第1話 人材募集
「ニケ、お前のおかげでうまくいった。礼を言う」
説明会が終わり、成功を勝ち取ったケントはそうニケに礼を言った。ニケの出したおにぎりと岩塩、海苔がなければここまでうまくいかなかった。
「故郷の国が豊かになるためにしたことです。王子のためにやったことではありません」
ニケはそう言った。先ほどの外れていた籠手のパーツは元に戻り、今は全身鉄鎧姿に戻っている。
(そうだろうなあ。こいつが俺のことを思ってやるわけがない)
ニケの行動の原動力はバステト族とアヌビス族の繁栄である。特に津波の被害にあったアヌビス族の領土の復興は緊急を要する。
「よし、資金は集まった。これで領土の改造に動ける」
ケントは集めた100万ディナールの金の使い道を考える。
道路の整備に20万ディナール。
バステト米の生産に3万ディナール。
岩塩の採掘場整備に5万ディナール、津波で破壊されたアヌビス族の土地への復興費用に50万ディナール……。
その他の投資に20万ディナール。十分な資金を得て動き出す。
労働力も戦争が終わり、バステト族、アヌビス族の若者たちだけでなく、周辺からも集められる。
人口が増えることで宿屋や食堂、他の娯楽施設が活況となり、ノースサンドリアが好景気にわくことになる。
「次は人材だな……」
ケントの領土には圧倒的に役人が少ない。能力のあるものを雇っているが、元々、バステト族やアヌビス族は字の読めない者も多く、行政を担う人材が不足していた。
「うちのような優秀な人材をスカウトするズラ?」
「お前のような金に汚い奴はこれ以上いらないがな」
吉音は優秀な侍従だが金でなびく者はいらない。国家、すなわちケントに対して忠誠心が厚い人間を多く集めたい。
これはケントが追放されて身に染みたことだ。金や地位よりもやりがい。この人に尽くしたいという心をもった家来を多く集めたい。
ケントが特に欲しいのは、それらの人々をまとめられるリーダー。国の宰相を担える人物や国の省庁をまとめられる人物である。
今は国王であるケントが全てを仕切っている。外交、財政、軍事、公衆衛生等、まだ国が貧しく小さいからなんとか回っているが、そのうち機能不全になることは目に見えている。
「そんな人物が主様に仕えるとは思えないズラ」
「……俺に考えがあるのだ」
実は宰相については目星をつけていた。今のノースサンドリアに必要な宰相は温和な調整役ができる人物。優秀でバリバリやる人間をその下で働かせれば、より活躍できるだろう。
そのナンバー2にあたる各大臣や次官、部長クラスの人間が大量に欲しいところだ。
ケントはカリフから東リーグラード王国の首都クロービスへ行くことにした。ケンジントン公が宰相を務めている長兄メイソンが王になった国だ。
「主様、そんなところへ行けば命が危険ズラ」
吉音はそう心配した。ケントはケンジントン公の陰謀でへき地へ追放されている。本当なら亡き者にされる可能性もあった。それなのに敵のお膝元へ行くのは自殺行為だ。
「心配するな。ケンジントン公は俺をへき地へ飛ばした。殺すこともできたが、それをしなかったということは生かしておく理由があったのであろう。公の場に出なければ見逃してくれるだろう」
もしケンジントン公がケントを殺そうと思えば、すぐにでも実行できる。刺客を送れば、護衛もいないケントはすぐに殺せるだろう。
それをしないということはケントのことをもう終わった男と認定しているからだろう。見くびっているうちは自由に動ける。
「ケンジントン公はそうかもしれないズラが、他の貴族はそうでないかもしれないズラ。東リーグラード王は主様のことをどう思っているか分からないズラ」
兄であるメイソンはケントのことをよく思っていない。脳筋だからケンジントン公の思惑など理解できないだろう。
自国に入ってきた目障りな弟を亡き者にしようと思う可能性は排除できない。
「大丈夫だ。偽名と偽の書類を使って潜入する。このカリフで準備できる」
すでに弟のローランドに頼んで吉音やニケ、オトワの分も作成している。
「それにニケの想い人は東リーグラードにいる士官かもしれないだろう。今回の褒美に捜してやろうと思うのだ」
「主様はあの鎧姫にこだわるズラ」
吉音はケントが変わったと思っている。相変わらず、女に節操のないゲス王子ではあるが、ニケに対して思いやりのある行動をしているのだ。
ニケが絶世の美女なら下心満載だろうが、美女どころか全身鎧のブサイク姫なのだ。




