婚約者の存在を知った部下の反応
英雄と呼ばれるようになってからは、三十歳を過ぎても独身を貫くレオランドに対して、人々は遠慮していた。
そんなレオランドに婚約者ができたと聞いて一番に驚いたのは、共に行動することが多い騎士団の部下たちだった。
「婚約者ができた」
鍛錬の合間の休憩所にてレオランドは話を切り出した。その場には部下の三人しかいない。
「団長、ついにやりましたね!」
「俺、てっきり団長は別の趣味がおありだったのではないかと思っていました……」
「ちょっと前までは『友人さえ満足に守ることができない男は、婚約する資格がない』なんてことを言っていたけど、考えを変えるようになったのはどうして?」
反応はそれぞれで、一人は猛烈にツッコミたくなったが、仕事第一で今までに浮ついた話もなかったことを思い出すと、そんな風に思われても仕方あるまい。
レオランドは気を取り直して、冷静に質問してきた部下……シュルツの質問に答える。
「確かに前にそんなことを言っていたな。だが、今考えてみると、ただの言い訳だった。どんな状況でも守りたいという覚悟が足りなかったんだ」
「……覚悟ができるような娘に出会えたということなんだ」
「そうだな」
「それはよかった」
シュルツが祝うと、レオランドは無意識に組んでいた手を解いた。
長年一緒にいる部下でさえ、一歩下がって意見を言うのに、婚約者のルナセーラは心の中に遠慮なく入り込んでくる。でも、それが全然嫌ではない。
「へえ……そんな娘さんがいるなら会ってみたいなぁ」
何気なく呟いた部下の一言に、レオランドは一瞬躊躇ったが話すことにした。
「いや、三人とも既に会っているぞ」
「……どこで!」
「どこのパーティで出会った人?」
「騎士団で会っているとなると、ある程度場所が限られてくるのでは」
「あぁ……」
矢継ぎ早に質問が返ってきて、レオランドは歯切れ悪く答える。
「……国境の視察で訪れた、宿屋の娘さんだ」
三者三様に記憶を遡っていくと、部下で一番若いリックがハッとして身を乗り出した。
「わかった。大歓迎された宿屋で女将の後ろにいた女の子だ!」
「あ、思い出しました。顔までは思い出せませんが」
「かなり若かったような……まだ十代じゃなかったか?」
レオランドに視線が集中する。男色疑惑の次は幼女趣味の疑惑か。
変に言い訳をしても逆効果なのは、経験上知っている。潔く認めよう。
「十六歳になったと言っていたな。歳の差は十六ある」
ルナセーラに比べて二倍も長く生きていることになるが、歳の差は面と向かって話している分にはあまり感じない。
きっと、宿屋の接客で年上の者と話をするのに慣れているからなのだろう。
「いいなぁ。団長は顔もいいから選び放題で」
リックは羨ましげに言って、テーブルに肘を着くと両手で頬を包み込んだ。
リックは恋人ができる度に周囲に報告しているが、数日後には別れて落ち込んでいることがしばしばある。その時に、「落ち込むぐらいなら最初から秘密にしていればよかったのに」とレオナルドが言うと、「この愛は本物だと思ったんだ」と不貞腐れたようにリックは言い返してくる。まぁ、恋は盲目になれるのだな。
「リックは団長を見習って仕事に集中しろ」
「だって……」
「だってじゃない」
部下のシュルツの鋭いツッコミに、へそを曲げるリックだった。
名前が出てきていない、どこか天然な部下の名前はエッカムです。