に冷たく言われて、物陰に隠れていたケイトはやむ得ず、一歩を踏み出した。

 公園のどこかでニケとオトワも様子を伺っているはずだ。


「くそ……どんな罰ゲームだ」

「あのおっさんから情報を聞き出すと言ったのは主様ズラ」

「そうだが、あれはない。痛いおっさんじゃないか!」


 そうケイトはバーモントを指さす。

 声はもろに男だ。気を遣ってはなせば、少しハスキーボイスな女の子の声は出せるが気を抜くと地は隠せない。


「主様もリーグラードにいた時は散々に痛いことをしていたズラ」

「俺は痛いことなどしていない。もてる男の普通の行動をしていたはずだ」


 ケントは自信をもってそう言ったが、痛いかどうかは相手の判断でもある。

 人によってはその行動が感動につながることもある。

 第3者がとやかく言うことではないだろう。


「そういうことにしておくズラ。今からは美少女になってあのおっさんをたぶらかすズラ」

「はあ~」


 吉音はそう励まし、オトワは小さくため息をついただけである。


「くっ……やるしかないか」

「がんばってください」


 ケントのことを励ましてくれるのはニケだけである。言葉はうれしい。声だけ聞けば美少女に思えなくもないが、異様な鎧姿を見るとうれしさは8割減である。


(それに……こいつが俺を応援するのは白馬の王子様のためだしなあ……)


 ニケがケントに期待しているのは白馬の王子様捜しなのである。

 それ以外では鎧の防御本能でケントは『狼男』か『カボチャ男』に見えるらしい。


 ケントことケイトは意を決して右手を上げてバーモントに手を振った。そして両拳を軽く握って左右に振って走る。


 いわゆる女の子走りって奴だ。吉音に特訓してもらって見につけた走り方だ。

 コツは歩幅に気を付けてスピードは出さないこと。一生懸命走っているがなかなか進まない感を出すことがポイントだ。


(め、めんどくさい!)


 なぜ女の子がこんな走り方をするのか、男のケントには分からなかったがケイトになってやってみると理解できる。


 まずケイトを見ているバーモントの目。

 もう可愛いものを愛でるオーラがにじみ出ている。

 動物に例えるなら獲物を捕まえようと突進してくるライオンの走りを見て可愛いとは思わないが、『こっちへおいで』の合図でトコトコ走って来る子犬は可愛い。

 

 全ての女の子がケイトのようにわざとやっているわけではないだろうが、演技だろうが素であろうがこれも一種のアビリティである。


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